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【FactCheck】政府は、実施した偽・誤情報対策の情報公開を進めているのか?【ワクチンのファクト㉕】

【FactCheck】政府は、実施した偽・誤情報対策の情報公開を進めているのか?【ワクチンのファクト㉕】

兵庫県知事選などの騒動を受け、SNS上でまん延する誤った情報(偽・誤情報)に対しどのように対処すべきが重要な政策課題の一つとなっている。石破首相もその必要性を発言しているが、対策の中で何を偽・誤情報と判断したかは明らかにされる必要がある。この点が不明であれば、政府の思うままに情報が管理される懸念があるためだ。政府がコロナ禍において実施した偽・誤情報対策は内容が公開されているのか?ファクトチェックした。

SNSでの偽・誤情報対策強化

現在、政府はSNS上で拡散する偽・誤情報が「国民生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼしうる深刻な課題」であるとして(参照)、SNS上での偽・誤情報の拡散防止策を強化する考えを示している(参照)。石破首相は、偽情報の拡散を「適切な意思決定を阻害し、民主主義や国家の安全保障に悪影響をもたらしうるもの」と強調し、健全な言論空間の確保に取り組んでいくと述べている(参照)。

ここで懸念されるのが、政府の「偽・誤情報対策」が政府に都合の悪い情報を、「誤情報」と決めるつけるような、いわゆる「官製ファクトチェック」となることへの懸念だ(参照)。「偽・誤情報対策」の名目で、憲法で保障される表現の自由が侵害されるおそれもある。

「官製ファクトチェック」への懸念を払しょくし、「表現の自由」が保障されていることを明確にするためにも、「偽・誤情報対策」においては、取り組みの透明化、つまり情報公開が重要になる。

では、これまでに政府が実施した偽・誤情報対策について、「取り組みの透明化」は行われているのだろうか。

政府は既に、「新型コロナワクチン」に関する偽・誤情報対策として、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」を実施している(参照)。しかし、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」に関しては、資料のほとんどが「不開示」となっており、その内容がほとんどわからない。

そこで、InFactでは、2023年5月25日、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の内容について情報公開を求め、情報公開訴訟を提起した。ところが、訴訟提起から約2年が経過し9回の期日が開催されたが、そこでもほとんど内容が分からない状況となっている。

「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の公開度

「新型コロナワクチン広報プロジェクト」で不開示になっている部分で、特に重要なのは、以下の3点だ。

①完全に不開示となっていた「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の委託業務完了報告書の内容(参照

②「誤情報」であるとして、厚生労働省に報告されていた、SNSやマスメディアで報じられていた情報の内容(参照

③「新型コロナワクチン広報プロジェクト」にブレーンとして参加している「外部有識者」とは誰か(参照

約2年間の訴訟で明らかになった内容を見てみよう。

①委託業務完了報告書の内容

もともと、新型コロナワクチン広報プロジェクトの委託業務完了報告書については、以下の理由で完全な不開示となっていた(黒塗りでもない、一切の不開示)。

報告書には企業の営業上・経営上の情報が含まれており、また企業独自の手法・ノウハウが各所に使われており、法人等に関する情報であって公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため

本事業は厚生労働省が行う事務に関する情報であって、新型コロナワクチンの接種を安心して受けられるよう国民の理解と信頼が求められている状況において、正確な情報を丁寧に伝えるための広報に関する情報が各所に含まれていることから、公にすることにより、本事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため

その後、2024年3月1日に、厚生労働省は委託業務完了報告書のほとんどを「黒塗り」にした上で、一部開示を行った。その結果、委託業務完了報告書が約2000頁にも及んでいることが分かった。

その際、開示された業務委託完了報告書がこちらだ(参照)。
例えば、報告書の2頁・3頁は次のとおり、ほとんど全面的な「黒塗り」となっている。

その後、2024年10月9日に、委託業務完了報告書の追加開示が行われた。その際、新たに開示された委託業務完了報告書がこちらだ(参照)。

上記に添付した2頁・3頁を比較してみると、追加で開示されたのは、以下のとおりすでに入札仕様書で明らかになっている情報や、特に重要ではない情報のみだった。

「黒塗り」の箇所は、「企業独自のノウハウ」等が秘匿の理由だった。しかし、開示された箇所を見れば、特に重要ではない情報ばかりであり、秘匿が必要な「ノウハウ」とは言えない。しかも、訴訟提起によって追加で開示するのであれば、なぜ、もともとは「黒塗り」ですらない完全な不開示だったのか疑問だ。厚生労働省の対応は、重要ではない情報を小出しに追加で開示することで、時間を稼いでいるようにも見える。このような対応では、実施していた偽・誤情報対策の「透明化」が実現できているとは認められないだろう。

