自由民主党の石破茂元幹事長が、安倍晋三元首相の国葬に関し、英国のエリザベス女王の国葬を引き合いに出し、『イギリスも国葬の(国会)議決をとっている』との発言をした。しかし、英国議会に直接確認したところ、エリザベス女王の国葬に関し、議会の議決がなされた事実はなかった。(田島輔)
チェック対象
イギリスではエリザベス女王の国葬でも議会の議決をとっている
(9月13日の自民党総務会での石破茂元幹事長の発言)
結論
【結論:誤り】
英国において、国葬の際に国会の議決が必要とされているのは、君主以外の者の国葬が行われる場合であり、君主の国葬が行われる場合ではない。実際に英国議会に確認したところ、エリザベス女王の国葬について国会の議決や動議がなされた事実は存在しない、との回答であった。
石破茂元幹事長の発言
自民党の石破元幹事長の発言は、安倍元首相の国葬を決めた手続きに異論を述べる中でなされたものだ。
朝日新聞(参照)などが報じ、SNS上でも、安倍元首相の国葬の決定に国会の関与がないことを批判する文脈で拡散している。
では、石破元幹事長の発言どおり、エリザベス女王の国葬について、英国議会での議決はとられたのだろうか。
「君主」の国葬に議会の決議は不要
英国での国葬に関しては、2013年に「House of Commons library」(英国庶民院図書館)が、過去の事例を基に国葬を行う手続きをまとめた資料が存在する(参照)(なお、「House of Commons library」は、議員のためのシンクタンクのような役割を果たしている〔参照〕)。
この資料には、国葬を行う際の議会の議決について次の記載があった。翻訳は筆者による。
A state funeral is defined by the Royal Encyclopedia as “generally limited to Sovereigns, but may, by order of the reigning monarch and by a vote of Parliament providing the fund, be extended to exceptionally distinguished persons.
王室百科事典によると、国葬は「一般に君主に限られるが、在位中の君主の命令と資金を提供する議会の議決によって、例外的に著名な人物にも拡大することができる」と定義されている。
国会の議決が必要とされているのは、あくまで「君主以外の人物」の国葬を行う場合のことだ。つまり、首相を国葬にする際には議会の議決が必要という理解になるが、君主の国葬について議会の議決が必要との説明はなされていない。
では、今回のエリザベス女王の国葬について議会の決議は行われたのか。この点について、国葬の決定手続に関する資料をまとめた「House of Commons library」に問い合わせを行ったところ、以下の回答を得た。
Parliamentary authorisation is not required for the State Funeral of Her late Majesty Queen Elizabeth II, although obviously Parliament will play a role in the State Funeral on Monday 19 September 2022, not least because members of both Houses will be present. As a consequence, there have been no motions or resolutions passed by either House.
※は筆者による
2022年9月19日(月)の国葬には、少なくとも両院の議員が出席するため、明らかに議会がその役割を果たすことになりますが、故エリザベス二世女王陛下の国葬に議会の承認は必要ありません。結論としては、両院(※庶民院と貴族院)で可決された動議や決議はありません。
しかし、国葬のための予算は議会での承認を必要とするはずだ。この点についての回答は次のとおりだった。
there has been no such motion since the Demise of Queen Elizabeth II on Thursday 8 September and Parliament will not sit again until after the State Funeral. This would suggest that consent to bear the costs is either implied or that a motion to do so can be tabled after the event.
※は筆者による
9月8日(木)のエリザベス女王の死去以来、そのような動議(※国葬の予算に関する動議)はなく、国会は国葬が終わるまで開かれることはないでしょう。このことは、費用負担の同意が暗黙のうちになされているか、あるいは、国葬の予算に関する動議が国葬の後に提出される可能性があることを示唆しています。
国葬の予算に関しても、既に承認されている予算内で暗黙の了解がとれているか、国葬後にあらためて動議が提出されるのかどちらかであるため、現時点で議会の議決・動議は存在しないとの回答であった。
したがって、今回、エリザベス女王の国葬を行うにあたり議会の議決はとられていない。但し、前述のとおり、君主以外の人物を国葬にする場合には議会の議決が必要だ。
石破元幹事長の回答
以上のとおり、エリザベス女王の国葬に関して議会の議決は存在しないが、なぜ石破元幹事長は議決があるかの発言を行ったのだろうか。石破茂事務所に、問題の発言の根拠を問い合わせたところ、以下の回答があった。
このたびは石破代議士の発言につき、ご指摘いただきましてありがとうございました。
代議士に確認いたしましたところ、このたびの女王陛下の国葬について議決を経ている、というのはネットで調べた限りの情報であり、英国当局に問い合わせをしたなど、確たる根拠のあるものではないそうです。
ご指摘を踏まえ、当方におきましても発言内容の訂正に努めてまいります。
石破元幹事長の側としても、発言内容が誤っていたことを認め、訂正に努めていくとのことだった。
なお、ファクトチェックは発言者を非難、中傷するものではなく、あくまで発言の中の事実として語られた部分の真偽を確認する取り組みであることを付言しておく。また、国葬についてInFactが何かしらの立場に立つということもない。
結論
以上のとおり、エリザベス女王の国葬について、英国議会で議決がなされた事実は存在していなかった。
そのため、「(エリザベス女王の国葬について)イギリスも国葬の(国会)議決をとっている」との石破茂元幹事長の発言は「誤り」だ。石破元幹事長も「誤り」であることをInFactの取材で認めている。
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。問題の発言は「誤り」であり、これは3エンマ大王となる。
(冒頭写真:石破元幹事長の発言を報じる「TBS NEWS DIG」の画像より)