政府が新型コロナのワクチン接種を進めるために取り組む「ワクチン広報プロジェクト」には「外部有識者」と呼ばれるブレーンが存在しているが、その「外部有識者」が「医療系インフルエンサー」であることが明らかになった。ワクチンの専門性よりも影響力が重視されたという疑惑が浮上している。(田島輔)
「随意契約」による契約締結
InFactでは、厚生労働省がワクチン接種推進のために実施している「ワクチン広報プロジェクト」(ワクチンのファクト⑬、ワクチンのファクト㉑)を検証している。これまでに記事で伝えた「ワクチン広報プロジェクト」は入札の実施が公告され、入札への参加が広く公募されていたものだ(1回目は2021年5月25日(参照)、2回目は2021年12月23日(参照)、3回目は2023年1月19日(参照))。
実は、「ワクチン広報プロジェクト」の1回目の入札に先立つ2021年2月16日、「随意契約」により、PR会社であるプラップジャパンと厚生労働省の間で「ワクチン広報プロジェクト」の委託契約が締結されていた。
ブレーンは「医療系インフルエンサー」
「ワクチン広報プロジェクト」では、「外部有識者」と呼ばれるブレーンが存在し、「ワクチンQ&Aサイトの運用支援」、「記者向け勉強会での資料作成」、「非科学的な報道内容を行ったメディアとの面談」といった業務のサポートを行っていることは分かっていたが、「外部有識者」が一体どのような人物なのかは一切不明だった。
そこで、2021年2月16日に締結された、最初の「ワクチン広報プロジェクト」について情報公開請求を行い、契約書や仕様書を入手した。
この仕様書では、次のような記載が続いている。
つまり、ワクチン広報プロジェクトでブレーンとして専門知識を提供する「外部有識者」は「医療系インフルエンサー」ということだ。「医療系インフルエンサー」の意味を調べてみたところ、具体的な定義は不明だったが、X(旧Twitter)等のSNS上で医療情報を発信し、高い人気を集めている医師や薬剤師といった医療従事者を指すようだ(参照、参照)。
医療系とされているものの、社会に対して影響力のある「インフルエンサー」が「広報プロジェクト」のブレーンと起用されているということだ。本来は、mRNAワクチンの正確な知見や知識を周知する専門性こそが求められる立場だが、これでは、国民に対して広く影響力をもっているかどうかを基準にして「外部有識者」が選定されたということなのだろうか。
「医療系インフルエンサー」の定義はない
そこでInFactでは、厚生労働省に対し、「ワクチン広報プロジェクト」において「外部有識者」として起用されている「医療系インフルエンサー」について、どういった定義・基準で選定されているのか、確認を行った。
厚生労働省予防接種室の回答は次のとおりだ。
Q ワクチン広報プロジェクトで外部有識者として採用されている「医療系インフルエンサー」について、厚生労働省で、選定のための定義や基準をもっているのか?
A 確認したところ、明確な定義はありませんでした。
Q 「医療系インフルエンサー」を選定した際に、フォロワー数など客観的な基準というのもないということか。
A そういうことになります。
Q それでは、選定のための定義や基準は存在しないという回答でよいか。
A そうですね。
選定された「医療系インフルエンサー」について、選定のための定義も基準も存在しないという回答だ。
定義も基準もなく、どのような経緯で「医療系インフルエンサー」は選定されたのだろうか。
そのような「医療系インフルエンサー」は、mRNAワクチンという全く新しいテクノロジーのワクチンに関する適切な知見を有していたのだろうか。
定義や基準がなく、単に影響力が強いというだけで、「外部有識者」として「医療系インフルエンサー」が選定されているのであれば、それは問題なのではないだろうか。
「医療系インフルエンサー」活用の問題は?
政府がどのように、「医療系インフルエンサー」を活用していたのか、その具体的な内容は不明な部分が多い。
もっとも、新型コロナワクチン接種に関する政府広報(参照)に登場する忽那賢志医師(X〔旧Twittr〕で20万人以上のフォロワーをもつ。参照)など、政府のコロナワクチン広報活動には、様々なインフルエンサー医師が携わっているように見える。
インターネットやメディアでも、様々な医師が新型コロナワクチン接種について積極的な広報活動を行っていた。
もっとも、忽那医師も含めて、「医師」というだけで、「mRNAワクチン」という極めて新規性の高い技術について、専門的な知見を有しているのか否かについては明確ではない。
もちろん、影響力のある医師らに、ワクチンの広告塔になってもらうという手法自体は一定の合理性があり、禁止されるものではない。
しかしながら、ワクチン接種は、ワクチンの効果や安全性に対する国民の理解が前提であり、特に安全性については丁寧な説明が必要であったはずだ。具体的な定義も存在しない、専門性も不明な「医療系インフルエンサー」に、mRNAワクチンという新規のワクチンに関する「専門知識」を担わせることは問題ないのだろうか。
ワクチンの接種率向上に不利な情報も含めて、適切な情報提供はなされていたと言えるのだろうか。影響力のある「医療系インフルエンサー」による広報活動を重視することは、そのこと自体がワクチンの安全性よりも接種率の向上を重視した結果に見える。メディアやSNSで活動していた医師が「医療系インフルエンサー」として政府に協力している医師だった場合、それはワクチンの安全性を担保する第三者的な資格が有るのか。政府は更に情報の開示をすべきだ。