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[新型コロナFactCheck] 「PCR検査した検体は全て破棄し、陰性と通知」との”病院関係者”情報は虚偽

[新型コロナFactCheck] 「PCR検査した検体は全て破棄し、陰性と通知」との”病院関係者”情報は虚偽

日本がPCR検査数を抑制していることから検査に関する様々な噂が拡散している。その1つに「PCR検査した検体は全て破棄して、患者には陰性と伝えている」というものがある。病院関係者から聞いた話としてもっともらしく伝わっているが、これは虚偽だ。(立岩陽一郎)

チェック対象
都内の病院に勤務している知人から衝撃的な話を聞いた。 『PCR検査した検体は全て破棄して、患者には陰性と伝えている』そうだ。
(Twitter、2020年3月18日投稿)
結論
【虚偽】仮に病院がPCR検査した検体を破棄し、陰性と伝えた場合、関係する保健所、東京都健康安全研究センター、東京都保健福祉局感染症対策課も全て情報を破棄しなければならなくなり、不可能。

検証

このツイートは4月15日現在twitterで5000リツイート、8000いいねを超えて拡散している。加えて、他にもこのツイート内容をコピーして拡散しているものが散見されている。

しかし「都内の病院に勤務している知人から衝撃的な話を聞いた。 『PCR検査した検体は全て破棄して、患者には陰性と伝えている』そうだ」は、本当であれば深刻な話だ。

まず、都内での検査とはどうなっているのかを東京都の資料から調査した。それが下図だ。

東京都健康安全センターのサイトより

この図をもとに、以下、東京都内に居住する私がPCR検査を希望した場合で説明したい。

仮に、私が発熱や海外渡航歴があり新型コロナウイルスに感染している疑いがあるとする。私はまず都内の帰国者・接触者相談センター等に相談する。

発熱の場合は37.5度以上が2日以上続くといった症状がなければならない。濃厚接触があっても症状がなければ検査は受けられない(4月14日現在)。

帰国者・接触者相談センターが私をPCR検査の対象と認めた場合は、次のステップに進む(そうでない場合は自宅で待機して様子を見るということになる)。

その後を見てみたい。管轄の保健所を通して病院に検査要請が出され、私は検査要請を受けた病院で診察を受けることになる。同時に、保健所は東京都保健福祉局に私の検査について通知し、東京都保健福祉局は東京都健康安全研究センターと同時に私についての情報を共有する。

そして私は指定された病院へ行き、そこで検体を採取される。それが拡散されたツイートにある「PCR検査した検体は全て破棄し」の「検体」だ。私の検体は、管轄の保健所を通して、東京都健康安全研究センターに搬送され、そこでPCR検査にかけられる。

その検査結果は東京都保健福祉局感染症対策課に伝えられると同時に、管轄の保健所を通して検査病院に結果が伝達される。この過程を経て私に検査結果、即ち陽性か陰性かが伝えられる。

この過程で、ツイートにあるように病院が「PCR検査した検体は全て破棄し」たとする。まず、管轄保健所や東京都保健福祉局感染症対策課との情報に齟齬が生じてしまう。関係する全ての機関が計画的に破棄することでもしない限り、破棄の事実は直ぐに明らかになる。つまり、この流れを細かく見ていくと、ツイートにあるような「PCR検査した検体は全て破棄し」という事態は不可能なことがわかる。

つまり、仮に病院が検体を破棄して私に陰性だったと伝えたとしても、その行為は、上記の流れの中で把握されてしまうということだ。 また、ここでいう病院とは、感染症指定の病院だ。虚偽の診断書を出すことは刑法160条に抵触する行為であり、このような特別な使命を持った公的機関が法を犯した行為を組織ぐるみで行うことは考え難い。

刑法
第百六十条(虚偽診断書等作成)
医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、三年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。

念のため、保健所に問い合わせたところ、「検体破棄といった情報が寄せられたことはない」とのことだった。

また、東京都で新型コロナの問い合わせに対応する新型コロナコールセンターに問い合わせたところ、「病院が検体破棄をしているという報告はない」と回答した。検体破棄が保健所内や東京都健康安全研究センター等で検体が破棄されたことはないかとの質問に対しては、「そのような事実はない」と述べ、「破棄されることはあってはならないことである」と回答した。

結論

以上のことを総合すると、「都内の病院に勤務している知人から衝撃的な話を聞いた。『PCR検査した検体は全て破棄して、患者には陰性と伝えている』そうだ」は事実ではない。加えて、「仮に都内の病院に勤務している知人から」聞いたという追加情報は、事実でない情報を故意に流す悪質性も認められる。よって、この言説については、虚偽と判定する。

※この記事の調査には、FIJのリサーチャーである藤直哉氏が協力した。

(冒頭写真は、さいたま市保健所=Wikimedia Commons=

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