世界の子ども兵の数は推定30万人以上。補充可能な消耗品として、大人の兵士の損失を軽減するための「人間の盾」として、また自爆攻撃「兵器」として、上官の性の相手として、少年少女が兵士として動員させられているのだ。悲惨な子ども兵士の実態について京都女子大の市川ひろみ教授が報告する。(整理/石丸次郎)
自動小銃を手に戦闘訓練させられる少年たち(イラク・IS映像)
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便利な資源としての子ども兵
子どもは、軍隊や武装勢力にとって好ましい資源として利用される。子どもは、誘拐や徴集によって供給することができるうえ、給料を要求することもなく安価で、小さく目立たず、敏捷である。その上、子どもは周りの大人に依存しがちであり、上官にとっては従順で扱いやすい。
少なくとも30万人の子ども兵(そのうち女子はおよそ3分の1)がいると推定されている(25)。6歳以下の子どもは戦闘員の10%、未成年者は75%にも達するとされる(26)。
軍や武装組織は、村を襲撃した際や、難民キャンプ、ストリート・チルドレンがいる市場、学校や孤児院などで子どもたちを誘拐するが、自ら「志願」して入隊する子どもも少なくない(27)。
「志願」の理由は、家族への反抗心や冒険心、あるいは、家庭内の暴力から逃れるためであったり、「敵」から家族を守るためなど様々である。親が殺されたり、行方不明だったり、村が焼き討ちにされたりした場合には、子どもたちだけでは生きていけない。
紛争で社会が疲弊している時、彼らに保護を与えるのが軍隊だけであることも少なくない(28)。モザンビークでは、子ども兵として入隊している方が、よりよい状況にあったとする研究さえある(29)。
子ども兵は多様な仕事に従事する。戦闘任務にも就くが、多くは偵察や荷物運搬、密輸、調理、掃除、通信連絡、情報収集などに従事している。少女は、食事の準備や傷の手当てなど兵士らの身の回りの世話をさせられ、しばしば大人の上官の「妻」となることを強要される。
銃を持って戦闘に加わる危険は言うまでもないが、基地が襲撃されることもあり、他の子どもも危険な状態におかれる。子どもたちは、成長に必要な食料と睡眠が十分に確保されることも、教育や医療・保健サービスを受けることも望むべくもない。
軍事訓練開ける子供たち。「イスラム国」支配地域には外国から入ってきた戦闘員の子弟も暮らす。その中には将来の戦闘員としての軍事訓練を受けている者も少なくない。(シリア・IS映像)
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倫理欠如から時に大人より残虐に
逃げだそうとして失敗した子どもが殺されるのを見ること、さらには、その子を「殺さなければ、おまえを殺す」と殺人を強制されることも珍しくない。家族や共同体とのつながりを断ち切るためや、凶暴性をもたせるために、子どもたちは自分の出身の村で残虐な行為を強要されることもある。
社会的・倫理的観念が確立される前に暴力を強要されること、また、しばしばアルコールや麻薬を使って異常な精神状態にされることなどから、子どもは大人よりも残虐になりうる。子ども兵は、罪のない民間人の腕を切り落とし、強かんし、殺し、略奪し、放火し、畑を荒らし、井戸に毒を盛り、大量殺戮にも加わる(30)。
消耗品の子ども兵、自爆攻撃に使用されることも
子どもたちは、大人の上官にとっては補充可能な消耗品である。コロンビアで兵士であった少女は、「もし、あなたが司令官を護衛できていないとゲリラが判断すれば、彼らはあなたを殺す。戦闘では、彼のためにあなたは命を差し出さねばならない。彼は最初に逃げ、あなたは残って敵と戦わねばならない」と語っている(31)。
子どもは、大人の兵士の損失を軽減するために、「人間の盾」とされたり、地雷原を歩かされることもある。自爆攻撃にも使用される。アフガニスタンでは、2007年に国際治安支援部隊(ISAF)が、12歳と6歳の男の子が爆薬の仕込まれたベストを着せられていたケースを確認している。チェチェンでは、10代の少女を複数の男性が輪姦し、彼女の将来への希望を絶ち、自爆攻撃実行者とさせることもある(32)。
子ども兵は、たとえ戦争から生きのびることができても、社会で生きていくうえで様々な困難がある。彼らが、発達に応じて社会性を身につけることができなかった場合には、社会の中で日常生活を営むのは難しい。ましてや、アルコールや薬物の依存症、性病やその他の感染症に冒された状態で生きてゆくことの過酷さは想像に難くない。
身の危険を感じる体験、残虐行為を目撃・強制された経験、性奴隷とされた経験は、子どもたちに深い心の傷を負わせる。軍や武装勢力から解放された後も、悪夢や思い出したくない体験に突然連れ戻されるフラッシュ・バックなどに悩まされる。
モザンビークで、スパイ、調理員、洗濯員、荷物運び、戦闘員などとして2ヶ月~3年間兵士となっていた39人の元子ども兵を対象とした調査によると、全員に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状がみとめられた。そのうち、紛争後の生活に適応するのに特に重大な困難があったのは3人で、2年以上兵士だった子どもたちだった(33)。
深刻な少女の性被害、性搾取
元子ども兵だった少女たちは、さらなる苦難に直面する。元兵士が社会に復帰することを支援するプログラムでは、治安の回復を主たる目的としている場合が多く、女子はほとんど対象とならない(34)。
一般の住民からも、同じ元子ども兵であっても、少女には厳しい目が向けられる。兵士として身についてしまった乱暴な言動は、男性の場合は許されても、女性の場合は受け入れられにくい。
わけても深刻な問題となるのは、少女が、性的な搾取・虐待を受けていた場合である。彼女たちは、性的に厳しい規範のある社会では、「汚れた」存在として卑しまれる。上官の「夫」から遺棄された少女は、子どもを連れている場合が少なくない(35)。
