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アメリカ中間選挙取材メモ② 上院選の結果は読めない

アメリカ中間選挙取材メモ② 上院選の結果は読めない

2010年に留学した首都ワシントンにあるアメリカン大学大学院でともに学んだラス・チョーマ氏。政治資金を調査する団体を経て、現在はリベラル系の雑誌として知られるマザージョーンズ誌でトランプ大統領を追及している。首都で調査報道記者として政治を見続けている彼の選挙前の考えをきいた。(取材/立岩陽一郎)

ラスが指定したクレイマーズ・カフェは同名の書店に併設されたレストランだ。ドュポン・サークルという首都の政治的な感覚から物理的にも少し離れた洒落た一角にある。アメリカでも多くの書店が閉店に追い込まれているが、この書店は政治や文化、中国を中心とする外国史の書籍を扱うなどの独自路線で頑張っている。留学時代はこの書店にも通ったが、日本から友人が来れば併殺のカフェやバーに連れて行った。そうした思い出の場所だ。

少し早く着いて書店で2冊の本を購入した。“Bill of Obligations”と“The Last American President”。どちらもトランプ政権が招いた民主主義の危機という状況を踏まえた考察のようだ。

先にレストランに入って今朝のワシントン・ポスト紙を開くと、下院の激戦地区で調査した結果として、10人に6人が基本的な生活をすることに困難を感じていると回答したとの記事が出ていた。

因みに、下院は定員が435。現有勢力は共和党が218、民主党が214。無所属が1、欠員が2となっている。下院は日本の衆院にあたるが、2年に1度全議席が改選となる。選挙の前年には予備選も有るので、基本的に下院は毎年有権者の審判を受けていることになる。それでも私はアメリカ人が「選挙で政治の空白が生まれる」などと語っている場にでくわしたことがない。政治に対する感覚の違いなのか。興味深い点だ。

下院については、日本でも報じられているように共和党が苦戦するというのがアメリカのメディアの報道だ。逆に、善戦するという話はトランプ大統領の発した言葉くらいで、報道に関してはこちらでも見かけない。基本的に、民主党が過半数を獲得するというのが見方だ。

ただ、上院はそう簡単ではない。州の大きさに関わらず各州に2議席が与えられており全部で100の議席で、改選は3分の1だ。上院は日本の参院に近い制度だが、大きく違うのはその権限だ。閣僚の承認、国際条約の承認など、大きな権限を与えられている。このため、基本的に上院議員の方が下院議員の方が格が上というのが印象だ。そうした上院だけに、一度に全ての議員が改選とならないことで国の安定を確保する取り組みと思われるが、それ故に投票結果は読みにくい。今回の改選議席は35だ。

などと考えていたら「ヨイ、ようこそDCへ」と斜め上から声が聞こえた。見上げるとラスが笑顔で立っていた。

(筆者とラス)

食事を頼み、ラスはダイエットコーク、私はコーヒーを頼んで互いの家族の近況を話した後に、選挙について彼の考えをきき始めた。先ずきいたのは、当然、上院の見通しだ。

「予想できない。テキサスやアラスカで共和党が苦戦しているのは確かだが、では、民主党が勝てるのか?そこはまだ何とも言えない。」

何も言えない?なぜか?ラスは次のように言った。

「共和党にとってネガティブな要素は3点と言われる。1つは生活費の高騰。もう1つはイランとの戦争、そしてもう1つはトランプ氏とその周辺の汚職」

このうち、先ず汚職については次のように話した。

「確かに第一期から言われてきたし私も書いてきたが、今、彼と彼の周辺が巨額の富を得ていることは当時よりも更に明らかだ。ただ、それをどれだけの人が理解しているのか。ここがわからない。」

そして子供を通じて知り合ったという軍に勤務する友人の話をした。

「彼は宇宙軍に所属する軍人で、新聞をネットではなく紙で読む人間だ。つまり、幅広く情報を得て幅広くものを考えられる人物だ。」

その彼がある新聞記事をマークして、「なんのことを言っているのかわからない」とメールを送ってきたことがあるという。

「それはトランプが私腹を肥やしているとの指摘が書かれたニューヨーク・タイムズの記事と見られた。そのメールを見て驚いたのは、なぜなら、その記事に書かれている内容は我々にとっては特に目新しい内容ではなく、これまでも私も雑誌でも書いてきた内容だったからだ。」

つまり、彼はそうした疑いが有ることを知らなかったという。

「知らなかった。それで驚いてメールで送ってきたというわけだ。『ラス、何のことかわかるか?」というメールだった。』

で、どう返信したのか?

