「イスラム国(IS)」が後藤健二氏と湯川遥菜氏を殺害した事件をきっかけに、取材であっても退避勧告地域へは行くべきでないという世論が高まっている。危険地帯の取材の意義とあり方について考えるシンポジウム「戦争と報道-なぜ危険地域を取材するのか」が4月12日、約130人が参加して大阪で開かれた。ベトナム戦争から今年のシリア・イラク内戦まで、長年にわたって危険地帯を取材した5人の気鋭のジャーナリストが意見を交わした。(中川波佳)
●危険地帯に入るからこそ見える
シンポジウムで登壇したのは石川文洋(フリーランス)、玉本英子(アジアプレス)、小林正典(フリーランス)、高尾具成(毎日新聞)、石丸次郎((アジアプレス)の5人。いずれも危険地帯を駆け巡ってきたベテランジャーナリストだ。
1960年代にベトナム戦争を従軍撮影した石川氏は、終戦40年後の今もベトナム戦争を語る理由について「戦争は全部殺し合い。そして、犠牲になるのは民間人。軍隊は民間人を助けない。ベトナム戦争の写真を理解すれば全ての戦争の分かるのではないかと思う」と話した。
それは、15年以上シリア、イラクを取材している玉本氏の発言と重なる。昨年12月に自身が撮影した「イスラム国」とクルド人勢力の戦闘地域の映像を見せながら「戦争では市民の水や食料がなくなる。ガスも電気もない。一般生活が全くできなくなる」と述べたうえで、「現地の人たちのことを知ってほしいと願いながら現場に出ている」と訴えた。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の契約フォトジャーナリストだった小林氏は、20年以上世界各地の難民を撮り続けた理由を「なぜ子供が銃を持たないといけないのという不条理を見てしまったから」と語った。
●政府と異なる視点が必要
紛争地の取材に対して、石川氏は「ベトナム戦争では最前線で取材することができたが、その結果米国で反戦運動が起こり米軍は撤退せざるを得なくなった。だから、米国政府としては自由に取材をさせたことが誤りだったと考えている。政府の考えていることとジャーナリストが報道することは違っていることが多い。これまた、違っていないといけない」と指摘した。
また、北朝鮮を取材している石丸氏は、「国家は紛争があると嘘をついてきた。あるいは隠し事をしてきた。だから国家と違う眼が、戦争、紛争地には必要だ」と述べた。(下)へ続く