立憲民主党の代表選は11月30日と決まった。次の代表が誰になろうとも、今回の選挙の総括は不可避だろう。この連載では苦杯を喫した候補者への取材から、なぜ立憲民主党が負けたのかを掘り下げていく。今回は日本維新の会が圧勝した大阪で戦い、そして敗れた尾辻かな子さんに話をきいた。尾辻さんも野党共闘の方向性は間違っていないと話した。(立岩陽一郎)
「候補者調整大事です。全てを見ていないんですが、(野党共闘で)1本化していないところで勝ったところって有るんですかね?」
立憲民主党(以後、立憲)の候補者として大阪2区から出て敗れた尾辻かな子(46)さんは、野党共闘についてそう語った。
立憲はなぜ負けたのかを考えるこのシリーズ。1回目の安田真理さん(兵庫7区)の記事はそれなりの反響を呼んだ。当然、批判のコメントも多く寄せられた。その中で、「負けた人間にきいてどうする」「有権者にきかないでどうする」という意見が多く見られた。そうした意見は有るだろう。しかし有権者の判断がなぜそうなったのかを、最も身近に、肌身に感じたのは候補者だ。読んで頂いたことに感謝しつつ、私は取材を続ける。尾辻さんの事務所に行ったのは11月中旬だった。
尾辻かな子さんは大阪出身。同志社大学商学部を出て大阪府議を経て参議院議員、そして衆議院議員・・・こう書くと順風満帆な政治家人生のように見えるが、実はそうではない。自らが性的マイノリティーであることを公表し、「誰も置き去りにしない社会へ」と訴えてきた。2019年には同性婚を可能にする民法一部改正案を提出。その議員活動は、挑戦に次ぐ挑戦だ。落選も経験している。社会福祉士、介護福祉士の資格は落選中に生きていくためにとった資格だ。
再選を目指す今回の選挙だった。
尾辻さんが出た大阪2区は、大阪市南部の住宅街からなる。世界陸上やJリーグの試合、人気アーチストのコンサートも開催される長居公園などがあるが、庶民的な地域と言って良いだろう。
先ず、今回の選挙結果を見ておこう。日本維新の会(以後、維新)の新人が連続当選の自民党ベテラン議員を押さえて当選したことで注目された。維新は大阪の小選挙区19のうち、15で候補者を立てて全員が当選している。
尾辻さんは自身のシンボルカラーであるピンクのコーディネートで取材に応じた。先ず、選挙区の話から入った。
「ここは都市型選挙です。加えて、選挙区内に公明党が強い地域を抱えています。自民党が強いというよりも自公の相乗効果で自民党が勝ってきたという感じです」
今回は、維新は本気で勝ちにいったと尾辻さんは見ている。そして自民党のベテランを破る。
「守島正氏は維新のエースの1人ですから」
前回の2017年の選挙結果は以下だ。
本人も認める通り、尾辻さんは必ずしも選挙に強い候補ではない。前回は立憲の勢いで比例復活している。しかしコロナ対策で国会で尾身茂会長から言質を引き出すなどの活躍が全国ニュースで報じられている。4年間の実績は地域にも浸透している筈だと思っていた・・・実際には黒岩宇洋氏など、国会で頑張った議員が落選するケースが多かったのだが。
こうした中、尾辻さんは立憲、共産に加えて浮動票の獲得を目指した。連合の推薦候補として連合の支援は得た。しかし、連合に過去の勢いが無いのも事実だ。
公示前の予想はどうだったのか?
「自民、維新と私で、8万票で団子になって三つ巴になることを目指していた」
ところが結果は維新の圧勝。
「予想以上に維新が強かった」
尾辻さんは淡々と語った。淡々と語るしか・・・ないのかもしれない。それだけ大阪で維新は強かった。前回取材した安田さんは、維新と立憲の結果は選挙戦の進め方も表裏だったと語った。尾辻さんは違う観点から同じことを言った。
「私たちは政党よりも人の選挙です。例えば、個々の選挙活動で候補者はそれぞれの色で戦っています。私はピンク。安田さんは確か黄色だったと思います。立憲はブルーですが、みんなそれぞれのカラーで戦いました」
維新は違ったと言う。
「維新は人より政党です。維新というブランドで戦っていた。維新の黄緑で戦っていました」
維新はブランドを確立していた?
