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[FactCheck]「トリチウムのゆるキャラが電通に3億700万円で発注されていた」は誤り キャラクターに投じたのは「数百万円」

[FactCheck]「トリチウムのゆるキャラが電通に3億700万円で発注されていた」は誤り キャラクターに投じたのは「数百万円」

「トリチウムのゆるキャラが電通に3億700万円で発注されていた」という言説がツイッター上で拡散した。キャラクターは復興庁が4月13日、福島第一原発で発生した放射性物質「トリチウム」を含む処理水の安全性をPRするためにチラシや動画で公開したもの。
「3億700万円」は原発事故の風評を払拭する情報発信事業全体にかけた金額(2020年度)であり、その中でキャラクターの動画・チラシにかけた金額は「数百万円程度」だった。(武藤珠代)

チェック対象
【悲報】ゆるキャラは電通に3億700万円で電通に発注されていた (2021.4.14山添拓参院議員質問)
(Twitter一般ユーザー、2021年4月14日投稿)
結論
【誤り】 「3億700万円」は原発事故の風評を払拭する情報発信事業にかけた金額(2020年度)であり、その内キャラクターの動画・チラシにかかった金額は「数百万円程度」。

福島第一原発の放射性物質「トリチウム」を含む処理水を海洋に放出する方針が決まった。復興庁は処理水の安全性をアピールするため、4月13日にチラシと動画をホームページで公開した。トリチウムを「ゆるキャラ」化したイラストが批判を呼んだことを受け、14日の参院資源エネルギー調査会で共産党の山添議員が質疑を行った。

復興庁ホームページに掲載されたトリチウムのキャラクター。現在削除済み。(Gov baseより)

対象言説のツイートは「【悲報】ゆるキャラは電通に3億700万円で電通に発注されていた (2021.4.14山添拓参院議員質問)」というもの。一般ユーザーによって投稿され、8600件以上のリツイートを獲得した。「税金の使い道がおかしい」という趣旨の返信も相次いだ。

動画付きツイートのスクリーンショット。動画は2021年4月14日、参院資源エネルギー調査会の中継。

20年度 情報発信事業全体で3億700万円

動画は2021年4月14日に行われた参院・資源エネルギーに関する調査会の2時間47分頃からの様子。答弁内容は以下の通り。

(日本共産党・山添拓議員)
昨夜、復興庁のホームページを見て驚きました。トリチウムがゆるキャラのように登場しております。これは「親しみやすさのためだ」と、そういう担当者の発言も報道されておりました。しかし、事故原発から放出されるトリチウムは親しむべき存在ではありません。
6ページを見ますと「世界でも流している」と言って、他の原発の排水と同じであるかのように強調までしてるんですね。
復興庁に伺いますが、この広報、どこにいくらで発注したものですか?

(復興庁・角野然生統括官)
お答えいたします。ご指摘の「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」の動画とチラシは、令和2年度放射線等に関する情報発信事業」により作成してございます。
本事業は風評の払拭に向け、ラジオ、インターネット等多くの媒体を活用し情報発信を行う事業でありまして、内容はALPS処理水に限らず、放射線に関する正しい知識や福島の現状等について広く情報発信していくことを目的にしておるものでございます。
ご質問頂きました点、当該事業全体額、すなわち事業者との契約金額は3億700万円でございます。
お尋ねのありました、動画及びチラシ作成にかかった金額につきましては、不開示情報のため詳細金額は申し上げられませんが、今申し上げた金額の内数としてだいたい数百万円程度でございます。

(山添議員)
(発注は)どこに?

(角野統括官)
これはあの、電通でございます。

 

毎日新聞によると、この「放射線等に関する情報発信事業」においては企画競争入札が行われ(参照:復興庁資料)、2018年度に電通が3億3000万円で落札した。その後2019年度は3億7900万円、2020年度は3億700万円でいずれも電通と契約している(最終契約額)。

角野統括官の答弁によると、問題となったキャラクターの登場する動画やチラシにかけた金額は、この事業全体のうち「数百万円程度」である。チェック対象言説は、当該年度の事業全体の金額「3億700万円」を「ゆるキャラ」だけに投じた金額と誤解させるような書き方をしている。

各メディアの報道

4月14日の国会での当該やり取りについては、複数メディアが「チラシ・動画作成に投じた金額は数百万円」と報じている。

朝日新聞
昨年度の『放射線等に関する情報発信事業』の予算で電通に発注した3億700万円のうち、数百万円を使って作成された

東京新聞
チラシや動画の作成に関し、電通に発注して費用は『数百万円程度』と説明

ANNニュース
今回のPRチラシや動画は風評被害を軽減するため、数百万円を使って作成されたということです

著名人による拡散

落語家の立川談四楼氏、遺伝学者の川上浩一氏、元警視庁勤務のコメンテーター坂東忠信氏らも、キャラクターにかけた金額単体で3億700万円であるかのような誤解を生む投稿をしている。それぞれ7100リツイート、2300リツイート、1000リツイート以上拡散しており、著名人による影響は大きい。

4月15日、落語家・立川談四楼氏によるツイート。

キャラクターの取り消し、謝罪

トリチウムの「ゆるキャラ」に批判が相次いだことを受け、復興庁は14日に動画・チラシの公開を取りやめた。(復興庁「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」の公開休止について

平沢復興大臣は、16日の記者会見ではキャラクターについて賛否両論の意見があるとし、「いろんな方のご意見を聞いて、見直すところがあれば直すということで、一時的にストップさせていただいた」とコメント。20日の記者会見では、キャラクターの使用について「これは本当に私は申し訳ないなと、心からお詫び申し上げなければなりません」と謝罪した

22日には、復興庁はトリチウム部分のデザインを変更したチラシを公開。この修正に関して追加費用は発生しないという(参考)。

結論

チェック対象の投稿ではトリチウムのキャラクターが「3億700万円で電通に発注されていた」としているが、「3億700万円」は2020年に「放射線等に関する情報発信事業」にかけた全体の金額であり、その内キャラクターの動画・チラシにかかった金額は「数百万円程度」。したがってこの投稿は「誤り」である。

(冒頭画像:復興庁ホームページ、Gov base)

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