面倒をみてくれる家族やコミュニティーがない場合、彼女らは、自活していかねばならないが、子どもをそばにおいて働くことを強いられる(36)。
※本稿の初出は2014年6月発行の「京女法学」第6号に収録された、市川ひろみさんの論考『冷戦後の戦争と子どもの犠牲』です。
<<執筆者プロフィール>>
いちかわ・ひろみ
京都女子大学法学部教授。同志社大学文学部、大阪大学法学部卒業。神戸大学法学研究科修了。専門は国際関係論・平和研究。著書に『兵役拒否の思想─市民的 不服従の理念と展開』(明石書店)。共著に『地域紛争の構図 』(晃洋書房)、『国際関係のなかの子ども』(御茶の水書房)ほか。
<<【以下注】>>
25子ども兵士禁止のための世界連合(Coalition to Stop the Use of Child Soldiers)による3~4年ごとに出される報告書は、ホームページからダウンロードできる。http://www.child-soldiers.org/global_report_reader.php?id=97 戦場で武力を行使する子どもについては、松本、前掲書および市川、前掲論文(2012年)、266-269頁参照。
26 P.W. Singer, ‘Talk is cheep: Getting Serious About Preventing Child Soldiers’, Cornell International Law Journal, vol.37, 2004, p.562.
27 Rachel Brett and Irma Specht, Young Soldiers: Why they Choose to Fight, Boulder, CO: Lynne Rienner Publishers, 2004.
28 シエラレオネでかつて司令官も勤めた16歳の少女は、次のように証言している。「私は、私が(軍隊で)学んだこと・・・について誇りをもっている。これらは政府から与えられたのではない。他にどのようにして私は将来をもてただろう?」Michael Wessells, “A Living Wage: The importance of livelihood in reintegrating former child soldiers , Neil Boothby, Alison Strang, and Michael Wessells, A World Turned Upside Down: Social Ecological Approaches to Children in War Zones, Kumarian Press, Inc., Bloomfield, 2006, p.184.
29 Mark A. Drumble, Reimaging Child Soldiers in International Law and Policy, Oxford University Press, 2012, p.55.
30 Machel, op. cit., pp. 12-14.
31 Ynonne E. Keairn, The Voices of Girl Child Soldiers: Colombia, Quaker United Nations Office, Geneva, Jan. 2003, p.15.
32市川、前掲論文(2012年)、268~272頁参照。
33 1998年から2004年の16年間にわたって行われた調査による。誘拐された時6歳だったフラニセは、家族の元に戻ったが、23歳になっても結婚せず、ほとんどの時間を一人で過ごし、暴力的で気分のむらがあり、妄想的だった。近所の人々によると、「戦闘は彼の心の中で続いていた」のだった。14歳の時にモザンビーク民族抵抗運動(RENAMO)に加わり、若者旅団のリーダーになったフェルナンドは、学校はもとより家族にもなじめなかった。仕事に就こうともせず、男友だちと飲み、兵士だったころの「よい時代」を懐かしんでいた。彼は、ある夜、酔って警官を襲ったために射殺された。Neil Boothby, “When Former Child Soldiers Grow Up: The Key to reintegration and reconciliation”, Neil Boothby, Alison Strang, and Michael Wessells, A World Turned Upside Down: Social Ecological Approaches to Children in War Zones, Kumarian Press, Inc., Bloomfield, 2006,p.168-169
34 Susan Mckay, “Girlhoods stolen: The plight of girl soldiers during and after armed conflict”, Boothby et.al., op. cit., p.99.
35 Michael G. Wessells, The Recruitment and Use of Girls in Armed Forces and Groups in Angola: Implicaitons for Ethical Research and Reintegration, Ford Institute for Human Security, 2007. (http://kms1.isn.ethz.ch/serviceengine/Files/ISN/45789/ipublicationdocument_singledocument/d0a1d86a-2054-44eb-adf1-dc7bb57f2aca/en/2007_Recruitment_Use_Girls.pdf, 2012年7月12日閲覧)
36 Mckay, op. cit., p.102.
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