新型コロナワクチン接種開示当時にワクチン接種推進担当大臣を務めていた河野太郎大臣に対し、「ワクチン接種による健康被害について責任をとるべき」という言説が繰り返し拡散している。河野大臣は、ワクチンの「ロジスティクス」(自治体への配布等)が自分の責任である旨の反論をしているものの、「ワクチン接種推進担当大臣」の業務には「リスクコミュニ―ション」も含まれている。そのため、河野大臣の主張は「ミスリード」だ。
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対象言説
承認されたワクチンをファイザーやモデルナと交渉して入手し、EUと交渉して日本向けの輸出の了解をもらい、自治体に配布してうってもらうのが私の責任です。(2024年4月21日〔参照〕)
結論
【ミスリード】新型コロナワクチン接種推進担当大臣としての河野大臣の所管事務には、ワクチンの入手や配布といった「ロジスティクス」だけではなく、有効性や安全性、副反応を適切に情報発信する「リスクコミュニケーション」も含まれている。そのため、自身の責任範囲として「ロジスティクス」にだけ言及する河野大臣の発言は「ミスリード」と判定する。
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。これ2エンマ大王となる。
エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
ファクトチェックの詳細
「ワクチン接種推進担当大臣」の所管業務は?
今回のファクトチェックの目的は、河野大臣にワクチン後遺症に対する責任があるか否かを判断するための前提事実である、「ワクチン接種推進担当大臣の所管業務」が何であったか、を確認することだ。
以下では、「ワクチン接種推進担当大臣」の所管業務を検証していく。
まず、2021年1月18日、当時の菅義偉総理は、河野大臣を「ワクチン接種推進担当大臣」に任命した。
加藤勝信官房長官(当時)によれば、総理からの指示は「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を円滑に推進するため、行政各部の所管する事務の調整を担当させる」というものだ(参照)。
もっとも、加藤官房長官は「広くワクチン接種を円滑に推進する事務においては、ワクチン接種に関しての広報・発信も当然含まれてくる」と説明している(参照、動画の3分27秒~)。
これを受けて河野大臣は、2021年1月22日の記者会見で、自身の担当業務の広報・発信に係る点について、「リスクコミュニケーションを含め、しっかりやってまいりたいと思っております。」と、説明している(参照)。
具体的には、河野大臣は次のように担当業務について国会で答弁していた。
ワクチンに関する政策決定は、これは厚労大臣である田村大臣が担当されます。私は、このワクチンのロジ※とリスクコミュニケーションの部分を担当いたします。(2021年2月12日、第204回国会衆議院予算委員会〔参照〕)
国民の皆様に正確な情報をお伝えをしてワクチン接種を受けていただくために、私がロジ※とリスクコミュニケーションを担当いたします。ワクチン接種が行われていく中で、様々な効果、安全性あるいは副反応といった情報は、PMDA、そして厚労省の審議会で様々評価をされます。その取りまとめは田村大臣が行いますが、それを基にリスクコミュニケーションを私が担当するということでございます。(2021年2月17日、第204回国会衆議院予算委員会〔参照〕)
※「ロジ」とは「ロジスティクス」の意味
つまり、「ワクチン接種推進担当大臣」の所管業務は、ワクチンに関する「ロジスティクス」と「リスクコミュニケーション」ということになる。
「リスクコミュニケーション」とは?
