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「最高裁が『外国人への生活保護は違法』と判断」は誤情報 過去も繰り返し拡散

「最高裁が『外国人への生活保護は違法』と判断」は誤情報 過去も繰り返し拡散

最高裁が「外国人への生活保護は違法」と判断したとの情報がニュース動画付きで拡散しているが、これまで何度も繰り返されてきた誤情報だ。改めて最高裁が何を判決で述べたのか、この事件では何が争われ、判決は何を意味するのかを確認しておきたい。(楊井人文)

チェック対象
最高裁『外国人への生活保護は違法』
(最高裁判決について報じるNHKニュースの動画添付あり)
(Twitter、2020年6月28日投稿)
結論
【誤り】最高裁は、外国人に対して事実上の行政措置として生活保護を実施することは否定していないし、それを「違法」だとする見解は全く示していない。政府見解も同様である。

検証

このツイッター投稿は、最高裁「“生活保護法が保護の対象とする『国民』に外国人は含まれない” 初判断」という字幕の入ったNHKのニュース動画を添付したもの。1.5万以上リツイートされていた。動画に「千葉勝美」裁判長の名前が出てくることから、2014(平成26)年7月18日の最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判所)の判決の時のニュースとみて、間違いない(ニュース自体は特に改ざんされた疑いはない)。結論から言うと、ツイッターの指摘内容(最高裁『外国人への生活保護は違法』)は、これまでも繰り返し確認されている誤情報である2019年3月11日付バズフィードなど)。改めて、この最高裁判決で示された事実と論理の内容を確認しておきたい。

この判決全文は、最高裁公式サイトには掲載されていないが、他のサイトで確認できる(筆者は別途、法律家が使用する判例データベースで確認済み)。当時の報道も確認できる。

結論から言えば、この最高裁判決が、「生活保護法が保護の対象とする『国民』に外国人は含まれない」という判断を示したことは事実であるが、外国人を生活保護の対象とすることが「違法」だという判断を示したものではない。たびたび、誤解に基づく言説が広がっているので、判決の結論部分を引用する。

以上によれば、外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。
ーー最高裁第2小法廷、平成26年7月18日判決

「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」と明記しているように、外国人を生活保護の対象とすることは「事実上の行政措置」として可能であり、何ら否定されていないし、違法でも何でもない。この点は、判決文から明確である。ここで言及された通達とは、1954(昭和29)年厚生省(当時)が発出した「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」である。

この最高裁判決は何が争われ、どんな判断が下されたのか

この最高裁判決が出た裁判は、行政訴訟である。簡単に言うと、永住権を持つ在日外国人(中国籍)の女性が生活保護の申請をしたところ、却下されたため、却下の取消しを求めて起こした、行政処分取消訴訟だ。

この裁判で問題となったのは、「行政機関(福祉保健事務所)が当該外国人による生活保護の申請を却下した処分」が「違法」かどうか、であった。「外国人に生活保護をしたことが違法かどうか」が問題となったのではない。その逆で、却下したことが違法かどうか、である。

判決文によれば、一審は、原告の訴えを認めなかった。ところが、二審の福岡高裁は、原告は永住的外国人であるから、生活保護法に基づく法的保護の対象になる、ゆえに、福祉事務所による却下処分は違法なので取り消す(原告側の処分取消しの訴えを認める)、との判断を示した。

これに対して、上告審の最高裁は、福岡高裁の判断を覆した。福祉事務所による却下処分は違法ではないと判断し、「却下処分を取消す」という福岡高裁の判決を破棄した(原告の訴えは認められず、却下処分は有効となる)。その際の判断理由で述べられたのが、外国人は生活保護法上の受給の「権利」は有しない、という法的判断である。すなわち、行政側は外国人に対し生活保護法に基づく保護をする「義務」がない(ゆえに、却下処分は適法)というロジックである。

最高裁が判断したのは、「外国人は保護を求める権利がない」(=行政側は外国人を保護する義務がない)ということであって、「行政側が外国人を保護をしてはならない」(=行政側が外国人を保護することは違法である)ということとは全く異なる。

生活保護法は、日本国憲法第25条(生存権)に基づいて、「国民」の生活保護を受ける「権利」を保障し(法2、3条)、行政機関に生活保護の実施「義務」を課している(法19条)。

生活保護法 第2条
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。

最高裁は、生活保護を受ける「権利」を持つのは、日本国籍を持つ「国民」だけであり、外国人は含まれないと判断したにすぎない。繰り返しになるが、この法的判断は、外国人を保護してはならない(保護することは違法)、ということでは決してないし、外国人が生活保護を申請することが違法であるということを意味するものではない(申請がなければ保護できず、申請を受けて保護するかどうかは行政側の判断)。

政府・安倍政権も外国人への生活保護を容認

上記の判断は、最高裁の司法判断であるが、政府も同様の見解である。2018(平成30)年12月7日、質問主意書に対し、安倍晋三首相の名で、次のような政府答弁を閣議決定している。

一定の外国人に対しては、その生活が困窮する場合、人道上の観点から、生活保護法(・・・)による保護に準じた保護が行われているところである。
衆議院議員初鹿明博君提出外国人の生活保護受給者に関する質問に対する答弁書

「人道上の観点」と断ってはいるが、政府は「生活保護法による保護に準じた保護」を行っていることを認めている。これは、外国人に対する生活保護が「違法ではない(適法)」という政府見解を前提としたものに他ならない。

結論

最高裁は、行政の事実上の措置として外国人に生活保護が行われることは否定しておらず、「生活保護は違法」との司法判断を下したかのような情報は、判決内容に反し、誤りである。

(冒頭写真は、Twitter投稿のスクリーンショットより)

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