
自民党・小林鷹之議員の「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」との発言は、東西格差と原発再稼働との関係で言えば事実ではないが、一方で、再稼働によって電気料金が安くなるという意味も含んでいる。では、実際にそう言えるのか、ファクトチェックした。(上記写真は資源エネルギー庁のサイトから)
対象言説
「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」(9月14日の自民党総裁選候補者討論会での小林鷹之議員の発言)から、「原発の再稼働によって電気料金は安くなる」という発言の趣旨について対象言説とする。
結論 【ミスリード】
問題の言説は2エンマ大王となる。
電気料金に原発関連費用が含まれていることから、原発の稼働によって、必ずしも電気料金を安くできるとは言い切れない。

エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
電気料金は何から構成されているのか
小林議員の発した「再稼働が進んでいるか否かで、電気料金に東西の格差が生じている」については、前回の(上)で、必ずしも[(原発)再稼働」と「東西の格差」とは直結していないことを確認した。今回の(下)では、発言の趣旨を原発の再稼働の有無によって電力料金に差が生じるか、つまり原発の再稼働によって電気料金は安くなるかどうかを対象として、引き続きファクトチェックする。
要は、原発を再稼働していない電力会社の電気料金は高く、再稼働した電力会社の料金は低くなるのかファクトチェックするということだ。ここで取材に応じた3社のうち、関西電力の説明をもう一度見てみたい。
「個別電源の稼働状況による電気料金の算定については、競争戦略上、回答は差し控えさせていただければと存じます」
関西電力の説明は、電気料金の設定が単純ではないことを物語っていると言って良いだろう。
託送料金とは?
ここで電気料金がどのように決まるのか詳しく見てみたい。まずは、電気料金の設定に大きく影響する費用の内訳から説明する。電気料金の内訳は以下の2種類。
「事業者の裁量で算定される費目」
「法令等により算定される費目」
次に示す図は、資源エネルギー庁のホームページを参考に、筆者が作成したものだ。

このうち、「事業者の裁量で算定される費目」は、燃料費や、修繕費、減価償却費、人件費、その他経費などで構成されている。
他に「法令等により算定される費目」には「託送料金」というものがある。この中には、「電源開発促進税」「賠償負担金」「廃炉円滑化負担金」などの項目が書かれている。これは何か?

