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[FactCheck] 「毎秒100mの風 僕が飛ぶくらい」はコラージュ画像 実際は「車が飛ぶくらい」

[FactCheck] 「毎秒100mの風 僕が飛ぶくらい」はコラージュ画像 実際は「車が飛ぶくらい」

近年、台風など気象災害の際にたびたび拡散されている画像がある。防災科学技術研究所の大柄な研究者が、毎秒100mという強風について「僕が飛ぶくらいの強さ」と自虐的に表現しているかのような画像だ。10年以上前から「おもしろ画像」としてネット上で流布している。しかし、これは実際のTVキャプチャを加工したコラージュ画像で、気象災害に関する誤った理解を広める危険な誤情報だ。(大船怜)

チェック対象
防災科研の研究者が「強い竜巻だと毎秒100m近い風が吹くがこれは僕が飛ぶくらいの強さ」と語っているように見える、TVキャプチャ風の画像
(2020年7月11日のTwitter投稿など、冒頭画像)
結論
【虚偽】テロップ部分の外見的・内容的不自然さに加え、当時取材された本人の証言から、これは実際に放送されたテロップの「車」の文字を故意に加工し「僕」に変えたコラージュ画像と推測される。

防災科学技術研究所(防災科研)所属の研究者である前坂剛氏が毎秒100mの風について「僕が飛ぶくらい」と自虐的に表現しているかのようなこの画像は、10年以上前から「おもしろ画像」としてネット上で流布されている。

直近では2020年7月11日、九州など各地で起きた豪雨災害に関連して前坂氏がTV取材を受けたのをきっかけにTwitterで拡散し、最大約1.9万RTされた。

7月11日のTwitter投稿(モザイク処理は筆者による)

「車が飛ぶ」のバージョンも存在

拡散画像における「僕が飛ぶ」というテロップは、よく見ると「僕」という字だけ他の字に比べやや色が薄い・輪郭線が細い・影が無いという違いがある。

一方、これとよく似た画像で、テロップの文字が「車が飛ぶ」となっているバージョンもネット上には存在している。この「車」は他の文字に比べて不自然さは見られない。

それぞれの画像の部分拡大図

強風の指標では「車」に一致

竜巻などの突風の強さを測る国際指標「藤田スケール」では、毎秒100mの風が含まれる「F4」クラスの風について、「列車が吹き飛ばされ、自動車は何十メートルも空中飛行する。」と記述しており、まさに「車が飛ぶくらいの強さ」という説明に一致する(日本の気象庁では「日本版改良藤田スケール」を採用)。

また、気象庁による一般的な風の強さの目安では、瞬間風速において毎秒30m程度から人は「何かにつかまっていないと立っていられない」、毎秒40m程度からは「屋外での行動は極めて危険」「走行中のトラックが横転する」とされている。いかに大柄な人であっても、毎秒100mの風は「僕が飛ぶくらい」という程度を大きく上回る強さなことは明白だろう。

本人は「車」と説明と証言

インファクトでは、この画像について前坂氏の所属する防災科研にメール取材を行い、以下の点を質問した。

1)画像は貴研究所の前坂剛氏がTV出演された際のもので間違いないか。(その場合、出演日、番組名などの詳細)
2)画像のテロップ部分は、実際の発言が改ざんされているのか。
3)毎秒100mの風を人間が飛ぶくらいの強さと表現する画像が拡散されていることについての見解等。

これに対し、防災科研広報・ブランディング推進課より、前坂氏本人に確認した上として、次のような回答を得ることができた。

1)画像に関しての事実確認について
・この画像は,2006年の11月に北海道の佐呂間町で竜巻が発生したときに報道ステーション(と推定)の取材を受けたときの画像と思われますが、防災科研において、資料等客観的な記録がなく、記憶、推定の範囲での回答となります。

2)画像のテロップの改ざんについて
・取材時は「車が飛ぶくらい」と説明をしていました。しばらく後(推定2009年頃)に「僕が飛ぶくらい」と字幕が入ったこの画像の存在を認識したと聞いています。
・なお、誰がどの時点で改ざんしたかについては、当所に知見はなくコメントをさしひかえたいと存じます。

3)「毎秒100mの風で人間が飛ぶくらいの強さと表現する画像」の拡散について
・災害に関する情報については、分かりやすくかつ誤解が生じないように発信していくことが重要と認識しています。正確な情報の有無が、命に直結する場合もあります。災害に関する情報の改ざんについては、ネット上の冗談であっても、慎んでいただきたいと思います。

以上より、少なくとも前坂氏本人は「車が飛ぶくらい」と言ったと記憶していること、毎秒100mの風を人間が飛ぶくらいの強さとする表現は防災科研の見解と相違することを確認できた。

結論

拡散された画像は、テロップ文字部分の外見的不自然さに加え、内容的にも毎秒100mの風を「僕が飛ぶくらいの強さ」とするのは気象学上の一般的な説明に比べ明らかに過小評価であり、また本人の証言からも、前坂氏が当時のTV取材でこのように発言したとは考えにくい。一方で、「車」のバージョンは外見・内容・証言のいずれにおいても矛盾が無く、信憑性が高い。

以上のことから、画像は実際に放送されたテロップの「車」の文字を加工し、「僕」に変えたコラージュ画像と推測される。加工は意図的に行われたと考えられるため、事実を故意に歪めた「虚偽」と判定した。

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