では、「ロジスティクス」と「リスクコミュニケーション」とは何を意味しているのだろうか。
「ロジスティクス」とは、ワクチンを無駄なく効率的に調達、運搬等する、ということだ。
冒頭の「承認されたワクチンをファイザーやモデルナと交渉して入手し、EUと交渉して日本向けの輸出の了解をもらい、自治体に配布してうってもらうのが私の責任です。」との河野大臣の発言は、新型コロナワクチンの「ロジスティクス」を担当する、ということになる。
そして、「リスクコミュニケーション」とは「関係者の間で、(リスクの評価結果を含む)情報および意見を相互に交換すること」を意味している(参照)。
厚労省の資料によれば、新型コロナワクチンに関する「リスクコミュニケーション」として、「有効性・安全性について特に丁寧な説明」、「正しい情報に基づくて接種の判断を行える環境の整備」が必要と記載されていた(参照、5p)。
河野大臣に期待する「リスクコミュニケーション」について、当時の菅義偉総理も次のように述べている。
国民の皆さんに自らの判断で接種をしていただけるように、副反応や効果を含めて科学的見地に基づいたワクチンに関する正しい情報を分かりやすくお伝えさせていくことが重要だというふうに考えました。
そうした観点から、田村厚生大臣がワクチンの安全性、有効性、副反応の情報を正確に収集をし、整理をして、その情報に基づいて河野大臣が分かりやすく丁寧な情報発信をする、このような役割を分担で両大臣でしっかり連携して取り組んでいく、そのような思いで指名しました。(2021年2月17日、第204回国会衆議院予算委員会〔参照〕)
実際に、河野大臣は、Youtueberと対談してワクチンの有効性・安全性を説明する動画を作成していた(動画は既に非公開となっている〔参照〕)。
また、ワクチンに関する情報発信を行う医師の集団である「こびナビ」監修の下で、ワクチンの誤情報に関する記事も作成している(参照)。
これらは、ワクチンの安全性、有効性、副反応について「分かりやすく丁寧な情報発信をする」という、「リスクコミュニケーション」担当としての業務だ。
河野大臣は「ロジ」を強調
新型コロナワクチンの健康被害に関する責任追及に対し、河野大臣は、自分は「ロジスティクス」担当であって、コロナワクチン後遺症については自分の責任の範囲外、と主張している(冒頭発言以外にも河野大臣は自分は「運び屋」(ロジスティクス担当)だった旨を繰り返している)。
(河野大臣Blog「ごまめの歯ぎしり」・「ネット上のデマについて」(参照))
しかしながら、上述のとおり、河野大臣はワクチンの「リスクコミュニケーション」担当でもあった。
副反応や予防接種救済制度の適切に周知するといった、リスクコミュニケーションの内容は、予防接種による健康被害の防止や救済と関連している。
そうであるとすると、現実に発生している健康被害について、河野大臣が全く無関係とは言えないだろう。
ワクチン副反応や予防接種救済制度が適切に情報提供されていたか等、河野大臣の「リスクコミュニケーション」は検証されなければならないはずだ。
以上のことから、ワクチン健康被害に関する責任追及に対し、「ロジスティクス」担当だけを強調し、「リスクコミュニケーション」担当という重要な事実に言及しない河野大臣の発言は「ミスリード」と判定する。
河野大臣の回答は?
InFactでは、次の2点について、河野太郎事務所に問合せを行った。問合せから1週間後とした回答期限までに回答はなかったため、今後回答があり次第、追記する。
1.2021年1月18日に河野大臣が任命された「ワクチン接種推進担当大臣」の所管業務は、上記ツイート(注:冒頭のツイート)で河野大臣が主張される新型コロナワクチンに関する「ロジスティクス」だけではなく、「リスクコミュニケーション」も含まれていると理解しております。この点は間違いないでしょうか。(河野大臣も、当時、国会においてその旨を答弁されておりました。〔参照〕)
2.新型コロナワクチンの「リスクコミュニケーション」には、重篤なものを含む副反応の状況や予防接種健康被害救済制度の適切な周知も含まれていると考えられます。「ワクチン接種推進担当大臣」として、河野大臣の「リスクコミュニケーション」(副反応や予防接種健康被害救済制度の適切な周知)は適切なものであったのか、河野大臣のお考えを御教示下さい。
冒頭画像:自民党総裁選への出馬表明を行う河野太郎大臣(2024年8月26日)(「THE PAGE」より)
(田島輔)