感染者の多くが外国人で、彼らが日本で治療を受けているために、多くの日本人が治療を受けられないといった言説がネット上で繰り返し拡散している。しかし、これは事実ではない。中には誤解を与える情報を流し、外国人へのヘイトを助長する危険性もあり、注意が必要だ。(立岩陽一郎)
チェック対象 現在、1万人近くの感染者がいますが、日本人は4226人です。半分もいません。外国人を私たち日本人の税金で治療し、外国人が病床に寝ているため、日本人が治療を受けることができません。 (Twitter、2020年4月18日投稿) |
結論 【誤り】「感染者のうち国籍確認されたのが約半数」という情報と、「外国籍が確認されているのは52人」という情報(4月18日の発表)を隠している。「感染者の半分以上が外国人」であるという事実は確認できない。 |
検証
このツイッターを投稿したのは、旧希望の党の幹事で、2017年に衆議院議員総選挙で立候補した人物だ。6000件以上リツイートされ、いいね!の数は1万件を超えた。
まず、この言説の根幹である「1万人近くの感染者のうち、日本人は4226人」を検証する。
このツイートが根拠として提示しているのが、厚生労働省が発表しているPCR検査陽性者数だ。調べると、4月18日の厚生労働省のホームページを切り貼りした画像をツイートしていた。
厚生労働省のホームページには「日本国籍が確認されている者4226人」に加えて、「外国籍が確認されている者52人」と書かれている。そして残りの4749人については「国籍確認中」と記され、日本国籍か外国籍かの記載はない。
ツイートが証拠として添付した画像と厚生労働省のホームページの記述と比較してみると、元の「うち日本国籍が確認されている者4226人、外国籍が確認されている者52人」という記述が、ツイートでは「うち日本国籍の者4226人」の記述だけとなり、「外国籍が確認されている者52人」の記述が削除されていることがわかる。
では、この「国籍確認中」の4749人は「外国籍」なのか。厚生労働省に確認した。対応した新型コロナウイルス対策本部の加藤拓馬課長補佐はそれを否定し、そもそも「国としてはPCR検査陽性者の国籍を確認して欲しいという要請はしていない」と話した。
その上で、次のように説明した。
「元々は感染者の国籍を記載していなかったが、主にメディアからPCR検査の陽性者が日本国籍かどうか教えて欲しいとの声があり、日本国籍の者の人数を記載した。しかし、自治体によって日本国籍、外国籍を発表するところとしないところがあり、発表のあるものだけを記載している」
厚生労働省のホームページでは、当初、日本国籍が確認された人数だけを発表していたが(バズフィードの検証記事も参照)、4月13日以降は、「うち日本国籍の者●●人、外国籍の者●●人(他は国籍確認中)」といった形で、外国籍が確認された人数も合わせて発表するようになっている。
このように発表の仕方が変わったことについて、加藤課長補佐は、「インターネット上で日本国籍の者以外は外国籍であるとのデマが広まったため、現在の表記に切り替えた」と説明している。
では、国籍を確認していない感染者が全て「外国籍」ではないとしても、かなり多くの外国人が含まれている可能性はないのか?念のため、加藤課長補佐に尋ねた。
(問)感染者のうち、国籍を確認していない人の中でどれだけ外国人がいるのか?
(答)それは申し訳ないが確認していないので、何とも言えない。
(問)では、感染者の半分以上が外国人という情報についてはどうか?
(答)それはないと考えている。仮に、そういう話なら、厚労省に各地から言語対応を含めて話が来るはずだ。そういう話は全くない。
(問)外国人が多いという報告は都道府県からない?
(答)ありません。感染者の半数以上が外国人などはあり得ない。普通に、日本人の感染者が多いと考えている。
つまり、国籍が確認されていない感染者の大半が外国人であるという情報は全くないということだ。
(このツイッターが投稿された)4月18日発表の感染者4278人のうち、日本国籍は4226人(98.8%)、外国籍が確認されている者52人(1.2%)である。残りの感染者の大半が外国人であるという根拠は何もない。
結論
感染者のうち国籍が確認されているのは約半数の4749人で、うち外国籍は52人にすぎないため、「感染者の半数が外国人」であるかのような言説は事実と異なる。「1万人近くの感染者がいますが、日本人は4226人です。半分もいません」というツイートの言説は、「感染者のうち国籍が確認されているのは4749人」であり、「外国籍が確認されているのは52人」という重要な情報を隠し、あたかも感染者のうち半数以上が外国人であるかのような印象を与える主張をしているが、そのような事実は確認できない。よって、「誤り」と判定した。
こうした感染者の多くが外国人だという誤った情報は他にも散見される。これらは外国人へのヘイトを煽る危険が有る。発信者の意図までは判明しないが、こうした情報には注意が必要だ。
※この記事の調査には、FIJのリサーチャーである八木風香氏が協力した。
(冒頭写真は、編集部撮影)