首里城正殿など主要施設が火災で焼失した問題に関連して、「国有財産である首里城の管理運営は、沖縄県が設立した美ら島財団」などと指摘した国会議員のツイッター投稿が拡散した。これは誤りだという指摘があり、調査したところ、かつては国と沖縄県が拠出して設立された国所管法人だったが、現在は県の監督を受けている外郭団体とされていることがわかった。(楊井人文)
チェック対象 首里城再建は賛成だが、国有財産である首里城で、こんな行事を続けることは反対だ。国有財産である首里城の管理運営は、沖縄県が設立した美ら島財団となっている。(山田宏・衆議院議員の2019年11月7日ツイッター投稿) |
結論 【不正確】首里城を管理運営している財団法人は、かつて国と沖縄県が拠出して設立された国所管公益法人だった。現在は主務官庁はないが、外郭団体として県の監督を受けつつ、県所管施設の管理などを行っている。 |
検証
衆議院の山田宏議員(自民)が「国有財産である首里城の管理運営は、沖縄県が設立した美ら島財団となっている」とツイッターに投稿したところ、5000件を超えるリツイート、1.2万件のいいね!の反響があった。これに対し「沖縄県が設立した財団」というのは誤りだという指摘があり、調査することにした。
もともと国と沖縄県が拠出して設立した「国所管公益法人」
国有財産である首里城を管理運営しているのは「一般財団法人沖縄美ら島財団」。1976(昭和51)年7月に「財団法人海洋博覧会記念公園管理財団」として発足し、2012(平成24)年に現在の名称に変更した(財団の年表)。
もともとこの財団は、旧名称の通り、国営の「海洋博覧会記念公園」を管理するために設立されたものだ。1975年、沖縄海洋博覧会の跡地を国立公園として国が整備管理することを閣議決定。翌年、当時の建設省が設立を許可した(沖縄美ら島財団の担当者に確認)。跡地の公園利用については沖縄開発庁からの提案を受けて建設省と沖縄県が協議を重ね、独自の管理財団を設立するに至ったと、三好勝彦元理事長(第3代、建設省出身)が回顧している(広報誌創刊号の巻頭インタビュー)。
『海洋博覧会記念公園管理財団30年史』によれば、国と沖縄県が1億円ずつ拠出して設立された。初代理事長は沖縄開発庁事務次官だった加藤泰守氏が就任し、3代目以降はしばらく建設省出身者が務めていた。理事には沖縄県副知事など県職員も入っていたが、公益法人改革で許認可制・主務官庁制が廃止され、2012年に一般財団法人に移行するまでは、れっきとした「国所管公益法人」だった(公益法人は国所管と都道府県所管に分類される。「公益法人に関する年次報告」平成20年度版(総務省)408頁で、この財団は「内閣府と国土交通省」を所管とする国所管法人と明記されていた)。
首里城の管理に関する経緯
国
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財団
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1976年
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建設省が「財団法人海洋博覧会記念公園管理財団」の設立を許可 | 国と沖縄県が1億円ずつ拠出し、財団を設立(国所管、初代理事長は沖縄開発庁出身) |
1986年
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首里城の復元整備を閣議決定 | |
1992年
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首里城正殿などを再建し、国営首里城公園を開園 | 首里城公園の管理運営を受託(当時の理事長は建設省出身) |
2012年
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野田首相、首里城公園の管理を将来的に県へ移譲する方針表明 | 「一般財団法人沖縄美ら島財団」に改称(国の所管から離れる) |
2019年
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首里城公園の管理を県に移管 | 財団が引き続き首里城公園の管理業務(県の指定管理者)を担う |
首里城は県に移管 実際の管理業務は同じ財団が実施
この財団が国営の首里城公園の管理を国から受託したのは、正殿等が復元され一部開園した1992(平成4)年。首里城の管理権は今年2月から県に移管したが(4年限り)、実際の管理業務は同じ財団が引き続き行っている(沖縄美ら島財団 第Ⅳ期中期事業計画、沖縄タイムス記事参照)。火災発生時に開催されていた「首里城祭」の事務局もこの財団が担っていた。
ニュースのタネが山田宏議員の事務所に「沖縄県が設立した」というツイッター投稿について見解を尋ねたところ、11月13日、FAXで次のような回答が届いた。
山田宏事務所の回答文
昭和50年の閣議決定を受けて、海洋博の跡地を公園とすることが決定し、一年後にその管理運営を委託するということで、財団が発足されました。
その財団が改称し、公益法人改革で一つの県(沖縄県)の所管になりました。当初は国と県とで設立したという認識でおります。そして現在は国の所管を離れ、県の所管であると認識しております。
当初ツイッターでは「県が設立した」と主張していたが、「当初は国と県とで設立した」「国の所管」法人であったとの見解に事実上訂正したとみられる。
現在は県から事実上の監督を受ける外郭団体
では、現在は県の所管法人と言えるのか。
一般財団法人への移行前の公益法人時代は国(国交省など)が主務官庁として監督していたが、移行後は国の所管を離れた。他方、沖縄県は、移行前から財団に拠出し、常務理事に県職員1人を派遣しているため、「公社等外郭団体」と位置付けてきた。この点は移行前後で特段変化したわけではなく(移行前の平成24年度資料、移行後の平成25年度資料)、かつての公益法人のような法律上、行政の監督に服する関係とは異なるが、県から事実上の指導監督や支援を受けている。
また、沖縄県は、所管する施設の指定管理者に、各施設の所管課がモニタリングを実施しており(地方自治法244条の2参照)、複数施設の指定管理者となっている沖縄美ら島財団もその対象になっている。今年2月から指定管理者となった首里城公園についても、7月にモニタリングが実施されたばかりだった。
結論
財団はもともと国と沖縄県が拠出して設立した「国所管法人」であり、「沖縄県が設立した財団」という指摘は正確でない。ただ、設立当初から沖縄県は財団に国と同等の拠出を行っていたことから「国と共同して設立した」との解釈も可能であり「誤り」とはしなかった。
(アイキャッチ画像はWikimedia Commonsより)