自民党との組織的な関わりが疑われているTwitter上の匿名アカウント「Dappi」は、時に不正確な内容で野党議員を批判する言説を拡散させるなどの問題が指摘されいる。しかし、この「Dappi」を批判する側の言説にも一部誤解を招くものがある。(大船怜)
Dappiが昨夜アップした参院予算委員会の打順表について参院の広報に電話確認しました。 広報によると、この資料は当日朝の理事会で承認前の「メモ」の扱いで、議員と霞ヶ関関係者に前日配布されるものだそうです。 一般人は入手不能のためDappiは特定議員と一体のアカウントとみて矛盾はないでしょう。
(Twitter一般ユーザー、2020年1月29日投稿。強調は筆者による)
【ミスリード】 資料の画像は「Dappi」の投稿より前に野党議員が公開している。
Twitterの匿名アカウントとして現在約17万人のフォロワーを持つ「Dappi」は、不正確な情報で野党議員を批判する言説が問題視されている(参照1、2)。加えて、野党議員による訴訟をきっかけにこの「Dappi」アカウントの運営元が法人であることが明らかにされ、またこの法人の取引先に自民党の支部などが含まれていたことから、自民党が関わった組織的な情報工作の可能性が取り沙汰されるなどしている(参照)。
上掲のチェック対象のツイートは今から1年半以上も前のものだが、「Dappi」と自民党との関係を伺わせる傍証として改めて注目されるようになっている。元のツイート自体の10月25日現在のリツイート数は約2400RTだが、これを引用した別の一般ユーザーが「Dappiって国会議員にしか渡されない資料を普通にアップしてたんだよね」などと述べた2021年10月6日のツイートは約3700RTを集めている。
「Dappi」が投稿した資料画像
チェック対象のツイートが述べている「打順表」とは、2020年1月29日に行われた参議院予算委員会の質疑予定者一覧を示した事前資料のこと。「Dappi」はこの資料の画像を委員会前日の28日に投稿している。
チェック対象のツイートはこの資料を「一般人は入手不能」と評し、「Dappi」が国会議員の関係者であると疑われる理由の一つと見なしている。
画像としては入手可能
紙媒体としてのこの資料そのものは、確かに誰でも現物を手にできるというものではないかもしれない。しかしながら、「Dappi」はあくまで画像データとしての資料を提示したにすぎない。そして、この画像は関係者ならずとも誰でも入手し投稿することが可能だった。
以下は、質疑者として資料にも名前が掲載されている社会民主党の福島みずほ党首(参議院議員)が、1月28日午後3時30分に行ったツイートである。
「Dappi」の上掲のツイートは同日午後7時41分で、福島氏のツイートした4時間余り後である。
両者の投稿画像を比べてみると、画像のサイズと解像度こそ違うものの、文字や罫線の傾き、上部の影の具合など、酷似していることが分かる(「Dappi」投稿画像・福島氏投稿画像)。従って、「Dappi」は福島氏のツイートから取り込んだ画像を縮小し転載したと考えるのことは可能だ。少なくとも画像データとしてであれば、この資料が「一般人は入手不能」であるとは言い難い。
メディアや公職者も言及
同様に「Dappi」がこの資料の画像を投稿できたことに対し疑念を抱く言及は、別の野党議員や著名人のコメントでも見受けられた。
また、BuzzFeedは10月11日の記事の中で「Dappi」が「関係者向けの国会資料を事前に公開したり」していたと説明していたが、その後この部分から「事前に」という言葉が削除された。記事には現在「『Dappi』のツイート内容や資料の性質などから、当初は『関係者向けの国会資料を事前に公開している』と記載していました。しかし、国会議員がSNSで先に公開していた資料を転載した可能性もありました。SNS上で誰もが閲覧できる情報だった点への確認が不十分だったため、『関係者向けの国会資料を投稿している』に表現を修正いたしました。」と追記が加えられている。
結論
当該資料の現物自体は限られた人しか手にしていないとしても、画像としての資料は「Dappi」によるツイート以前に議員によって公開されており、入手は十分に可能だ。このため、チェック対象の投稿は「ミスリード」である。
このレーティングは、InFactが新たに始めたエンマ大王のキャラクターを使った表示では「2エンマ大王」に相当する。
エンマ大王マークの判定基準:
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
(冒頭画像:「Dappi」アカウントのプロフィール欄)
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。