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【コロナの時代】弁護士・金塚彩乃のフランスからの帰国① 機内で渡された2組の書類

【コロナの時代】弁護士・金塚彩乃のフランスからの帰国① 機内で渡された2組の書類

日仏で弁護士資格を持つ金塚彩乃氏。頻繁に両国を行き来してきた国際派弁護士は新型コロナでその往来を断たれたが、フランスが日本人の入国を受け入れたことで久しぶりに渡仏。そして帰国。その時に、彼女が体験したものは・・・。シリーズで伝える「弁護士・金塚彩乃のフランスからの帰国」。第1回は「機内で渡された2組の書類」。(文、写真ともに金塚彩乃)

フランスからの帰国

2020年7月30日。私はパリ郊外にあるシャルル・ド・ゴール国際空港から2週間のフランス滞在を経て帰国しようとしていた。

空港入り口には警察官が配置され、飛行機の搭乗券を持っていないと中に入れてもらえない。人数制限だろう。そのため、普段は多くの人でにぎわっている空港にほとんど人影はなく、しんと静まり返っていた。

それは、日本を出る時の羽田空港もそうだった。

「まるでパラレルワールドに迷い込んでしまったようだ」

そう思いつつ搭乗手続きをした2週間前のことを思い出した。フランスを出国する際には、いつも出発前に食事を取るのだが、そのレストランも閉まっていた。とりあえずやることもないので機内用に新聞を何部か買い込んで出国ゲートを通った。普段はかなり時間がかかる場所だが、人の列はほとんどなくあっという間に手続きがすんだ。

いつもは人でごった返すドゴール空港のチェックイン・カウンター 

羽田行きJAL046便の搭乗口で普段と違う体験をした。普段はボーディング・ブリッジでそのまま機内に入るのに、今回はバスに乗せられた。

「異なる飛行機の利用者の接近を避けるためだろうか?」

バスで飛行機まで移動し、タラップを上って機内に入った。羽田行の便にバスを使わなければならないことなどこれまで一度もなかった。

飛行機の中もがらがらだった。

「乗務員の方が多いくらいだ」

そう思いつつ、いつも以上に静かな機内でCAに赤ワインを頼んだ。CAはマスクとゴーグル姿だった。そしてワインを置いた手は手袋をしていた。しかし驚いても仕方ない。新型コロナとの共存とはそういうことなのだろう・・・そう自分に言い聞かせて新聞を広げた。 記事は、フランスの女性の権利のために戦い抜いた女性弁護士の死去について報じていた。

私とフランス

私は中学高校をパリの現地校で過ごし、日本で大学を出て弁護士になった後もパリの法学部で学び、それ以降はずっと日仏関係に関する案件を取り扱っている。また私のパートナーもフランスにいるため、仕事でもプライベートでもこれまでほぼ2カ月に一度の割合で行き来していた。たまには長い夏休みも許されるだろうと、今年の7月は半年以上前から2週間の休みをとってフランスに行くことにしていて、その前の6月にも仕事で一週間フランスの地方を訪れる予定だった。

しかし、今年はいつものようにはいかなかった。フランスでは3月23日に法律によって正式な緊急事態宣言が発令され、外国人の入国も制限。フランスへの渡航もできなくなった。

「ご予約されていたエアフランスは欠航となりました」

そう旅行会社から連絡が来た時には既に私も予約した便をキャンセルしようと思っていた時だった。

「まさか国境閉鎖という理由でフランスとの行き来が出来なくなる日が来ようとは・・・」

そんなことは当然ながら一度も想像したことはなかった。7月もどうなるか分からず、しかしフランスに行く期間も大幅に空き、バカンスだけでなく仕事もしなければならないため、どうなるのか気が気でなかった。

しかし、EUが6月中旬に加盟国の段階的国境開放を明言、フランスは7月1日以降、EU諸国及び日本を含む16の国の滞在者について国境を開くこととなった。私のフランス到着は7月14日。例年よりも静かな革命記念日の到着となった。

マスク着用して外出するフランスの人々

少しフランスの状況にも触れておきたい。フランスでは8月1日から屋内等でのマスク着用が義務付けられたが、すでに7月の時点でも想像していたよりパリの地下鉄等ではマスク着用が徹底し、手の消毒ジェルも各所に設置されていた。パリも私の訪れた地方(アンジュー及びブルターニュ)でも夏休み目前のうきうきした気分もあり、コロナウイルスに気を付けながらもバカンスを楽しむという空気が流れていた。

マスク着用とソーシャルディスタンスを求めるポスター

機内で渡された書類

「帰国のために必要になります。着陸までに必ず書いてください」

赤ワインで軽くほろ酔い気分の私に、マスクで表情は分からないが柔らかな声のCAの女性から数枚の書類を渡された。

書類は2種類。「質問書」と「申告書」と書かれていて、何枚かの関連書類がホチキスでとめられていた。

日本を出発する前には、帰国の際にはPCR検査などが必要になったり、14日間の自宅等での待期期間があるということについては調べていたので、14日間の待機生活も織り込み済みでのフランス渡航だった。なので、「これが例の手続きなんだ」と思い、必要事項を書き込もうと書類を読んだ。

まずは質問書。

見るのは初めてであるが、どこに渡航していたのか、日本の住所はどこか、何か重要な連絡をするために、私の日本での連絡先はどこかなど感染の可能性を確認するための各種質問に答えないといけない。当然だろうと思いつつ、ペンを走らせた。

次に申告書。次の様に書かれていた。

「私は、下記の自宅またはホテル等の待機場所において、入国した次の日から起算して14日間は同場所で待機し、以下のように行動します。

  ・下記の場所(自宅・ホテル等 待機場所)から外出しません

  ・公共交通機関を使用しません。(不特定多数が利用する電車、バス、タクシー、国内線の飛行機など)」

【虚偽の申告をした方は、検疫法36条の規定により罰せられることがあります。(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)】

「懲役?罰金?あれ?刑事罰まで書いてある・・・」。

これまで日本の緊急事態宣言については様々なことが言われてきていたが、特徴としては全て自粛のお願いで、他の国と違った罰則での強制はないと繰り返し言われていた。国内のルールはともかくとして、帰国者には自由な行動をすると罰則があるのか…とまずは一人驚いた。

「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」と書かれている

しかもさらに不思議だったのは厚生労働省の答えとの関係である。

実は日本を出発する前に、14日間の待機というのが具体的に何を守ればいいのかを知りたくて、法律を探してみたが何も見つからなかった。なので、念のため厚生労働省に電話で問い合わせをしていた。そうしたところ、厚生労働省からの回答は明確だった。

「法律は有りません。有りませんけれども、医療上は大切なことなので守ってほしい・・・」

正確な言葉は思い出せないが、そういう話をしていた。

ところが、飛行機の中で配られた書類には、懲役刑もあるようなことが書かれている。

「これは厚生労働省の答えは間違いだったのだろうか?あれだけ水際対策に力を入れている厚生労働省の担当者が罰則の存在を知らなかったなんてことがあるのだろうか?」

なんとも釈然としないものを感じつつ私は必要事項を記入した。

(つづく)

日仏の法制度に詳しい金塚彩乃さんは2020年8月からインファクトに参加。今後、様々なテーマで発信していきます。ご期待ください。
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