日本共産党の志位和夫委員長が参議院選挙中に、「世界で日本しかない非合理な制度である入学金を廃止する」と発言した。本当に「入学金」の制度は日本にしかないのだろうか。調査したところ、志位委員長の発言は「ほぼ正確」だった。(村田風佳・小島遥花・浅香玲菜・田島輔)
チェック対象
「学費が重すぎて進学を諦めたと言う声をたくさん聞きます。大学専門学校の学費を半額にし、無償を目指したい。で、世界で日本しかない非合理な制度である入学金を廃止する」
(ニコニコ主催のネット党首討論会での志位委員長の発言(参照、56:17~))
結論
【結論:ほぼ正確】
日本における「入学金」と同様の意味をもつ「入学金」の制度をもっているのは、日本以外には韓国しか確認出来なかった。もっとも、韓国も2023年から入学金制度を廃止することが決まっており、入学金制度が日本にしかないとの志位委員長の発言は「ほぼ正確」だ。
「入学金」制度があるのは…
「入学金制度」が日本にしかないとの志位委員長の指摘は、日本共産党の参院選特設サイトにも同様の記載がある(参照)。
そこで、検証のため、諸外国の教育制度についてまとめた文部科学省の資料を確認してみた(諸外国の教育統計 令和3(2021)年版)。各国の入学金について記載があるのは69頁以下だ。この資料では、確かに日本と韓国では「入学料」の記載がある一方で、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツでは「入学料」の記載はない。
韓国も2023年には入学金制度を完全に廃止することが決まっているため(参照)、入学金制度が日本にしかないというのは、ほぼ正確と言えそうだ。
もっとも、「入学金」がないとされているアメリカの大学でも、ホームページで「入学金」(enrollment fee/ enrollment deposit)が必要とされている大学が存在していた(「University of Michigan-Dearborn」〔参照〕、「The University of Arizona」〔参照〕)。
確かに、20万円以上する日本の入学金と比較するとかなり安いものの(「University of Michigan-Dearborn」の「入学金」は50ドル)、入学金制度がある外国の大学がある以上、「入学金制度は日本にしかない」とは言い切れないのではないだろうか。
日本の「入学金」は…
この点について文部科学省に問い合わせたところ、回答は以下のとおりだった。
米国の大学が徴収するfee(手数料・使用料)は、施設改善費やIT等設備使用料など、常にその使途が明確に示されています。アリゾナ大学もenrolment feeについて「新入生向けオリエンテーション、学生ID、学力テストに用いる」と説明しています。これに対して、日本の大学で徴収される入学金は『合格者が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価』(平成18年 11月 27日最高裁判決)として支払われるものであり、両者の性質は別のものです。
つまり、アメリカの大学にも一部入学金は存在するものの、日本の入学金より安価で、学生IDの発行や学力テストの実施等、入学金の使途が明確になっている。他方、日本の入学金は「合格者が当該大学に入学する地位を取得する対価」であって、具体的な使途が明確になっているものではなく、同じ「入学金」の名目であっても、性質は全く異なる。
そのため、使途が不明確な日本でいうところの「入学金」の制度は日本にしかないということだ。
また、日本共産党に「入学金制度が日本にしかない」ことの根拠を問い合わせたところ、以下の回答があった。
国立国会図書館レファレンス担当で調べてもらった結果、日本の入学金にあたるようなものは世界に例が無く、韓国に極めて低額な入学金の制度があるものの廃止される予定との調査結果を得ています。志位委員長の発言は、それに基づいたものです。
国立国会図書館にも、調査方法や根拠資料について問い合わせたが、国会議員のレファレンスを担当する調査及び立法考査局での案件は、対外的には非公開となっているとのことだった。
結論
調査したところ、日本以外で「入学金」の制度をもつ国は確認できた範囲では韓国にしかなく、その韓国では2023年に制度を廃止することが既に決定していた。また、一部のアメリカの大学で「入学金」(enrollment fee/ enrollment deposit)との名目での費用は存在したものの、これは使途が明確になっており、日本でいう「入学金」とは別のものであった。このため、「入学金制度は日本にしかない」との志位委員長の発言は「ほぼ正確」と判定する。
(ニコニコ主催のネット党首討論(6月18日)で発言する志位委員長)