SNS上で調味料「味の素」に対して「さとうきびから作られようが精製抽出してナトリウム添加してる時点で毒」との指摘がなされているが、味の素の成分であるグルタミン酸ナトリウムの安全性は国際機関で認定されている。この言説は根拠不明だ。
対象言説
「出た出た。なんの恥じらいもなければドーンと構えてればいいものを下手に反論してやがる。さとうきびから作られようが精製抽出してナトリウム添加してる時点でもうそれは(味の素は)毒なんだよ。わからんやつは10年でも20年でも摂り続ければいいよ」X(24年3月25日)
このうち「さとうきびから作られようが精製抽出してナトリウム添加してる時点でもうそれは毒なんだ」をファクトチェックした。
結論 【根拠不明】
調味料の味の素はさとうきびから抽出した糖蜜を原料としている。その糖蜜が発酵して生まれたグルタミン酸に水酸化ナトリウムを添加することによって、グルタミン酸ナトリウムが生成される。それが味の素として製品化されている。このグルタミン酸ナトリウムは、国際機関によって安全性が証明されており、添加された水酸化ナトリウムも製品の完成前に中和・除去される。よって、この言説の根拠は不明である。
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。
問題のツイートは「根拠不明」であり、これは2エンマ大王となる。
エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
ファクトチェックの詳細
この対象言説は、「味の素はさとうきびを発酵させて作るので大豆を発酵させて作るほぼ醤油とか味噌とかと原理は変わんないんですよね」との他の人のXの内容を否定する意図で発信されており、「味の素」について「さとうきびから作られようが精製抽出してナトリウム添加してる時点でもうそれは毒」と指摘しているものと理解できる。このため、先ず味の素の生産工程について確認した。
味の素の公式ホームページによると、味の素はさとうきびを始めとした自然素材を用いている。それらから搾った糖蜜(ほかにタピオカなどのデンプンなど)とグルタミン酸生産菌(発酵菌)を同じタンクの中でかきまぜて発酵させることで、グルタミン酸を生産する。生産されたうまみ成分であるグルタミン酸は、水酸化ナトリウム(食品用)を添加することでグルタミン酸ナトリウムになり、それを結晶化したものが味の素の成分の大部分である。このような自然素材を発酵菌によって発酵させ食品を作るという方法は、チーズ・ヨーグルトといった乳製品、醤油、味噌などの製法と同じである。
このグルタミン酸ナトリウムの安全性については、 1987年に世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)による合同食品添加物専門家会議(JECFA)によって、食品添加物として「1日許容摂取量(ADI)を特定しない」という評価がされている。この「ADIを特定しない」ということについて日本食品科学研究振興財団は次のように説明している。
「ADI を特定しない (Not specified)又は制限しない (Not limited)
摂取量の上限値を数値で明確に定めないADI は、極めて毒性の低い物質に限られるもので、食品中に常在する成分、又は食品とみなし得るもの若しくはヒトの通常の代謝物とみなし得るものに設定される。入手(化学的な、生物学的及び毒性学上の)データにより、目的とする効果を得るために必要な量でのその物質の使用、及び食品中に存在するものからもたらされる当該物質の毎日の摂取が、健康に危害をもたらさないことが示されている。この理由及び個々の評価で示した理由に基づき、mg/kg/日でADI を設定する必要がないと考えられる。」
つまり、日常的な摂取が行われても健康に影響が及ばないということである。
また、食品の生産過程で添加された水酸化ナトリウムは、最終食品の完成前に中和・除去しなければならないことが「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)によって規定されている。この規定のもと、味の素も水酸化ナトリウムが取り除かれた形で最終食品になっている。
言うまでもなく、グルタミン酸ナトリウムに限らず、基本的にどのような物質でも過剰摂取すると人体に有害な影響を及ぼす可能性は否定できない。対象言説を誤りと判定していない理由はそこにある。しかし対象言説が主張するようにナトリウムを添加している時点で直ちに毒である、と言える根拠は見当たらない。少なくとも、味の素の主成分である、グルタミン酸ナトリウムについては、日常的な摂取が健康に被害をもたらすことはないと、国際機関が安全性を評価しており、この言説を根拠不明と判断する。
(東向玲奈)