感染拡大を阻止するための水際対策としてとられている入国拒否国。特段の事由が認められないと入国できないことになっている。ところが、その一つである中国から4月だけで3000人もの人が入国しているとの言説が動画で拡散した。だが、根拠とみられる政府の資料を調べると、中国人に限定した入国者数ではなく、誤情報だった。(立岩陽一郎)
チェック対象 「日本(政府)は4月だけで3000人以上の中国人を特別入国させていた」 中国人の入国者は、3月は1日あたり10人だったが、4月に入り1日あたり300人に急増した、という趣旨のナレーションあり (YouTube動画、2020年4月10日投稿) |
結論 【誤り】特別上陸許可された人数を記した法務省の資料は中国人に限定したものではなく、全ての上陸拒否対象国からの入国者の数字だ。(動画が配信された4月9日時点で)4月の中国人の特別上陸許可人数は300人に満たない。 |
検証
「日本(政府)は4月だけで3000人以上の中国人を特別入国させていた」と題した動画が4月10日、動画投稿サイトYouTubeにアップされ、再生数は46万回を超えるなど拡散している。この動画をアップしたチャンネルは、ジャーナリストの水間政憲氏が運営しているとみられ、10万人近くの登録者がいる。
動画では、法務省の資料によると入国制限の対象となっている中国湖北省・浙江省からの特別入国許可の人数が3月は1日あたり平均10人だったが、4月に入り1日あたり300人になっていると主張している。
動画では、その資料は特定されていないが、法務省のホームページには、出入国在留管理庁が発表している「新型コロナウイルス感染予防に係る上陸審査の状況(速報値)」という資料がある。ここには、新型コロナウイルス感染拡大を受けて「閣議了解等により上陸拒否の対象者に当たるとして慎重な審査の対象となった人」のうち「特段の事情が認められ上陸を許可した人」が記されている。
4月10日時点で公開されていた資料を確認すると、4月9日までの「特段の事情が認められ上陸を許可した人」の数(以下、特別上陸許可人数という)が合計2376人となっていた。4月1日は11人、2日は24日だったが、3日以降は200人台ないし300人台に急増しており、動画における「4月に入り1日あたり300人」の中国人が入国したという主張は、この急増に着目したと考えられる。
この資料には、「特段の事情が認められ上陸を許可した人(注1)」について、次のように記されていた。
(注1)「特段の事情」の例は,以下のとおりである。
・中国湖北省又は浙江省において発行された旅券を所持するものの,上陸の申請日前14日以内に上陸拒否の対象地域に滞在歴がない者
・令和2年4月2日までに再入国許可により出国した「永住者」,「日本人の配偶者等」,「永住者の配偶者等」又は「定住者」の在留資格を有する者
では、この資料は中国人の入国者数を示したものなのか。資料を作成した出入国在留管理庁に問い合わせた。対応した出入国管理課に対し、まず、この「特段の事情が認められ上陸を許可した人」とは、中国人のみを記載したものか尋ねてみたところ、次のように答えた。
「全ての上陸拒否国から入国した外国籍者の数字です。特定の国籍に限った数字ではありません」
この上陸拒否の対象国は、新型コロナの感染防止を目的に入管法第5条1項14号に基づいて指定されたものだ。該当する外国人は、当分の間、特段の事情がない限り、上陸拒否の対象となる。
この動画が配信された時点の上陸拒否対象国は、73カ国・地域に及んでいた(現在は、さらに拡大し、87カ国・地域となっている)。
4月3日以降に特別上陸許可人数が大幅に増加したことは事実だが、その理由について、法務省は、次のように説明している。
これは主に,新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を踏まえ,4月3日から,新たに北米や中南米,オセアニア,東南アジア等を含む49の国・地域の全域も対象地域としたことにより,合計73の国・地域が上陸拒否の対象地域となったことから,これに伴い,「(1)閣議了解等により上陸拒否の対象者に当たるとして慎重な審査の対象となった人」や「特段の事情が認められ上陸を許可した人」の数も増加したものです。
ー出入国在留管理庁、2020年4月14日報道発表「新型コロナウイルス感染症に関する上陸拒否の措置及び同措置に係る「特段の事情」について」より
要するに、上陸拒否の対象となる国が増えたことで、上陸拒否国からの特別許可入国者も増えたということだ。
実は、中国人の特別許可入国者を示す資料もあった。法務省が5月1日に発表した「新型コロナウイルス感染防止に係る上陸審査の状況(速報値)」中の「特段の事情が認められ上陸を許可した人」の内訳(速報値) によると、4月1日から12日までの特別許可入国者は合計3541人、そのうち中国からは合計295人で、航空機の乗員41人を差し引くと254人だった。動画が主張していた「3000人」とは1桁少ない数字だったことがわかる。
結論
以上の調査の通り、(動画が配信されていた)4月9日時点の中国人の特別上陸許可人数は300人もいない。そのため、動画における「日本(政府)は4月だけで3000人以上の中国人を特別入国させていた」という言説は「誤り」と判断した。
※INFACTは、FIJの新型コロナのファクトチェック国際協力プロジェクトに参加している。このプロジェクトは日本財団などの支援を得て、各国のファクトチェック団体と協力して新型コロナに関する情報の検証を行うものだ。この記事の調査には、FIJのリサーチャーである藤直哉氏が協力した。
(冒頭写真は、YouTubeの動画のスクリーンショット)