ファイザーと各国との間で締結された新型コロナワクチンの供給契約書について確認してきた(ワクチンのファクト⑦、⑧)。これらの契約書は原則非公開となっているようだが、関連する公文書の中には公開されているものもある。そのうちイスラエルの「提携契約」にはワクチン接種のある目的が記されていた。(田島輔)
集団免疫は達成できるのか?
新型コロナワクチンに関する重要な関心事の一つが、このワクチンで「集団免疫」が達成できるのか?という点だろう。
「集団免疫」について厚生労働省は次のように説明している。
ある病原体に対して、人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、感染患者が出ても、他の人に感染しにくくなることで、感染症が流行しなくなり、間接的に免疫を持たない人も感染から守られます。この状態を集団免疫と言い、社会全体が感染症から守られることになります。
「新型コロナワクチンQ&A」、Q集団免疫とは何ですか。
また、ワクチン接種について政府広報のCMでは、「あなたとあなたの大切な人を守るためにも、ワクチン接種をご検討ください。」と述べていた(参照)。
しかし、厚生労働省の「集団免疫」に関する説明文には次のような記載がある。
ワクチンによっては、接種で重症化を防ぐ効果があっても感染を防ぐ効果が乏しく、どれだけ多くの人に接種しても集団免疫の効果が得られないこともあります。
「新型コロナワクチンQ&A」、Q集団免疫とは何ですか。
新型コロナワクチンによって、集団免疫の効果があるかどうかは分かっておらず、分かるまでには、時間を要すると考えられています。
日本政府としては、新型コロナワクチンについては「感染予防効果」が不明であり、従って集団免疫の効果があるか明らかではないということだ。
では、ワクチン接種が先行する国はどのように考えているのだろうか。それを示す記載をファイザーとイスラエルとの間で締結された公文書に見つけた。ワクチンを製造する製薬会社が各国と結ぶ供給のための契約書は原則、非公開となっている。しかし供給契約書とは異なる文書の中に公開されているものもある(参照)。
契約書の目的は?
文書名は「実社会での疫学的根拠に関する提携契約書(REAL-WORLD EPIDEMIOLOGICAL EVIDENCE COLLABORATION AGREEMENT)」となっており、供給契約書とは別のものだ。提携のあり方を示す契約書ということだ。
イスラエルはワクチン接種が早かったことが知られているが、それが可能だったのは接種に関する国民の医療データをファイザーに提供するとの取り決めが有ったからだ(参照)。それによって優先的にワクチンの供給を受けた。一方で、この政府の判断に対して、一部でプライバシー保護に関する懸念が生じた。このため、透明性を担保することを求められたイスラエル政府はある公文書の開示を決める。それがこの「提携契約書」(契約書を掲載したJETROの説明)となる。
その「提携契約書」を見てみたい。すると「Project」という言葉が現れた。プロジェクト。そして、そのプロジェクトの目的として、以下のように書かれていた。
1.7 “Project” means the COVID-19 Real-World epidemiological data analyses conducted by the Parties involving data collected during the MoH’s vaccination program using the Product, as described in Section 2 and Exhibit A of this Agreement, including components thereof and enhancements thereto, developed and implemented by the Parties under the terms of this Agreement.
1.7 「プロジェクト」とは、本契約第2条及び別紙Aに記載される、本製品(注:新型コロナワクチン)を使用するMoH(イスラエル保健省)のワクチンプログラムにおいて収集されたデータに関し、両当事者によって実施される、実社会での疫学的データ分析を意味する(本契約書の条項の下で、両当事者が開発・実施する、本製品の成分や改善を含む。)。2.1 Objective of the Project
To measure and analyze epidemiological data arising from the Product rollout, to determine whether herd immunity is achieved after reaching a certain percentage of vaccination coverage in Israel.
2.1 本プロジェクトの目的
本製品(注:新型コロナワクチン)の展開によって生じる疫学的なデータを測定・分析し、イスラエルにおいて、一定のワクチン接種率に達した後、集団免疫が達成されるか否かを判断すること。
提携契約書の中で、イスラエル政府は、新型コロナワクチン接種や新型コロナの感染状況等に関するデータをファイザーと共有することになっているが(3条)、その目的は、新型コロナワクチン接種によって「集団免疫」が達成できるかどうか判断することだ。
上述のとおり、「集団免疫」が達成されるためには、人口の一定割合以上の人が免疫をもつ必要があるため、提携契約書には、「Both parties acknowledge that the viability and success to the Project is dependent on the rate and scope of Vaccination in Israel.(両当事者(イスラエル保健省とファイザー)は、本プロジェクトの実行可能性と成功は、イスラエルにおける接種率と範囲に依存することを認識する。)」(3条)と記載されていた。
また、この「プロジェクト」について、イスラエルのネタニヤフ前首相は、「集団免疫に向けた世界の実験室として貢献できる」と発言している(参照)
「プロジェクト」はいつまで続く?
では、この「プロジェクト」はいつまで続くことになっているのか。
提携契約書の4条1項では、「Term(契約期間)」として、「This Agreement and the obligations of the Parties hereunder … shall survive until completion of the Project,…(本契約書と両当事者の義務は、本プロジェクトが完了するまで存続する。)」と規定されている。
イスラエルでの集団免疫達成の有無が確認できるまでプロジェクトは継続するということだ。
また、4条2項には提携契約の解除事由が定められているが、「集団免疫」に関する解除事由として、以下の3点が挙げられている。
4.2.1 the expiration of the Term(「契約期間」の終了)
4.2.3 if PFIZER or the MoH determines that a Project is scientifically futile(ファイザーもしくはイスラエル保健省が本プロジェクトが科学的に、目的が達せられず無益と判断したとき)
4.2.4 in the event of a catastrophe, such as severe patient safety issue with the Product resulting in a recall of the Product, requiring early termination of the Project(本製品の安全性に関わる重大な問題により本製品が回収される等、プロジェクトの早期終了が必要となる惨事が発生した場合)
現在、イスラエルは世界に先駆けて新型コロナワクチンの4回目接種を開始している(参照)。
世界に先駆けて4回目のワクチン接種を始めているということは、イスラエルでの集団免疫達成の有無を確認する「プロジェクト」は、いまだ続いているということなのだろうか。
「提携契約書」では、「プロジェクト」で使用するワクチンについて、「新型コロナウイルスの変異株」に対するものも含まれるとなっている(1条6項)。そして、ファイザーは、3月中にオミクロン株対応のワクチンを準備すると発表している(参照)。
そのため、今後も、イスラエルでの集団免疫達成を確認するプロジェクトは継続していく可能性があるということだ。
なお、プロジェクトの経過によっては、ファイザーやイスラエル政府が損害賠償責任を負う可能性もあるが、「損害賠償」に関する規定は全て黒塗りになっており、公開されていない(6条)。
6条のタイトルは「INDEMNIFICATION; LIMITATION OF DAMAGES AND LIABILITY(補償条項;損害賠償と責任の制限)」となっていることから、コロンビアやブラジルの契約書のように、ファイザーの責任を免責するような規定である可能性はあるが、詳細は一切不明だ。
「提携契約書」は2021年1月6日に締結されているが、その後1年にわたってワクチン接種を行った結果、新型コロナワクチンでの集団免疫達成の成否は確認できたのだろうか。InFactは取材を続ける。
※このワクチンのファクトはワクチンについて確認できる様々な事実を調査報道によって明らかにするもので、特定の立場に立った報道ではありません。