シリア北東部のコバニ。戦闘と空爆で廃墟となり、人が住む空間はない。2014年12月、撮影玉本英子(アジアプレス)
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信頼していた人の無力さを目撃した子どもには、恥、幻滅、無力さといった感情が引き起こされる(19)。家族に対する激しい暴力を目撃した子どもは、自身が暴力の対象となった子どもよりも、より高い睡眠障害を示すこともあるという(20)。
自分の親や家族が殺されるのを目撃することは、子どもの記憶の混乱を招き、苦痛を強める最も強い要因となる。その子どもが、亡くなった両親について考えるとき、彼らが殺される光景-助けを求める叫び声、銃声、両親の遺体周辺の血の海-を思い出してしまう。
そのため、両親の想い出が恐怖を伴うようになり、子どもにとっては、慢性的な苦しみとなる(21)。さらに、戦争は、平和な時であれば親を失った子どもが享受できる社会の支援も奪う。
子どもたちが、両親のことを知っていた人々との接触をもてないことは、亡くした両親との内面的なつながりを築くことをより困難にする。紛争下では、大人たちも彼ら自身の苦しみと悲しみの中にあって、子どもたちに差し出すことのできる支援は限られている(22)。
暴力が日常となっている社会で成長した子どもたちは、乱暴で反社会的な行動をとる傾向があることが指摘されている(23)。子どもたちは、平和な社会における自らのモデルとなる大人像を知らないまま、暴力的な環境を自らの思考方法、記憶に取り込む(24)。(続く)
※本稿の初出は2014年6月発行の「京女法学」第6号に収録された、市川ひろみさんの論考『冷戦後の戦争と子どもの犠牲』です。
<<執筆者プロフィール>>
いちかわ・ひろみ
京都女子大学法学部教授。同志社大学文学部、大阪大学法学部卒業。神戸大学法学研究科修了。専門は国際関係論・平和研究。著書に『兵役拒否の思想─市民的 不服従の理念と展開』(明石書店)。共著に『地域紛争の構図 』(晃洋書房)、『国際関係のなかの子ども』(御茶の水書房)ほか。
<<【以下注】>>
18 Richard Goldstein, MD, Nina S. Wampler, MS, and Paul H.Wise, MD, “War Experience and Distress Symptoms of Bosnian Children”, Pediatrics, Vol.100 No.5 November, 1997, pp.873-875.
19 Cynthia B. Eriksson and Elizabeth A. Rupp, ‘Bereavement in War Zone: Liberia in the 1990s’, James Marten ed., Children and War: A Historical Anthology, New York University Press, New York and London, 2002, p.241.
20 Samir Qouta, Raija-Leena Punamaeki, Eyad Sarraj, Child development and family mental health in war and military violence: The Palestinian experience, in International Journal of Behavioral Development 32, 2008, p.311.
21 Eriksson and Rupp, op.cit., p.94.
22 Eriksson and Rupp, op.cit., p.91.
23 紛争が続くなかで子どもたちが、どのように変化するかについては、ドキュメンタリー映画『アルナの子どもたち』ジュリアノ・メール・ハミス監督、イスラエル、2004年。パレスチナのジェニン難民キャンプで、劇団で明るく活動していた子どもが数年後には自爆攻撃を行う姿を捉えている。
24パレスチナでは、就学前の児童は英雄的な戦士像に同化し、家族と国家を守る全能のファンタジーを遊びの中で表現していた。青少年になると、英雄的な戦士になるとうファンタジーは、アイデンティティーの形成に影響を与え、自らが戦争に参加するために利用する様子が見られた。Raija-Leena Punamaki, Concept formation of war and peace, Amiram Rvivi, Louis Oppenheimer”, Daniel Bar-Tal ed., How Children Understand War and Peace, Jossey-Base Publishers, San Francisco, 1999, p.133.
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