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311緊急シリーズ「福島第一原発事故から6年」   「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」前編

イ)の「データが不十分」というのは、実測値がわずか1080人分しかないからだ。「不確か」であることは、「検討委員会」が評価の判断に使った床次眞司氏(弘前大学被ばく医療総合研究所教授)の資料にも、「甲状腺線量の推定には様々な不確かさが伴う」と明記してある。

驚くことに、「世界保健機関(WHO)の推計値は、厚生労働省が修正を働きかけて下げられた」という報道があった。例えば、浪江町(図5のグループ1に該当)の乳児の甲状腺推計被曝量は、WHOの草案にあった300〜1000ミリシーベルトから100〜200ミリシーベルトに下げられたという。
その修正された推計値よりも、床次氏が引用している「国連科学委員会(UNSCEAR)2013年報告書」の推定値(図5赤線)は、さらに低いのだ(1ミリグレイは1ミリシーベルトに相当)。

図5:環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成27年度版)」(173頁)
図5:環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成27年度版)」(173頁)

ちなみに、「国連科学委員会2013年報告書」については、「福島の被害を過小評価している」という内部論争があったことが、欧州で報道された。日本の専門家や環境省はこの報告書を政策の拠り所としているが、独仏米など19か国の医師団体からは、厳しい批判声明文が出されている。

ロ)については、前出の尾松氏による「原発から500km以上離れた甲状腺の推定被曝線量が低いロシアの地域でも、小児甲状腺がんが増加した」という報告がある。
そもそも、放射線量には「これ以下なら危険はないというしきい値は存在しない」ということを考慮して、汚染が少ない地域であっても発症を想定しなければならない。世界の放射線疫学者の間では、レントゲンやCT検査によるわずかな線量の被曝でも、子どもの発がんリスクが高まることは、すでに常識だといわれているからだ。
たとえ被曝線量は不明でも、チェコやオーストリア、ベルギーなど広範囲の国で発症したことに留意するべきだろう。
そのうえ、チェルノブイリ後に成人も含めて欧州で増加した疾患は、甲状腺がんだけではない。だからこそ、すべてのがんや非がん疾患の調査を、日本の汚染地域全域の全住民対象に、早急に実施しなければならない。

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