消費増税から約2か月が経ち、その影響を判断する様々な景気データが注視されている。そんな中、10月の小売の売上高が大きく落ち込んでいることが海外メディアで報じられているのに、日本で報じられていないという指摘がツイッターで拡散した。日本のメディアの報道は実際どうだったのか、検証した。(楊井人文)
チェック対象 日本の10月の小売売上高が歴史的低下ってアルジャジーラからブルームバーグまで報道してるのに日本語で検索すると全然出てこない上に、わずかに出てくるニュースも9月からの下落幅−14%じゃなくて前年同期比の−7%の方しか載せてないし。(2019年11月29日のTwitter投稿) |
結論 【不正確】小売売上高が低下したニュースは主要紙の多くが報道していた。「前月比−14%」 を報じたメディアはわずか日経だけだったが、「前年同月比−7%」しか載せなかったわけではなく、「前回の増税時の落ち込みより大きい」ことなども報じていた。 |
検証
この投稿は、10月の小売売上高について、海外メディアは「歴史的低下」と報じているのに「日本語で検索すると全然出てこない」うえ、「わずかに出てくるニュース」では前月比−14%ではなく前年同期比の−7%の方しか伝えていないと指摘している。日本のメディアは、10月の小売売上高が大幅な低下した事実を、実際よりも過小に報道したかのような印象を与える。実際はどうだったか。
投稿者の言う「小売売上高」は、経済産業省が11月28日に発表した「小売業販売額」の速報値を指しているとみられる。この発表では、小売業の販売額が11兆900億円で前年同月比マイナス7.1%、季節調節済前月比マイナス14.4%となっており、投稿者の指摘とほぼ一致している。
国内の全国紙と通信社あわせて7社のメディアを調べたところ、毎日新聞以外の6社が、小売売上高に関する記事をニュースサイト等に掲載していた(ただし、朝日新聞は紙面に記事はあったが、非常に小さな記事=いわゆるベタ記事だった)。ニュースサイトの記事はいずれも投稿があった29日より前に掲載されていた。
- 読売:10月の小売業販売額、7・1%減…増税前駆け込み需要の反動など(11月28日電子版)、28日付東京本社版夕刊にも掲載
- 朝日:(経済ファイル)小売業、前回増税より落ち込む(11月29日付東京本社版朝刊・経済面)※朝日デジタルの配信はなし(ロイター通信の転電はあったが、朝日の記事ではない)
- 毎日:記事なし
- 日経:増税後の消費、厳しい出足 10月の小売販売7.1%減(11月28日電子版)、29日付朝刊・経済面にも掲載
- 産経:小売販売額7・1%減 消費増税や天候不順影響(11月28日電子版 ※共同通信の転電とみられる)、29日付朝刊・経済面に「小売販売額 10月7.1%減 増税・台風 消費に打撃」の見出しで掲載あり
- 共同:小売販売額、7.1%減消費増税や天候不順影響(11月28日)
- 時事:10月小売り、7.1%減 消費増税、台風が影響―商業動態統計(11月28日)
テレビでも、ネット上で確認できた限りでは、少なくともNHKとTBSが28日、報じていた。
「前年同期比の−7%」しか報道していなかったか?
各紙報道の見出しをみると、前年同月(2018年10月)と比べた「約7%減」という数字を前面に出していた。一見すると、投稿者が指摘するように、「前月(2019年9月)と比べて約14%減」という数字は出していないようにみえる。
ただ、一番詳しく報道していた日経新聞は、記事の冒頭の方で「前月比では14.4%減だった」と伝えていた。その他のメディアは「前月比14.4%減」を伝えていなかったが、後述のとおり、前回の増税時の落ち込み幅と比較した報道はあった。
そもそも、こういった経済統計の発表は、長期休暇や年中行事、ボーナス支給などの影響を考慮して、条件の揃った比較がしやすい「前年同月比」を用いるのが一般的とみられる。日経新聞の過去の記事でも、小売販売額は増減に関わらず一貫して「前年同月比」をメインに報じられている。「前年同月比」で報じたこと自体が不自然だとは必ずしも言えない。
前回増税時より落ち込み幅拡大と複数メディアが報道
日本のメディアは「前年同月比約7%減」だけを報じていたわけではない。「前月比」とは異なるが、前回の消費増税の時より大きな落ち込みだったことなど、低下の大きさに着目した報道はいくつも見られた。
日経新聞は「減少幅は前回の増税直後の2014年4月の4.3%減よりも大きかった」とリードで指摘。時事通信、産経新聞(29日付朝刊)、TBSもこのことを伝えていた。
共同通信は、前回増税時の落ち込みよりマイナス幅が上回ったことだけでなく、「9.7%減だった2015年3月以来、4年7カ月ぶりの大幅な落ち込みだった」(14年3月の駆け込み需要の反動)とも指摘し、今回の低下の大きさを強調していた。
NHKニュースも「前回の消費増税より下げ幅大」と字幕で強調して報道していた。
NHKのウェブ版も「前回の消費増税時より落ち込む」と題して報じている。
小売販売額 10月は7%減 前回の消費増税時より落ち込む
先月・10月の国内の小売業の販売額は、前の年の同じ月に比べて7%減少しました。消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動に加えて、台風の影響などもあり、前回、5年前の税率引き上げの時よりも大きな落ち込みになりました。
経済産業省が発表した「商業動態統計速報」によりますと、先月の全国の小売業の販売額は11兆900億円と、前の年の同じ月に比べて7.1%減少しました。
これは、前回、消費税率が引き上げられた2014年4月のマイナス4.3%を超える下げ幅となります。(以下、略)
(太字は引用者、NHK NEWS WEB 2019年11月28日)
海外報道に「歴史的低下」との表現は?
投稿者が挙げた海外メディアの報道を見ると、アルジャジーラは前年同月比と前月比の両方を、ブルームバーグは前月比のみを伝えていた(日本語版では前年同月比のみ)。
投稿で指摘されていた「歴史的低下」という表現そのものではないが、それに近いものとしては、ブルームバーグが「2002年以降の統計で最大の落ち込み」(the worst drop on record for economy ministry data stretching back to 2002)との指摘があった。
結論
10月の小売売上高(小売販売額)について、日本の多くの主要メディアは「前年同期比−7%」であったことを報じていた。ただ、「前月比−14%」を伝えたのは日経だけだったので、投稿での指摘が全くの誤りとは言えない。
とはいえ、複数のメディアが「前年同期比−7%」だけでなく「前回増税時の落ち込み幅を上回った」点などもあわせて報じていたから、日本のメディアが「前年同期比−7%」しか伝えなかったという指摘は一部のメディアに当てはまるが、報道全体とは乖離している。よって、「不正確」と判定した。
(文責:楊井人文、調査協力:大船怜)