
アインシュタインが一般相対性理論の構想時に残した直筆のメモが約15億円で落札された。これに関して岩波書店がツイートで「 完成稿は(岩波文庫で)660円(電子書籍)で読めます」としたが、これは誤りだ。指摘を受けて岩波文庫は訂正した。(神山翔太郎、佐藤綾香)
チェック対象
「アインシュタインが一般相対性理論の構想時に残した直筆のメモが、パリで競売に掛けられ、1160万ユーロ(約15億円)で落札されたそうです。20世紀を変えた54ページの歴史的文書に、天文学的な値がつきました。 完成稿は660円(電子書籍)でお読みいただけますよ。」
(Twitter、2021年11月24日投稿)
結論 誤り
岩波文庫に収録されている文書は1905年に発表された『特殊相対性理論』の論文であり、今月落札されたメモを基にした『一般相対性理論』の完成稿ではない。
今回落札されたメモとは
AFPBB通信は2021年11月24日、「一般相対性理論の構想時に残した直筆のメモが23日、仏パリで競売に掛けられ、1160万ユーロ(約15億円)で落札された」と報じた。報道によれば今回落札されたメモは、アルバート・アインシュタイン(1879-1955)とその同僚であったミケーレ・ベッソによって、1913年から1914年にかけて記された54ページに渡るメモであるという。このメモを基にアインシュタインは1915年に一般相対性理論を発表し、当時の物理学を根本的に書き換え進歩させた。
岩波文庫『相対性理論』の内容は?
一方、岩波文庫の『相対性理論』の内容はどのようなものか。同書の「まえがき」によれば「本書は相対性理論に関するアインシュタインの最初の論文“Zur Elektrodynamik ewegter Körper”の邦訳と,この論文そのものに対する平易な解説から成る書物である」とある。この論文は、「アインシュタインが26歳のとき,すなわち1905年,物理学に関するドイツの学術誌」に発表されたもので、『動いている物体の電気力学』という題であるが、今日では特殊相対性理論と呼ばれている。これが岩波文庫の『相対性理論』におさめられている論文だ。
この論文から10年後の1915年、アインシュタインは特殊相対性理論では扱えなかった重力の現象をも論じる一般相対性理論を発表した。その際の論文の基になった資料が今回、約15億円で落札されたメモだ。
岩波書店は訂正
InFactが岩波書店に問い合わせを行ったところ、岩波書店から以下の回答があった。
「特殊相対性理論(1905年)発表時のメモと勘違いして岩波文庫『相対性理論』を紹介いたしましたが、正しくは一般相対性理論(1915年)発表時のメモでした。したがって、ツイート内容((特殊相対性理論を収録した)岩波文庫で完成稿が読める)は正しくないことになります」
岩波書店はその後、速やかにTwitterにて訂正を出している。以下が岩波書店の訂正ツイートだ。
InFactはファクトチェックのレーティングをエンマ大王でも示している。今回のレーティングは「誤り」なので3エンマ大王となる。

因みに、エンマ大王のレーティング表は以下になる。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。