「これまでのことなども含めて説明した。ただ、少なくともニューヨーク・タイムズ紙を職業上読む人間だったからそうしたニュースに接することができたが、そうでない人も多い。そうした人には届いていないという事も考えられる。」

つまり共和党にとってのネガティブな3点がどれだけ拡がっているのかが読めないのだという。

「ただし…」

とラスは続けた。彼は早口になると私の英語の能力では時折追えなくなることがあるが、この時はガソリンの価格の話なので理解できた。

「今朝車にガソリンを入れたが1ガロンで4ドル40セントだった。以前は3ドルと25セントくらいだった。1ドル以上の高騰だ。私にしてもこれは厳しいよ。」

1リットルに換算すると現在は183円で、以前は135円だったということになる。約50円も価格が上昇したことになる。これは車社会では厳しい。私もそうだったが、出勤は勿論だが、子供の学校の送り迎え、日常の買い物など、交通網が発達している首都ワシントンでも、基本的には車が人々の足だ。

上記写真は政治関係の事務所が軒を連ねるKストリートだが、道路わきのパーキングは車で直ぐに埋まる。早朝の駐車は多少安くなるので、朝早く出勤する人も少なくない。

ラスの夫人はブルンバーグのワシントン支局でビジネス編集部門のトップを務めており、2人の収入を考えたら基本的には裕福な世帯となる。それでもきつい、という。車は日々の足として欠かすことができないからだ。

「ハイブリッド車に車をかえたので対応できないことではないが、ディーゼルの高騰はもっと凄い。だからトラック業者は大変だし、それがあらゆるものの価格を押し上げている。」

だから、とラスは言う。

「結局、選挙を左右するのは汚職や外交ではなく、人びとの生活だ。そこは恐らくトランプを支持している地域の方が打撃を受けている可能性がある。」

私が明日からジョージア州のトランプ支持の友人を訪ねることを知ったラスは、「その辺をどう考えているのか、彼らの本音をきいて欲しい」と言った。

職場にも戻らねばならないラスに、私はいくつか短く質問した。先ずは、イーロン・マスクなどの富豪による選挙資金の提供だ。

「マスクが巨額の資金を共和党に出すと言っているが、あれは違法ではないのか?」

選挙資金の仕組みに詳しいラスは、「残念だが合法だ」と答えた。そして続けた。「これがPACという選挙資金を運営する団体の問題点だ。あくまで第三者的な組織として選挙資金を出すことについては合法とされている。」

しかし、明らかに共和党とつながっているわけだが?

「私が選挙資金について取材するに積極的になれなくなった理由はそこにある。問題は見えるが、それらが合法的なので記事にしても何も変わらない。以前、民主党から連邦選挙管理委員会に選出された人物と話した時、その人は、規制には消極的だった。」

消極的?

「基本的に、民主党も労働組合などからの多額の選挙資金を得て選挙をたたかっている。それを狙いを変えて、民主党も支持してくれる富裕層から資金を得るべきだと、その人物は言っていた。」

なんと・・・、それでは規制などできるわけがない。そこに民主党、共和党の違いはないということだろう。

「今、連邦選挙管理委員会は何もしていない。できないというより、何もしていない。わかるだろ。だから選挙資金の取材をやる気が失せたんだ」

気持ちはわかる。日本で政治資金のデータベースを作るなどしてきた私だが、同じ思いを持っている。

ラスは「そろそろ戻らないと」と言った。そこで、最後にばかばかしいと思われる質問をした。

「なんでアメリカの選挙はそんなにお金がかかるだ?」

マスクが拠出した選挙資金は数百億円の規模だと言われている。アメリカでも買収は違法だ。やはりテレビ広告なのか?

「やはりテレビ広告だ。特に相手の候補者を中傷するネガティブ・キャンペーンは効果が有るとの研究結果もある。」

(トランプ政権を批判する民主党のテレビ広告)

上記が現政権を批判する民主党のテレビ広告だ。冒頭の写真は同党の広告で投票を呼び掛けるオバマ氏だ。アメリカの街は基本的に候補者が連呼する姿も無く、候補者の掲示板も無いので、日本ほど選挙期間を感じることはない。しかし、テレビをつけると全く違う。ニュース番組だけではない。こうした各党、各候補者のテレビ広告が目白押しとなるからだ。しかし、ネット時代と言われテレビの影響力も限られている。それでもテレビ広告に多額の資金が流れるのか?

「それをプロモートする職業が存在する。資金は先ずそこに流れる。勿論、ネット広告も使われるが、その仕組みはテレビ広告と同じ流れになる。だから、テレビからネットに主軸が移ったとしても金がかかる選挙は変わらないだろう。」

私は開票時間には帰国便の中で過ごしている。結果は日本に到着してから知ることになる。結果については後日オンラインで解説して欲しいと伝えてラスと別れた。

14時前。デュポン・サークルから母校のアメリカン大学に足を運んでからホテルに戻る予定だったが、時差ボケで眠い。取り敢えずホテルに戻ることにした。

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