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[FactCheck] 「防大卒業生が大学院に行きたくとも東大など各大学は断る」は誤り 櫻井氏の発言が拡散

[FactCheck] 「防大卒業生が大学院に行きたくとも東大など各大学は断る」は誤り 櫻井氏の発言が拡散

日本学術会議の任命見送り問題に関連して、ジャーナリストの櫻井よし子氏が「防衛大学の卒業生が大学院に行きたくとも、東大を始め各大学は『防衛省の人間など入れない』と断る」などと指摘した。だが、実際には、防衛大出身者や自衛隊出身者で大学院に進学した経歴を持つ人は複数確認できる。(楊井人文)<追記あり>

チェック対象
(日本学術会議は)防衛研究をさせないだけでなく、防衛大学の卒業生が大学院に行きたくとも、東大を始め各大学は『防衛大学からきた、防衛省の人間など入れない』と断ってたんですね。… 今回そんな事を変えるきっかけを菅さんが作ったということに尽きるんだろうと思いますね。
(2020年10月14日、BSフジ・プライムニュースでの櫻井よし子氏の発言)
結論
【誤り】 防衛大出身者や自衛隊出身者で大学院に進学した経歴を持つ人は複数確認できる。東大の大学院も自衛官を受け入れた例がある。

櫻井よし子氏は10月14日BSフジの「プライムニュース」に生出演し、連日報道されている日本学術会議の任命見送り問題についてコメントした(動画07:10頃から)。その中で「防衛大学の卒業生が大学院に行きたくとも、東大を始め各大学は『防衛省の人間など入れない』と断る」などと述べた部分の動画が、ツイッターに転載され拡散している(10月15日15時現在、6000回以上リツイートされ、1.4万件以上のいいね!がついている。Share News Japanにも転載)。

しかし、調べてみると、防衛大または自衛隊出身者で、東大をはじめとする各大学の大学院に進学した経歴を持つ人は複数いる。

東京大学はホームページで、公共政策大学院で学んでいる海上自衛隊出身者を紹介している。これは2017年10月に掲載されたものだ。

例えば、軍事アナリストとして著名な志方俊之・帝京大名誉教授。防大卒業後、京都大大学院に進学し、工学博士(流体力学)を取得したとの経歴が公開されている

1958年:防衛大学校本科(土木工学専攻)卒業(第2期)
1963年:京都大学大学院・工学研究科修士課程修了
1966年:同博士課程終了
1968年:同大学工学博士(流体力学)

志方氏は「WEDGE」のインタビューで、「実験を繰り返し、既知なるものから未知なるものを導き出すことの重要性を学びました」と京都大学大学院で学んだことを回顧している。

メディアにも取り上げられている株式会社AI Samuraiの白坂一CEOも「防衛大学校理工学部卒業、横浜国立大学院環境情報学府修了」という経歴を公開している

ほかにも、防大卒業後、京都大学大学院に進学した陸上自衛隊幹部など、複数の事例が確認できた。防衛大のホームページにも、卒業生の進路として「国内大学院修士・博士課程入学、大学での研修、外国の軍学 校などへの留学の機会もあります」と記されている

ただ、これまでにも東京大学が自衛隊員の入学を拒否しているという情報はネット上で繰り返し出ていたようだ。実は、かつて産経新聞に「東大は自衛官差別をやめよ」と題したコラムが掲載されたことがある(2012年4月29日)。そこには次のように書かれていた。

 学問の府ということでいえば、その頂点に立つのはやはり東大ということになるだろう。だが、その東大大学院から長く締め出されてきた職業がある。それは自衛官である。
 東大の大学院は、公務員はもちろん、企業からも海外からも院生を受け入れてきた。しかし、自衛官に関しては、その門を閉ざしてきた。東大はその理由を明らかにしていないが、自衛官を拒否する一部の特定イデオロギー思想の個人や集団の圧力に屈してのことと想像できる。
ー産経新聞、2012年4月29日付朝刊「【from Editor】東大自衛官差別やめよ」より

櫻井氏の念頭にこの情報があったのかどうかは定かでないが、これは8年前の記事だ。その時点ではまだ東大大学院に進学した自衛官はいなかったのかもしれないが、そうであったとしても、2017年時点で東大の公共政策大学院が自衛官を受け入れている実例があり、それ以前から他の大学院に進学した防大・自衛官出身者も複数確認できる

櫻井氏とBSフジ(プライムニュース)にはコメントを求めている。回答があり次第、追記する。

追記:番組は訂正 櫻井氏もコメント

(追記1)BSフジ・プライムニュースの担当者から「事実関係を確認の上、番組内で対応することを検討している」との回答があった。(10月15日21:20)

(追記2)10月16日放送のBSフジ・プライムニュースで番組冒頭、櫻井氏の発言について「番組側で事実関係を調査したところ、国立大に入学した防衛大卒業生の存在、これが確認されましたので訂正させていただきます」と反町理キャスターが読み上げた。同時に、櫻井氏の「たしかに過去において自衛隊関係者がごく一部を除き国立大に入学出来ない時代が続いていました。しかし近年は自衛隊関係者の入学を認め始めました。その点を付け加えていませんでした」とのコメントも紹介した。

また、東京大学本部広報課はインファクトの取材に対し、同大大学院で防衛大・防衛医科大の卒業生の受け入れを断っているという事実はなく「過去に防衛大(防衛医大を含む)出身で、東京大学大学院への入学者はおります。詳細な情報は控えさせていただきます」と回答した。(10月16日20:29)

結論

東京大学公共政策大学院で自衛官を受け入れている実例があることや、大学院に進学した防衛大、自衛隊出身者も複数確認できることから、東大はじめ各大学の大学院が防衛大、自衛隊出身者の受入れを拒んでいるという趣旨の主張は「誤り」と判断した。

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