アメリカと中国が競う形となっている新型コロナのワクチン開発だが、WHOはこうした特定の国のみがワクチンを開発する状況を「ワクチン・ナショナリズム」と呼んで警鐘を鳴らしている。それは、一部の国でのみワクチンが供給され、世界各国、各地でワクチンが必要とされる人に渡らない以上、新型コロナのパンデミックに終止符がうたれることは無いと考えるからだ。そうした中でWHOが推進している仕組みが有る。COVAXファシリティーだ。それはどういうものか。WHOの会見からその現状をまとめた。(立岩陽一郎)
「診断、治療法、ワクチンへの公平なアクセスを確保するために全力を尽くさなければならない」
9月21日のWHO会見。テドロス事務局長は冒頭、こう述べて、各国の更なる協力を求めた。テドロス事務局長は次の様にも語った。
「ワクチンができるまで、そしてできた後も、感染を抑制し、命を救うためのあらゆる手段を講じるようにすべての国に呼びかけ続ける」。
そして更に、「COVAXファシリティーの包括的な目標は、すべての国が同時にワクチンにアクセスできるようにし、ヘルスワーカー、高齢者、その他の最もリスクの高い人々に優先的にワクチンを提供することである」と語った。
このCOVAXファシリティーとは何か?実はこれこそ、WHOが新型コロナのパンデミックに打ち勝つ切り札としている仕組みだ。
それは参加各国、各地域とワクチンメーカーとが協力して全ての国の、ワクチンが必要とされる人に平等にワクチンを提供することを目指すもので、参加表明期限の9月18日までに先進国など資金力の有る64の国と地域、経済協力体が参加を表明。日本も参加を表明している。加えて、資金力の無い92の国と地域が支援を受ける対象として参加が決まっている。支援を受ける側が多い形だが、WHOは、全ての国や地域でワクチンが使えるようにならないとこの新型コロナ禍を終わらせることはできないと見ている。
テドロス事務局長は以前から、「ワクチン・ナショナリズム」という言葉を使って一部の先進国のみがワクチンを独占する状況に警鐘を鳴らしている。ウイルスは国境を越えて感染を広げるからだ。この日の会見で、WHOは、この仕組みによって2021年末までに20億人分のワクチンを供給することを目指すとした。勿論、全ての人が摂取できるわけではなく、各国でウイルスとの戦の最前線に立つ医療従事者や重症化が懸念される高齢者などがその対象となる。
このCOVAX ファシリティーは、WHOが、感染症への対応を考える国際共同体であるCEPI(the Coalition for Epidemic Preparedness Innovations )とワクチン開発の国際的な連帯組織であるGaviが進めているもので、ユニセフや世界銀行も関わっている。
WHOは外に資金力のある38の国と地域も参加に向けて前向きになっているとしており、最終的には200を超える国と地域が参加すると見ている。しかしワクチン開発で世界をリードしているアメリカと中国、それにロシアは参加していない。
このうち中国については、会見に同席したWHOの担当者が、「私たちは彼らと非常に建設的でオープンな議論をしてきたし、もしいくつかの候補が実際に臨床試験で成功した場合には、世界的なアクセスを確保することを常に約束している」と述べ、中国が正式に参加しなくても実質的にCOVXファシリティーに協力していることを明らかにした。
しかしCOVAXファシリティーの先行きは不透明だ。WHOによると、これまでに各国やワクチンメーカーがこの仕組みに拠出した金額は14億ドルにのぼる。更に10億ドル程度の拠出が緊急で必要になっているという。
このCOVAXファシリティーに参加する国と地域はWHOのサイトで確認できる。
インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェックプロジェクトに参加しており、この記事の取材にはFIJの大久保明日香リサーチャーが関わっている。