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[FactCheck] ジョージア州選挙集計で不正の「証拠映像」? 外部から票の持込み確認できず

[FactCheck] ジョージア州選挙集計で不正の「証拠映像」?  外部から票の持込み確認できず

アメリカ大統領選挙の投票では民主党のジョー・バイデン元副大統領の勝利が確定的となっているが、ドナルド・トランプ大統領やその陣営関係者らは、選挙に大規模な不正があったという主張を続けている。そんな中、ジョージア州の集計所で不正が行われた証拠と示唆された映像がトランプ支持者らの間で拡散し、日本でも著名人などに取り上げられた。(大船怜)

チェック対象
各州公聴会でも驚きの証言続出だが、ジョージア州で監視カメラが捕えた証拠映像には唖然。監督者が係員に部屋から出るよう指示後、その場に残った4人が突然、票が詰まった複数のスーツケースを机の下から引っ張り出し集計を始めた。この映像も報道機関は殆ど無視。“偏向マスコミ”が米民主主義を殺す。
(Twitter、2020年12月4日投稿)
結論
【ミスリード】動画で「スーツケース」とされているものは、実際には集計作業で使われる正規のケースで、監視カメラ映像には立会人がいる間に持ち込まれたことが全て記録されている。外部から票が持ち込まれた形跡はなく、映像は不正な開票作業を裏付けるものではなかった。

ジャーナリストの門田隆将氏によるこの投稿は、トランプ氏の選挙チーム公式Twitterアカウントによる投稿と動画を引用。不審な「スーツケース」によって外部から不正な票が持ち込まれたと示唆したものだ。門田氏の投稿は3700件以上のリツイートされ、東京スポーツにも取り上げられた。

引用された動画は、トランプ氏の顧問弁護士であるルドルフ・ジュリアーニ氏の主張を保守系ケーブルTVチャンネルOANが取り上げたもので、選挙当日(11月3日)に撮影されたものとみられる。選挙チームの投稿には、Twitter社によって内容に疑義があるとの警告表示が付されている。

票の持ち込み・開封は立会人退去前

ジュリアーニ氏らの主張を受け、ジョージア州の選挙担当者らは12月4日(現地時間)、問題の場面の前後を含めた選挙当日の全映像を確認。映っているのは正当な集計の作業で、不正行為の形跡は確認されなかったと結論を下している。

地元TV局WSB-TVがこの担当者らに取材している。解説したのは、自身は共和党員である投票システム導入責任者のガブリエル・スターリング氏と、州務長官室主任調査官のフランシス・ワトソン氏だ。

この調査によると、拡散動画で「スーツケース」とされた机の下から取り出されたものは、集計作業で投票用紙を入れるための正規のケースだった。

拡散された動画とWSB-TVで放送された鮮明な監視カメラ映像の同じ場面を比較すると、拡散動画の画面(右上)=映像1=では黄色いシャツの女性が何を運んでいるかが不鮮明で確認が難しいが、WSB-TVの動画=映像2=では付近に置かれているのと同じケースらしいと確認できる。

<映像1>

拡散投稿に埋め込まれたケーブルTV・OAN動画から右上の画像を切り抜いたもの
<映像2>

ジョージア州のテレビ局WSB-TVの動画のスクリーンショット

監視カメラの映像を遡ると、午前8時22分、後にケースが収納される机が部屋に持ち込まれている=映像3。この時点では、机の下にはまだ何も無かった。

<映像3>

WSB-TVより

ケースが机の下に収納されたのは夜になった午後10時。その中には開封されたがまだ集計はされていない投票用紙が保管された=映像4。ここまでの間、メディアや立会人らは常に同じ部屋にいて作業の監視を続けていた。

つまり、ケースに入れられた投票用紙も、立会人らの監視下で集計所に持ち込まれ開封されたものだった。

<映像4>

WSB-TVより

票がケースに入れられ保管されたのは、集計スタッフのその日の本来の作業時間が終了したためであった。その後スタッフらは帰宅の準備をし、メディアや立会人も部屋を出た。しかし数分後、州務長官室からの指示で集計の続行が決定。スタッフが作業を再開し、ケースに保管された票が再び取り出される拡散動画の場面につながる。

作業再開は選管当局の指示 立会人も呼び戻し

郡の選挙管理責任者は12月4日のオンライン会合において、開票作業日の午後10時半過ぎ頃に自分が作業再開を電話で指示し、11時15分頃には作業が完全に再開されたと証言している。

立会人らが立ち去った詳しい経緯は監視カメラ映像などでははっきりしないが、前述の主任調査官のワトソン氏は12月5日に法廷に提出した宣誓供述書の中で、聞き取り調査などから、彼らは指示されたわけではなく自ら退出したと結論付けている(第6項参照)。

ファクトチェックメディアのLead StoriesFactCheck.orgの取材に匿名で応じた立会人(同一人物と思われる)は、州務副長官に呼び出されて午後11時52分には集計所に戻り、その後12時45分(または12時43分)に作業が終了するまで居続けた、と証言している(なお、ジョージア公共放送(GPB)によれば、この日民主党側の立会人は集計の監視に参加していなかったのことであり、この証言者は共和党側とみられる)。

ラッフェンスパーガー州務長官(共和)は7日、バイデン氏の勝利確定を改めて確認した(ロイター通信)。

複数の著名人も同種言説を拡散

ジョージア州で選挙不正の証拠動画が公開されたとする主張は、ジャーナリスト須田慎一郎氏の解説をまとめたニッポン放送の記事、東京都・豊島区議のくつざわ亮治氏や政治活動家の我那覇真子氏らの著名人、複数のまとめサイトなども取り上げ、広く拡散された。

結論

以上をまとめると、監視カメラの映像によって、未集計の投票用紙が入ったケースはメディアや立会人らの監視が行われている間に持ち込まれ開封されたもので、外部から不正に持ち込まれたものではないことが確認できる。立会人らは当日の作業終了で一度退出したが、州務長官室からの指示で開票作業が再開され、立会人もまもなく呼び戻されている。

「その場に残った4人が突然、票が詰まった複数のスーツケースを机の下から引っ張り出し集計を始めた」とする門田氏の投稿は、(厳密にはスーツケースでないということを除けば)表面的には正しいように見えるが、あたかも立会人がいなくなった後に不正に外部から票が持ち込まれ、不正な開票が行われたかのような誤解を与える可能性がある。そのため、当該投稿は「ミスリード」と判定した。

(この記事は、FIJリサーチャーの大久保明日香氏、岩崎真夕氏、日高大氏の協力も得て作成しました。)

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