ワクチン接種の世論形成のために厚労省が実施していた「ワクチン広報プロジェクト」(ワクチンのファクト⑬)。SNS上で拡散する誤情報の収集や、厚労省が実施する記者勉強会の実施がその内容だ。では、収集した誤情報とはどのようなものなのか?情報公開請求を行ったところ厚労省の回答は「保有していない」というものだった。(田島輔)
「ワクチン広報プロジェクト」とは
厚生労働省(以下、厚労省)は、新型コロナワクチン接種に向けた世論形成のため、2021年から「ワクチン広報プロジェクト」を実施している。「ワクチン広報プロジェクト」の内容については、「ワクチンのファクト⑬」で紹介した。
「ワクチン広報プロジェクト」は、2021年度はPR会社のプラップジャパンが、2022年度は電通PRコンサルティングが落札している。そして、2023年度も、ほとんど同じ内容で入札が実施され、現在も「ワクチン広報プロジェクト」は実施されている(参照)。
入札仕様書によれば、「ワクチン広報プロジェクト」の目的は次のとおりだ。
新型コロナウイルスワクチンについて、迅速・丁寧な情報発信を行い、正しい情報に基づいて、国民が接種を受けるかどうかの冷静な判断を行いうる環境を醸成するとともに、接種を受けようとする国民が安心して接種を受けられるよう世論形成を行い、定量的な国内の新型コロナワクチン接種数の増加を目指す。
具体的には何をやっていた?
「ワクチン広報プロジェクト」で実施された施策について、InFactが注目したのは次の3点だ。
①厚生労働省による、マスメディアやSNS上での「誤情報」の収集
②新型コロナワクチンに関する、定期的な記者勉強会の実施
③「ワクチン広報プロジェクト」に協力する、「ワクチンの知見を有する外部有識者」の存在
具体的に見てみよう。
入札仕様書には、マスメディアやSNS上でのワクチンに関する「誤情報」の収集について、以下の記載がある。
これについて3つの点が気になるところだ。
先ずは厚労省が指摘する「誤情報」とは何を指すのか。既によく知られているように「新型コロナワクチン」はmRNAワクチンという従来のワクチンとは異なる新たな技術が使用されたものであり、未知のリスクがあることは否定できない。このことはワクチン説明書の「副反応について」でも明確に記載されている〔参照〕)。このため、陰謀論も含めてワクチンに否定的な情報が流れているのも事実だ。一方で、何が「誤情報」なのかは判断が分かれるケースもあり得る。厚労省が「誤情報」として収集した情報は、どのようなものだったのか。
もう1つは、「定期的な記者勉強会」だ。その目的については、「コロナワクチンに関する正しい情報を発信してもらうための広報支援」と記載がある。この「正しい情報」というのも、何が「誤情報」かという問題と同様に、判断が難しい場合があるだろう。
もう1つは、「ワクチンの知見を有する外部有識者」の存在だ。前述の通り、mRNAワクチンという初めて人体に使用される技術について、確かな知見を有している専門家が選定されていたのだろうか。選定は適当と言えるのか。
これら3点には、実施されていた内容について、さらなる検証が必要だ。そこでInFactでは、厚労省への情報公開請求を実施した。
厚労省への情報公開請求
このため、InFactで以下の内容で情報公開請求を厚労省に対して行った。
1.株式会社プラップジャパンが収集し、厚生労働省へ報告した以下の①~③の内容がわかる資料一式、①ネットメディアを中心とする主要メディア(テレビ、新聞、週刊誌)の報道の中で、非科学的な内容と判断したもの、②Twitter等のモニタリングデータをもとに分析された、SNS上で特に広く拡散されている誤情報、③その他、ワクチンに関して誤情報として報告された情報
2.株式会社プラップジャパンが作成した「厚生労働省が定期的に実施する記者勉強会や記者会見等におけるメディア向け資料」一式
3.株式会社プラップジャパンが「ワクチンの知見を有する外部有識者」とアドバイザリー契約を実施したことに関し、外部有識者の選定について厚生労働省と協議した際の資料、外部有識者の氏名・団体名がわかる資料、外部有識者とのアドバイザリー契約書、その他の本件契約に基づいてアドバイザリー契約を締結した外部有識者に関する資料一式。
厚労省は何も資料をもっていない?
情報公開請求は2022年3月に実施したが、厚生労働省から回答があったのは、請求から1年以上も経過した、今年(2023年)4月のことだった。
厚労省の回答は、請求した3点の資料を「不開示」とするというものだ。それはこれまでの情報開示の状況からある程度は推測できた。問題は、その「不開示」の理由だ。以下のように書かれていた。
事務処理上作成又は取得した事実はなく、実際に保有していないため。
しかし、この回答は全く納得できない。なぜなら、入札仕様書には、落札者であるプラップジャパンが、「誤情報を厚生労働省に報告する」、「記者向け勉強会資料の作成を厚生労働省と協議して行う」、「厚生労働省と協議の上、外部有識者とアドバイザリー契約を締結する」旨が記載されているからだ。存在しないなら、落札業者は業務を適切に行わず、厚労省はそれを見過ごしていたことになる。
この点について、担当部署である、厚労省の健康局予防接種担当参事官室に問い合わせを行ったところ、回答は次の旨だった。
対象となりそうなものを探しましたが、結果通知書の不開示とした理由のところに記載があるとおりです。
請求いただいた内容での、対象となるものはなかったということです。
厚労省は、入札の落札者であるプラップジャパンから、仕様書に定められている「誤情報の報告」等を受けていない、ということなのだろうか。
それとも、他の表現で請求を行えば、情報開示されるのだろうか。
この質問について、厚労省の回答は次のとおりだった。
そこは、私の方では何とも言えません。
請求いただいたものについて、こちらで探した結果、結果通知の理由に書いてあるようなことになっているということです。
厚労省に回答は、あくまで、対象となる文書は保有していない、というものだった。
仮に、厚労省の回答が事実だったとしたら、本当にプラップジャパンが「誤情報」の報告や記者向け勉強会の資料作成支援を行っていないということになる。「ワクチン広報プロジェクト」は、契約金額が6998万8600円となっている。もし委託された活動が行われていないのであれば、入札の制度そのものの問題であり、税金の無駄遣いとの批判にも反論できないだろう。
100人あたりの新型コロナワクチン接種回数は、他国と比較して日本が最も多くなっている(参照)。
ワクチン忌避が強いと言われていた日本において、これほどまでに成功した「ワクチン広報プロジェクト」とはどのようなものだったのか。InFactでは今後も調査を続ける。