福島県立医大の緑川早苗准教授(甲状腺検査を巡るコミュニケーション担当)は、「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重されます」と、2015年から学校で子ども向けの「出前授業」を始めたという。
これを知った前出のアレックス・ローゼン医師は、「両親や子どもたちが、医大の策略を見抜いて、検査に参加し続けるという希望がまだ残っている」という異例の声明を2016年の夏に出した。
しかし、すでに2016年4月から始まった三巡目の検査からは、検査に同意する希望者だけが対象になってしまった。
その一方で、神谷研二放射線医学県民健康管理センター長が、甲状腺検査と健康診査を受診するよう呼び掛けて受診率の低下を止めようとする、矛盾した動きもある。
そもそも、健康調査の主体はなぜ日本政府ではなく福島県なのか。
甲状腺がんを防ぐための安定ヨウ素剤の配布や服用を指示する立場でありながら指示を出さず、医師が処方しても回収するなど服用の妨害までした福島県に、調査を任せること自体がおかしくはないだろうか。
「秘密会」を繰り返したり議事録を改竄したり、「検討委員会」の不透明な組織の実態が、毎日新聞記者の日野行介氏によって明らかにされたことも、付け加えておかねばならない。(「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」)
●国連人権理事会からの苦言
2012年11月という早い時期に、福島県県民健康調査(当時は健康管理調査)の見直しを訴えたのは、国連人権理事会特別報告者のアナンド・グローバー氏だった。
「チェルノブイリから限られた教訓しか活用しておらず、低線量放射線地域にもがんやその他の疾患の可能性があるという疫学研究の指摘を無視している」と、日本政府に対して、長期にわたる包括的な調査を推奨した。