電気料金に含まれる原発関連費用
まず「電源開発促進税」とは「発電施設等の設置の促進及び運転の円滑化を図る」ための措置に必要な費用を電気料金の一部として徴収する制度だ。これを根拠づける「電源開発促進税法」を見ると「発電施設」に原子力発電施設、水力発電施設、地熱発電施設等が含まれている。
古いデータになるが、2013年の国会では、電源開発促進税の電源ごとの内訳を公開するように、当時の安倍晋三首相が質問を受けている。その際の安倍首相(当時)の回答を見ると、平成23年度(2011年度)決算において、原子力発電等関係は、約3242億円、火力発電関係は約9億円、水力発電関係は約63億円となっている。これらの費用は、電源開発促進税として、電気代から徴収されたものだ。原発関連が圧倒的に多いことが分かる。
次に「賠償負担金」についてだ。これは、原発による損害の賠償のために備えておく制度だ。2011年の福島第一原発の事故前に「確保すべきであった(賠償の)不足分」を電気料金で回収するものだ。つまり、過去に準備されておくべきであった原発事故の賠償金を現在の電気料金で徴収しているということだ。
原発事故の被災者・被災企業への賠償を、令和2年度(2020年度)以降、損害総額2.4兆円を40年程度で回収するために、電気料金として徴収している。年間にすると、毎年約600億円である。各原子力事業者は、利用者から集めた料金から相応額を経済産業大臣の承認を受けた額を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に納付している。原子力損害賠償・廃炉等支援機構とは、大規模な原子力損害が発生した場合に、原子力事業者の損害賠償に必要な資金の交付を行う組織だ。
「廃炉円滑化負担金」は当然、原発に関連する電気料金だ。原発依存度の低減というエネルギー政策の基本方針の下、原発を「円滑に廃炉」にするための費用を電気料金の一部とし受け取る制度である。ただ、これは2020年から始まった制度である点に留意が必要だ。2024年12月に発表された新しいエネルギー基本計画では、これまで一貫して盛り込まれた、原発について「可能な限り依存度と低減する」という文言がなかった。原発を再生可能エネルギーと共に最大限活用していく方針が示されたと報じられている。ただし古い原発は何れ廃炉の時期を迎えるわけで、「廃炉円滑化負担金」が無くなるとは言えないだろう。
これらをまとめると、電気料金はそもそも原発の存在が前提となって設定されているということが言える。そしてそれは電気料金を下げるものではなく積み上げる形で電気料金を上げる役割を担っていると考えるのが自然だ。小林議員は「安価で安定した電力供給を確保」のため原発再稼働が必要だという文脈で原発再稼働と電気料金との関係に言及したものだが、電気料金の多くに原発関連費用が既に上乗せされている事実を踏まえれば、原発の再稼働が「安価」な電気料金に繋がると言うのは難しい。むしろ、因果関係としては逆の側面が強い。
総括原価方式という仕組み
電気料金とは、原発を稼働させる大手電力会社の経営を維持することを前提としているとも考えられる(原発を所有していない沖縄電力は別)。電気料金の算定方式としては、総括原価方式という仕組みが使われる。政府は電気料金について「『総括原価方式』により、最大限の経営効率化を踏まえた上で、電気を安定的に供給するために必要であると見込まれる費用に利潤を加えた額(総原価等)と電気料金の収入が等しくなるよう設定」していると説明している。問題は、仮に大手電力会社と政治が手を握った場合に、「最大限の経営効率化を踏まえた上で」という文言通りに「必要であると見込まれる費用に利潤を加えた額」となるのか疑問が生じる点だ。2024年12月19日のしんぶん赤旗は、電力会社、原子力関連企業、立地自治体などで作る「日本原子力産業協会」が自民党の政治資金団体に、約6億円の献金をしていることを報じている。自民党への電力関係の政治献金が続く現状からは、その疑問を払拭するのは容易ではない。
また、原発は安全性という観点からの検討が不可避だ。福島第一原発の事故を受けて政府は当初、原発の耐用年数を40年とし、それを超える原発の再稼働を認めないとしていたが、その後、原子力規制委員会が認めれば、最長60年まで稼働を認めると方針を変えている。原子力規制委員会の検査をクリアしていることを前提としても、古ければ古いほどトラブルもおきやすいことが推測される。
さらに、経済産業省は原発の新増設を進めるため、建設費を電気料金に上乗せする制度の導入を検討しているとも報じられている。朝日新聞の2024年7月24日の報道によると、国が認可した原発の建設計画について、建設費や維持費を電気の小売会社が負担し、その費用は電気料金に上乗せして回収するというものだ。
事実を積み上げていくと、原発の稼働によって電気料金を安くできるとは必ずしも言い切れない現実が見えてくるということだ。
原発再稼働によって電気料金が抑えられるとの主張は今後も政府与党から出てくることが予想されるが、そもそも電気料金がどのように決まっているのかといった根本的な点で、冷静に見る必要が有る。
これらの事実を踏まえ、1月20日に小林議員宛に見解を尋ねた。3月1日時点で、回答はなかったが、回答が来た場合は、記事に反映させる予定だ。
(三井滉大)
(編集長追記)
原発についてファクトチェックをすることは容易ではない。立場によって発信する内容が明確に分かれるからだ。この記事も原発を推進する立場の人から見れば「反原発派による記事」と見えるだろう。InFactは脱原発でも原発推進でもない。政権与党の若手有力議員の発言を例に、原発と電気料金の関係についてのファクトを確認したということだ。それ以上のものではない。
電力会社のInFactへの回答の中で、関西電力の回答はある意味で誠実な回答と言っても良いだろう。多くの原発を所有している関西電力故の回答と言っても良いかもしれない。この一連の取材は関西電力の回答を得て動き出したと言って良い。
また、原発についてはこの記事には書かれなかった費用も考慮する必要がある。事故が起きた際の住民避難のための経費は勿論、原発から出る高濃度放射性廃棄物の処理に関する費用だ。これらは電気料金の上乗せ分だけで賄えるものではなく、国民への新たな負担となることが予想される。編集長は以前、フィンランドの放射性廃棄物貯蔵施設オンカロを視察したことがある。日本政府も、オンカロのような施設を作ろうとしているが、実現の目処はたっていない。
繰り返すがInFactは反原発でも、原発推進でもない。安全な運用が実施でき高濃度の放射性廃棄物の処理が問題なくできるのであれば、政府が言うところの「ベースロード電源」として使わない選択は無いだろう。ただし残念ながら、その前提は現時点で満たされているとは言えない。
(立岩陽一郎)