「土日は民間しかPCR検査を実施していない」とのテレビ朝日の人気情報番組「モーニングショー」の玉川徹コメンテーターの発言は、既に本人が誤りを認めて謝罪している。しかし、実際に、どうなっているのかという点は広く知られているのだろうか?東京都ではどのようにPCR検査をしているのか詳述する。(立岩陽一郎)
「土日は行政機関の(検査所は)休みになるので、実は(陽性数の)39という件数は全部民間の検査の件(でしかない)」。
4月28日に放送されたテレビ朝日の情報番組「モーニングショー」で、コメンテーターの玉川徹氏がこう発言したことは、この番組の高い視聴率と玉川氏の人気で話題を呼んだ。
メディア研究者で、特に新型コロナをめぐるメディアの報道について研究している上智大学の水島宏明教授は、この発言に着目して、Yahoo!ニュース個人にて、「これは凄いスクープでは?」と、新聞や他のメディアが取材すべき重要な事実だと指摘した。この水島教授の記事はその週のYahoo!ニュース個人のアクセスでトップを記録するなど、更に玉川氏の発言を拡散させるものとなった。
しかしこの玉川氏の発言はその放送直後から異論が出て、翌29日に玉川氏は番組の中で誤りを認め、「正しくは、その39名の中に行政機関の検査によるものが、多数含まれていたことが分かりました。そして、土日に関しても行政の検査機関は休んでいなかったというふうなことも分かりました。(中略)本当にすみませんでした」と謝罪した。
これについては、玉川氏を批判する側と玉川氏を擁護する側とにわかれて、ネット上でコメントが行き交う事態となった。ただ、これは誰を批判するという話でも、誰を擁護するという話でもない。事実がどうなのか?では、東京都はどのような検査体制なのか?それらの事実を人々が共有することが重要だ。
実際、インファクトでは、五輪延期決定でPCR検査が増えたとする言説がネットで拡散した際に、東京都の検査状況を調べており、その際に週末も検査数が計上されていることを確認している。ただ、週末の検査数は平日に比べて少ないという印象も有った。
そこで、あらためて東京都福祉保健局感染症対策課に確認した。担当者は、先ず、「土日も検査を行っています」と話し、あらためて対象言説である玉川氏の発言を否定した。
その上で、現在の東京都の1日あたりPCR可能件数について次の様に話した。
「(東京)都で管轄しているPCR検査の実施場所は、東京都健康安全研究センターに加えて、民間委託が有ります。3月末の段階で、東京都健康安全研究センターが最大240件/日で、民間委託が100件/日でした。このうちの、民間への委託を更に200件/日増やしたため、4月現在では、東京都安全研究センターの240件/日と、民間への委託300件/日で540件/日が可能です」
つまり、東京都は4月から一日540件のPCR検査が可能になっているということだ。その検査数、そして陽性数がその日のうちに東京都に報告されて集約される。
ただ、検査数はこれだけではない。これ以外に、都が委託していない民間(医療機関と民間企業)での検査がある。
これが所謂、「保険適用」による検査と呼ばれるもので、完全な民間ベースの検査だ。この検査については、週に1度、その週の総計が東京都に報告されている。この「保険適用」検査については日々の検査数としては計上されず、毎週金曜日〆で各日の検査数に加算される。このため、一挙に検査件数が増える日が出て、一日の検査件数が1000件を超える日も有る。つまり、この「保険適用」を加えると、一日1000件を超える検査が行えるということだ。ただし、陽性者の数だけはその日毎に東京都に報告されることになっており、玉川氏の発言はこの点を曲解した可能性が有る。
ここで1つ留意点が有る。この時の「保険適用」の検査数は、文字通りの検査数となっている。例えば、1人の人に2回検査を行う場合は有る。その場合、2件として報告されてしまう。東京都の検査は検査を受けた人の数が報告されるが、「保険適用」はあくまで件数であり、それは必然的に人数より多くなる。
これについては5月4日の専門家会議の記者会見でも専門家会議の尾身茂副座長が語っており、別に集計する必要が有ると述べている。何れにせよ、負担を無くしつつ検査数を確保する試行錯誤が続いているということだ。
ところで、過去の数字を見ると、確かに、週末の件数は平日を下回っている印象が有る。これについても問い合わせたところ、東京都は次の様に答えた。
「検査機関は休日においても、東京都所管、民間ともに、休まずに検査を行っています。ただし、検査機関に回す前に医療機関での判断が必要であり、土日は医療機関が休みのところが多いので休日の検査数は減ってしまう」
検体を採取するのは医療機関だ。その医療機関の状況次第でPCR検査数も変化するということだ。医療崩壊への懸念が指摘される中、ある程度、医療機関の状況に配慮することはやむを得ないだろう。
以上が東京都内におけるPCR検査の状況だ。繰り返すが、この記事は、玉川氏を批判するものでも擁護するものでもなく、まして玉川氏の発言に着目した水島教授を批判するものでもない。水島教授は結果的に「誤報」となった事実を含めて記録を残すことにしている。
この調査報道「新型コロナ禍」では、新型コロナウイルスに関する様々な点について深く掘り下げていく。
この調査にはFIJの常松英恵リサーチャーが協力している。