「それは首長をとっているからです。コロナ対策で大阪府知事の吉村さんは連日テレビに出るわけです」
なるほど、と思う。
吉村知事は維新の代表ではない。テレビにはあくまでも大阪府の知事として出ている。番組も、私が出ている情報報道番組も含めて、大阪府のかじ取り役として出ている。しかし、その人物が個々の維新の候補者の応援に登場する。それが維新のブランドを確立する。特に露出の多い大阪で維新が圧勝した要因の大きな部分を占めていると言っても良いだろう。
そうした中で野党共闘は機能したのか、しなかったのか?
「参議院選挙(2019年)の1人区では野党共闘がうまくいったわけです」
そして、次の様に言った。
「今回の選挙でも接戦区が多かったのも事実です。比例票がのびなかった点は考えないといけませんが、選挙区では最後に競り負けたところが多かった。与野党1対1の構図を作らないと勝てないと思います」
そして冒頭の言葉だ。
「(野党共闘で)1本化していないところで勝ったところって有るんですかね?」
勿論、例外は有る。しかし調べたところ立憲と共産の双方が出て立憲が議席を得たのは2選挙区だけだった。そのうちの1つは東京3区の松原仁氏なので共産党がのれなかったのも無理ないといったところか。他の選挙区では負けており、いくつかの選挙区では立憲と共産の票を足すと当選した自民党候補者を上回る。
とは言え、大阪の選挙区では維新の「一人勝ち」だった。
「自民はあかんという人は多かったが、立憲と維新とでどちら受け皿になるか?となると、維新だった。立憲は政権担当能力があるとは見られなかった」
なぜ立憲ではなく、維新だったのか?野党共闘が原因か?尾辻さんはそうではないと言った。
「維新は自治体議員が10人以上いて、そこにのっかって選挙をする。こっち(尾辻)は自治体議員ゼロ。そこに圧倒的な自力の差が出る」
そこには維新の周到な戦略が有ったと尾辻さんは見る。
「身を切る改革によって自治体議員の数を減らす。そして維新の自治体議員を相対的に増やす。そこでメディアによる発信が重要になる」
そうだとすると、それはもう巧妙なブランド戦略だ。尾辻さんからは維新がなぜ勝ったのかという分析が次から次に出る。それはそれで面白いが、しかしそれでは立憲が負けた理由が明確にはならない。
連合はどうだったのか?
「私は連合推薦ですし、 選挙運動の母体となってくれたのは間違いない」
どうしても言葉が少なくなる。維新の強さを見せつけられたショックの大きさなのだろうか。
では、党本部からの指示はどうだったのか?前回取材した安田さんは「(立憲は)政党があってないようなもの・・・」と話し、それがネットで話題となっていた。尾辻さんも状況は同じだったようだ。
「公示前に(選挙区の)情勢が届けられた程度でしたが、基本的にはそういうものだという認識でした」
それでは選挙で勝つのは難しいのではないかと問うてみた。
「4年前にできた政党ですから、自民党のような組織力はないんです」
枝野氏の辞任について問うと、言葉を選んだ。
「誰かが責任をとらねばならない・・・代表が責任をとるのは致し方ないという感じです」
立憲は負けた。しかし、野党共闘は負けたのか?
「実際には接戦に持ち込んで負けたケースも多い」・・・尾辻さんは何度かそれを口にした。そして少し強い口調で言った。
「選挙結果を冷静に分析する必要が有ります」
今後について問うた。野党共闘はどうあるべきか?
「野党共闘の在り方を考える必要は有るが、野党共闘でないと勝てないのは間違いない。それをどう進めるのかの具体的な議論が必要です。参議院選挙に向けて、地域によって状況が違う中で野党共闘をそれぞれの場所に合わせて、その在り方を工夫することが大事ではないか」
そして繰り返した。
「与野党1対1の構図を作らないと勝てません」
取材を終わろうとすると次のように言った。
「自分の落選も辛いですが、辻元さんを落としたこと、これが本当に申し訳ないんです。私にとっては姉のような存在ですんで」
尾辻さんの目が潤んでいるように見えた。私は謝意を表して事務所を出た。