白鴎大学の岡田晴恵教授がテレビ朝日「モーニングショー」で、新型コロナウイルスは高温多湿と紫外線に弱いので夏場に下火になると話した。そう指摘する研究報告もある一方で、異なる見解の報告も出ている。WHOは「新型コロナはどれだけ日光があろうが、気温が高かろうが感染する」と警告を出しており、高温多湿の東南アジアでの感染拡大も続いている以上、現時点で断定するのはミスリードだ。(立岩陽一郎)
チェック対象 どのみちこれから夏ですから。このコロナウイルス、高温多湿と紫外線が大嫌いですから、下火にはなって来ると思うんですね (2020年5月19日、テレビ朝日モーニングショーでの岡田晴恵白鴎大学教授の発言) |
結論 【ミスリード】確かにその説を支持する論文もあるが、WHOは「新型コロナはどれだけ日光が有ろうが、気温が高かろうが感染する」と警告を出しているし、それを裏付ける論文もある。高温多湿の東南アジアでの感染拡大も続いている。 |
検証
トランプ大統領は4月23日の記者会見で以下の発言をしている。
新型コロナウイルスは気温が低く乾燥した環境で長く生き残り、気温が高く湿度が高い環境では生き残りにくいということが、アメリカ国土安全保障省 (DHS) の研究チームによって確認された。
(米国ホワイトハウス、2020年4月23日記者会見)
また、この会見で、DHS長官の科学技術局顧問であるウィリアム・ブライアン氏はアメリカ国立生物兵器分析対策センター (NBACC) で行った実験の結果を説明し、「太陽光は物質の表面と空気中の両方においてウイルスを不活性化させるとみられる。またそれと同様の効果を高温多湿な環境においても確認した。ウイルスは温度か湿度、またはその両方が上昇する環境を好まない」と述べている。
ただし、ブライアン氏は「これは研究の終わりではなく、国土安全保障省は引き続きウイルスの性質を特定し、そしてこの発見を感染拡大防止策に当てはめていく」と締めくくっている。
また、3月10日にも北京航空航天大学の研究チームによって、「高温多湿の環境は新型コロナウイルスの感染を抑止する」という論文が発表されている。この研究は温度や湿度が高いほど、新型コロナウイルスの実効再生産数の値が小さくなる傾向がある、すなわち感染者一人につき実際に感染させる人数が小さくなるというものだ。
岡田教授の発言はこうした内容を踏まえたものと考えられ、根拠がないわけではない。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は温度・湿度・紫外とは関係なく、関係性を認める証拠がないという主張も複数存在する。
まず、WHOは一般の人への注意喚起として出されている「新型コロナウイルスに関する噂と事実 第2号」で、「現在のところ、新型コロナウイルスは高温多湿な環境を含む全ての地域で感染の恐れがある」としている。また、「日光が新型コロナウイルスを殺すという証拠はない」としている。
WHOこの情報の書き換えはしておらず現在も、「新型コロナはどれだけ日光が有ろうが、気温が高かろうが感染する」と注意を呼び掛けている。
実際、WHOが指摘するよう、高温多湿とされる東南アジア地域でも、5月に入ってもシンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピンで、感染者数が拡大し続けている。
このWHOの指摘を裏付ける研究報告もある。例えば、ヨーロッパの医学系の専門誌「European Respiratory Journal」には4月8日、復旦大学の研究者の論文が投稿されているが、「中国の都市において、新型コロナウイルスの感染拡大は気温にも紫外線にも関係しない」という実験結果を提示している。それによると、感染者が少なかった224都市の累積感染者数と、感染者が比較的多かった62都市で、実行再生産数を、気温、湿度、紫外線量などの要素から分析した結果として、「高温と紫外線の増加が新型コロナウイルスの感染を抑制するという仮説を支持しない」としている。
3月17日の英ガーディアン紙で、オーストラリアのモナシュ大学の准教授が、「季節による感染拡大の違いは具体的に分かっていない。これは新たなウイルスであり、他のウイルスと同じようであるかは分からない」と語っている。また、オーストラリア国立大学 国立疫学公衆衛生センターの医師も、同紙の取材に対して、「屋外の気温と新型コロナウイルスの拡散を関係性を示す明白な証拠はない」とし、「気候の変化がどのように感染拡大に影響するかは研究途中」としている。
関西医科大学付属病院で実際に新型コロナウイルスの治療にあたっている宮下修行教授に取材したところ、「これまでにわかっているコロナウイルスについては高温多湿、紫外線で活動が弱まることは知られているが、新型コロナについては確定的ではない」と述べて安易に判断することに警告を発した。
結論
以上の通り、岡田教授の発言にある「新型コロナウイルス、高温多湿と紫外線が大嫌い」は、まだそう断言するできるだけの根拠はなく、発言はミスリードと判断した。
※INFACTは、FIJの新型コロナのファクトチェック国際協力プロジェクトに参加している。このプロジェクトは日本財団などの支援を得て、各国のファクトチェック団体と協力して、海外の拡散した新型コロナに関する情報の検証も行っている。この記事の調査には、FIJのリサーチャーである武藤珠代氏が協力した。
(冒頭写真は、WHOサイトより)