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《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.2/2019.10.16)

《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.2/2019.10.16)

インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします(紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます)。今回は、先週末に甚大な被害をもたらした台風19号に関連した情報を集中的に取り上げます(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)

(1)「台風19号は地球史上最大級」

台風19号襲来に備えを呼び掛ける情報が多く流れていた10月10日、スポーツニッポンのニュースサイトSponichi Annexに「地球史上最大級か? 台風19号の勢力に世界が注目 衛星写真に騒然」との記事が掲載され、ネット上で話題になった。見出しの「地球史上最大級」は本文の「存在しない(カテゴリー)6に相当「2つめの目といったインパクトある言葉とともに拡散した。

【検証】海外記事原文には無い表現が見出しに

このスポニチ記事は米紙ワシントン・ポストの記事などを参照して書かれている。しかし、ワシントン・ポストの原文には「発達スピードが史上最速」という表現はあるものの、「地球史上最大級」という表現は無い。スポニチ記事はこの表現を本文では正確に引用していたが、見出しが食い違っていた。「発達スピードが史上最速」と「史上最大級」では意味が異なる。

またワシントン・ポストでは、気候変動の影響で将来的に現在存在しない「カテゴリー6」レベルの台風が発生する可能性があるという記述があったが、スポニチが報じたような今回の台風19号がそれに該当するとの記述はなかった。

さらに、「2つめの目という現象についてもスポニチ記事の解説は不正確である。これらの詳細は検証ブログ「ネットロアをめぐる冒険」や、気象予報士の森さやか氏による解説記事でも取り上げられているので参照のこと。


(2)「窓ガラスにテープは逆効果」

台風の暴風に備え、窓ガラスにX字や米字などの形にテープを貼っておくというのはよく聞く対策だ。だが11日、テープ貼りはかえってガラスの強度が下がり危険であるという説がTwitterに投稿され、約2.6万件リツイートされた(10月14日現在)。

それによれば、厚さ5mmのガラスが通常耐えられる圧力は5400Paに対し、米字形にテープを貼ると3800Paに下がるという。「窓にテープを貼るのは時間と労力の無駄」と書かれたアメリカ連邦緊急事態管理庁(FEMA)の資料も論拠の一つに挙げられている。

【検証】強度への影響は諸説。飛散防止には有効

このTwitter投稿をしたユーザーは数値の出典として、中国で科学解説動画などをアップロードしている高校教師の動画を挙げていた。この動画はさらに台湾のTV番組「流言追追追」を参考にしている。ただ、番組の実験はテープの形別に各2回ずつのみの試験で、結果の数値も大きなばらつきがある(動画19分頃からを参照)。また番組動画前半でも紹介されている、台湾の高校生によるやや強度が増すとした研究結果とも異なっている。

Twitter上では、条件によって強くなる場合と弱くなる場合があるとする論文や、強度が下がることはないとするシミュレーションなど、様々なデータが錯綜している。議論は専門的なものになるので、どれが正しいかここで安易に結論を述べることは避けたい。

一方で多くの専門家は、テープ貼りの最大の目的が補強ではなくガラス飛散防止であり、その点において有効であると指摘している(FNNウェザーニュースAbemaなど)。特に、FEMA資料の解釈については物理学者・工学者である井田真人氏の解説(ハーバー・ビジネス・オンライン)を参照のこと。


(3)「台風上陸前の小笠原諸島の写真」

この写真は10日、あるTwitterユーザーが「小笠原諸島ヤバすぎる」とのコメントとともに投稿したもので、約5万件リツイートされた。

雲の写真が添付されたTwitter投稿(アカウント名モザイク処理は筆者)
【検証】小笠原ではなくアメリカの写真

写真はワシントン・ポストで今年8月に掲載されたもので、小笠原ではなく米デラウェア州のリホーボス・ビーチで撮影されたアーチ雲であった。


(4)「江戸川区トラック横転の動画」

トラック横転の動画を添付したTwitter投稿(アカウント名モザイク処理は筆者)

風にあおられて横転するトラックの様子を撮影したこの動画は、12日に「江戸川区 今ごろ避難勧告してる!」といったコメントとともにTwitterに投稿され、約3.2万件リツイートされた。なお、投稿したユーザーは2019年参院選にNHKから国民を守る党より出馬し落選した元候補者。

【検証】動画は昨年の大阪

動画はもともと2018年9月の台風21号襲来時に、大阪府守口市の大日町付近の光景としてTwitterに投稿されたもの。今回の台風とは全く関係がなかった。


(5)「長野県は台風と無関係」

「長野県台風無関係」とするTwitter投稿(アカウント名モザイク処理は筆者)

11日、「【朗報】長野県台風無関係」と題して警報図や風速予想図3つがTwitterに投稿され、7000件以上リツイートされた。

【検証】いずれも過去の画像

画像は順に2013年2014年2018年に投稿されたもので、いずれも今回の台風とは無関係。

今回の台風19号では、長野県内で広い範囲で大雨特別警報が発令され、千曲川決壊による浸水など多大な被害があった。


(6)「台風でも内定者研修参加を強要」

台風下での内定式出席を強要されたとするTwitter投稿(アカウント名モザイク処理は筆者。スクリーンショット内の黒塗りはツイート投稿時のまま)

11日、「うちの後輩(大学4年)の内定先企業、完全に頭おかしくて笑った」というコメントとともにメール画面のスクリーンショット風の画像がTwitterに投稿され、約6.8万件リツイートという大きな反響を呼んだ。企業から届いたとされるメールは台風直下の12日の内定者研修に前日宿泊してでも参加を促し会社への「忠誠心」を試すとするパワハラ的な内容で、社名などは黒塗りで伏せられていた。

【検証】投稿者が自作自演と白状して削除

この画像投稿に対しては、メール受信時刻からスクリーンショット作成時刻まで1分しかないのは早すぎるのではないか、会社の部屋に「501~503号室」という名称は不自然でないか、隠されている社名は実在しないものではないか、といった疑念の指摘が相次いだ(参考リンク12)。

また、この画像を投稿したユーザーは、自作自演を白状するツイートを一度しておきながらそれを削除したことが分かっている(参考リンク123)。その後しばらくしてユーザーのアカウント自体が削除されたことで、大元のツイートも見られなくなった。

自白ツイートだけが大元のツイートに先行して削除されたことから判断すると、自白の方が事態を収拾させるための嘘だったというのも考えにくい。いずれにせよ、簡単に捏造が可能なメールのスクリーンショットだけで事実と判断するのは慎重になるべきだ。

(次回は、2019年10月23日の予定です)

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