②報告されていた「誤情報」の内容

「新型コロナワクチン広報プロジェクト」(以下、広報プロジェクト)の中で、「SNSやマスメディアで拡散する誤情報」として報告されていたものがある。これは広報プロジェクトの中で、国民の表現の自由が侵害されることがなかったのか検討する上で重要な情報だ。

これについて、これまで厚生労働省は、この広報プロジェクトで報告された「誤情報」は保有していない旨回答していた。

この点について、情報開示訴訟では、報告された誤情報を保有していない理由について、報告書の形で厚生労働省から詳細な説明があった(参照)。

広報プロジェクトを担当した、PR会社(株式会社プラップジャパン)から「誤情報」の報告を受けていない理由は、以下のとおりだ。

「株式会社プラップジャパンは…同ワクチンに関する情報で、SNS上で反響が大きいと判断した投稿等を抽出し、予防接種課に対し随時報告を行っていた。つまり、株式会社プラップジャパンは、厚生労働省に対し、同社において非科学的な内容や誤情報であるかを特定した上で収集したものを報告していたわけではない。」

厚生労働省が提出した報告書より。

すなわち、広報プロジェクトを担当していた株式会社プラップジャパン自身は単に反響の大きい情報を厚労省に報告しただけであり、「誤情報」の収集・報告を行ったわけではないため、プラップジャパンが広報プロジェクトの中で収集・報告した「誤情報」は存在していない、との説明だ。

「『誤情報』として集めていないから『誤情報』ではない・・・」このような理由が許されれば、情報開示は進まないだろう。これでは、新型コロナワクチンに関する懸念の全てを「誤情報」として扱っていたのではないかとの疑惑さえもたれかねない。

③「外部有識者」とは誰か

広報プロジェクトの専門的知識を担保するブレーンとして外部有識者の存在が示されている。この外部有識者については、どの程度開示されたのだろうか。「情報源の透明性」の観点からは、誰が外部有識者だったのかは重要な問題だ。

「外部有識者」は「医療系インフルエンサー」であることまでは公開された資料から判明している。

当初、厚生労働省は、外部有識者は電話で選定の連絡をする等しただけであり、外部有識者に関する資料については保有していないと説明していた(参照)。

厚生労働省が提出した報告書より。

しかし、2024年3月1日に、「外部有識者の検討資料」が存在していることを認め、ほとんど「黒塗り」ではあるものの、「外部有識者の検討資料」を開示した。

そして、2024年10月9日、厚生労働省は、「黒塗り」部分を一部開示した。しかし、新たに開示されたのは、「依頼事項」だけであり、何ら新しい情報は含まれていなかった(赤枠内)。

このように、重要ではない情報を小出しにする姿勢からは、やはり、厚生労働省は実施していたワクチンに関する偽・誤情報対策の情報開示に対し、消極的であると言わざるをえない。

なお、「外部有識者の検討資料」は外部有識者の個人情報が含まれていることを理由に不開示となっているが、そこには、「外部有識者の顔写真、氏名、所属・役職、学歴・経歴」、「当該候補者が情報発信に用いていると思われる情報プラットフォームに関する記載がある。」とのことであった。

国が提出した準備書面より。

情報プラットフォームを用いて情報発信を行っているとの記載からも、やはり、「外部有識者」は、SNSで活動する医療系インフルエンサーではあるようだ。

透明性を欠いた偽・誤情報対策

2023年5月に訴訟を提起して、現在までに判明した「新型コロナワクチン広報プロジェクト」に対するファクトチェックの結果は以上のとおりだ。

政府自身が実施してきた偽・誤情報対策は、情報開示がほとんどされることがなく、取り組みの透明性を大きく欠いている状況だ。とても情報公開が進んでいるとは言えない。以上がファクトチェックの結果だ。

ファクトチェッカーの意見

以下、ファクトチェッカーとしての意見を敢えて書き記しておく。政府が行った偽・誤情報対策をブラックボックスにして情報公開が不十分なままで、プラットフォーマーに対してだけ偽・誤情報対策を課そうというのが現在の流れとなっている。しかし、これでは政府が意のままに情報を操作する「官製ファクトチェック」という別の懸念が生じることになる。そういう社会を私たちは健全とは考えない。それは、指摘しておかねばならない。

(田島輔)

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