インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜=ネット上の情報検証まとめ管理人)
今週紹介する“要注意”情報
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(1)「選挙システム製造元の筆頭株主は安倍首相」
日付
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10/31 |
発信者
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籠池泰典(森友学園前理事長) |
媒体
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記者会見での発言 |
拡散数
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Twitterで3400RTなど |
内容
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投票用紙の自動集計機など選挙システムの製造・販売を行っている企業「ムサシ」の筆頭株主は安倍首相だとする、外国特派員記者会見での以下の発言。
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引用
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【検証】筆頭株主は創業家の会社
籠池氏のこの発言は大手メディアで取り上げられることは無かったが、Twitterに動画がシェアされるなどしてネット上で大きな反響を呼んだ。
しかし、BuzzFeedが検証しているように、公開されているムサシの大株主に安倍首相やその関連会社等の名は無い。実際の筆頭株主はムサシ創業家の資産管理会社だ。籠池氏は竹中平蔵氏の関与にも言及しているが、根拠は不明だ。
また、籠池氏は、選挙の開票で不正が行われる可能性があると主張し、「民間人が一つの集票所に2、3人は張り付いて」開票作業を監視することを求めている。しかし、既に現行の開票作業は各候補者から指名された開票立会人が立ち会っている(公職選挙法第62条)ほか、有権者の参観も自由に可能(同第69条)。実際にほとんどの開票所では新聞記者などが速報を作るため取材していて、一般人が見物していることも多い。
(2)「集英社『少年の心』発言告発は嘘」
日付
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11/5 |
発信者
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オタコム(まとめブログ) |
媒体
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ブログ記事 |
拡散数
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Twitterで1.7万RTなど |
内容
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「集英社人事の『少年の心』発言のツイート、集英社の令和初企業説明会は今日からで嘘がバレる」と題し、話題のツイート(下記経緯参照)の時系列に矛盾があると主張した記事。 |
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経緯
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11月3日、Twitterに次のような投稿があった。
この投稿は1万件以上リツイートされ反響を呼んだが(現在は削除)、一方で投稿時点で集英社は今年度の説明会をまだ行っていないとする主張もあった。特にまとめサイト「オタコム」の記事はサイト自身のものを含めた複数のTwitterアカウントで拡散され、数千~1.7万RTを獲得したツイートもあった。 |
【検証】集英社は説明会参加認める 発言内容では食い違いも
集英社は、ハフポストの取材に対する11月5日付回答で、既に複数の大学で企業説明会に参加し、その中で女性編集者について「少年マンガであれば少年の心がわかることが大切でしょう」という発言があったと認めている。ただ、集英社の説明には「少年の心がわかる人でなければ…」という表現がなく、ニュアンスの差異が見受けられる。正確な発言内容はわからないが、少なくとも「まだ説明会が行われていないから嘘だ」というオタコムの主張は間違いだったと言える。
「説明会は今日(5日)から」という主張は、集英社の採用情報ページにある説明会日程を根拠にしていた。だが、そもそもこのページは11月1日に公開されたものであるため、それ以前の日程が記載されていなかったと考えられる。
(3)「扶養控除等申告書が未提出だと乙欄扱いに 法案変えてた」
日付
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11/4 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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2万RT | |
内容
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「ところで、会社勤めの皆さん、年末調整なんですが、扶養控除申告書が【未提出だと乙欄扱い】になるそうで、扶養親族居なくても、甲欄で所得税4810円の人が、書類を出さなかったら21500円になるので、未提出ほんと気を付けよう……!!! そこの法案変えてたんかい!って思わず突っ込んでしまった。」という投稿。 |
【検証】「未提出で乙欄」は以前から同じ
上記のツイートでは申告書未提出で乙欄扱いになるのがあたかも最近の制度変更によるもののように読めるが、これは以前から同じ仕組みで、近年特に変更があったわけではない。
細かいことだが、2019年分の所得において乙欄で月々の源泉徴収額が21500円になるのは控除後給与20万1000円~20万3000円の人で、この場合の甲欄での徴収額は(4810円ではなく)4840円が正しい。
ちなみに、書類未提出などによって本来より多く所得税を引かれていた場合、確定申告や還付申告を行うことによって修正は可能だ。Bizpediaの2018年の記事がこのようなケースについて説明している。
(4)「ロバを獣姦した少年たちが狂犬病に」
日付
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10/31 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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5200RT | |
内容
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モロッコで15人の少年が狂犬病にかかっていたロバを獣姦し次々と病院に運ばれたという、ニュースサイト「ナリナリドットコム」の2017年の記事をシェアした投稿。 |
【検証】現地では異なる報道も
現地モロッコではこれと同様の報道も確かにあったが、一方で事実が歪められていると指摘するメディアもある。地元テレビ局「ChoufTV」などによれば、実際にロバを獣姦したのは成人の若者2人で、15人の少年はそれを見て笑ったり石を投げたりしていたが行為には加わっていないという。また病院でワクチン接種を受けたのは予防的措置で、実際に狂犬病の症状があったわけではないとのことである。
これらは日本語ではブログ「pelicanmemo」や「ネットロアをめぐる冒険」によって詳しくまとめられている。ただし、「ネットロアをめぐる冒険」も引用したChoufTVの少年へのインタビューにも恣意的編集の批判があるなど、センセーショナルなニュースだけに実態は掴みづらくなっている。
(5)「ロサンゼルスでハンセン病発見」
日付
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11/11 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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3400RT | |
内容
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「日に日に不衛生になるロサンゼルスで何とらい病が発見される。」などとして、海外のニュース記事のスクリーンショットを引用した投稿。(※注:現在では主にハンセン病と呼ばれる) |
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引用
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【検証】患者は以前から毎年数人 流行の事実は無い
<お断り>本記事では「らい病」を現在の呼称である「ハンセン病」と表記します。
AP通信や、ファクトチェックサイトのSnopesが検証している。両者の取材に回答したロサンゼルス郡保健当局によれば、「中世」の病気という投稿者のイメージに反し、ハンセン病はこの数十年でもロサンゼルス郡内で毎年平均2人程度の患者が見つかっており、特段異常な事態ではないという。
投稿に引用された海外記事はロサンゼルスでのハンセン病の症例に関する研究を誤って解釈したもので、実際は患者数は近年減少傾向にある。また、記事はハンセン病とホームレス増加の関連も示唆していたが、実際はホームレスの患者は確認されていない。
さらに、記事のイメージ画像に使われた上掲の写真は元々クリエイティブコモンズ素材として別個に投稿されたもので、ロサンゼルスではなくサンフランシスコのホームレスと説明されている。被写体のホームレスがハンセン病患者であるという記述は特に無く、何らかの病気にかかっているかどうかも不明である(土で汚れているだけの可能性もある)。
(過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2019年11月20日の予定です)