インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

《週刊》ネット上の情報検証まとめ〜米大統領選 特別編(Vol.58/2020.11.13)

《週刊》ネット上の情報検証まとめ〜米大統領選 特別編(Vol.58/2020.11.13)

今回は、アメリカ大統領選挙投票日後に拡散された関連する“要注意”情報のうち、主要なものを簡潔に紹介します。大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)(11/16追記:訂正情報を一部追加しました。)

(1)「ウィスコンシン州で開票率1%増の間にバイデン12万票増」

▶︎票の急増は不在者票の加算 開票率も誤り
バイデン氏の得票が急増したのは、大都市ミルウォーキーの不在者投票分が一気に加算されたため。当日メディア記者等がレポートしていた開票率は、拡散された数字とは異なっている。

拡散したTwitter投稿。モザイク処理は筆者(以下同)

(2)「怪しいのでウィスコンシンで州兵が集計作業に参加」

▶︎投票用紙の印刷ミス対応作業のため
ウィスコンシン州の開票場に20人の州兵が動員されたのは事実。しかし、その理由は不正選挙の疑いからではなく、不在者投票用の投票用紙に見つかった印刷ミスの対応のためだ。(検証記事は(1)参照)

(3)「バイデン『最大規模の不正投票組織を設立した』と発言」

▶︎実際の発言だが文脈は投票妨害対策
10月のネット番組でバイデン氏が「不正投票組織」(voter fraud organization)を結成したと発言したのは事実。しかし、前後の文脈からこの「組織」は選挙妨害対策のための電話相談窓口を指していると読み取れる。

(4)「ミシガン州で1902年生まれや1850年生まれが投票」

▶︎同姓同名の息子や仮の生年
実際に投票したのは、1902年生まれで1984年に死去した人物と同姓同名の息子であり、州の有権者情報システムが両者を混同して表示していたことが判明している。データ上で生年月日が不明の場合は仮の日付が登録される場合もあり、「1850年」などはこれに当たると考えられる。

(5)「ミシガン州デトロイトで1823年生まれが投票」

▶︎選挙前に修正済み
これは(4)とは別のケースで、2019年12月に市民団体が有権者登録に多数の不備を指摘し告訴したというもの。しかし、既に登録が修正されたことから、今年7月に訴訟は取り下げられている。従って、今回の大統領選には影響せず、投票も行われていない。

まとめサイト「アノニマスポスト」によるTwitter投稿

(6)「ミシガン州で共和党6000票を民主党にカウント」

▶︎速報値の誤りのみ 結果に影響なし
誤りが発覚したのは開票中の速報値。カウント自体は適切に行われ最終結果に影響していないと、共和党・民主党双方の点検委員が確認している。速報値の誤りの原因は選挙用ソフトの更新が適切に行われていなかったことで、ソフト自体の不具合ではないという。

(7)「国土安全保障省が投票用紙に偽造防止の透かし」

▶︎DHSは関与せず一部地域が実施
投票用紙は地域ごとに作成されるため国レベルで用紙の印刷や偽造対策は行っていないと、国土安全保障省(DHS)傘下のサイバーセキュリティ&インフラセキュリティ庁(CISA)が否定。ただし、カリフォルニア州など一部地域では実際に透かしによる偽造対策を独自に行っている。

(8)「ネバダ州で3000件以上の不正投票を確認」

▶︎引越し前の住所で投票は可能
トランプ陣営はネバダから既に引っ越した3062人が投票していると主張、その名簿リストを公開したが、実際は引っ越して30日以内の人は旧住所で投票できる。また、リストには正規の在外投票をした軍人等も含まれている。

まとめサイト「ツイッター速報」によるTwitter投稿

(9)「機械的に製造されたバイデン票を発見」

▶︎有権者側のミスで返送されたもの
選管は、動画に映る投票IDをもとに、この票がどのように取り扱われたかを調査。その結果、有権者側が送付用でない封筒を誤って使ったため、自らマークした投票用紙がそのまま返送されたと判明している。

拡散したTwitter投稿

(10)「トランプ票を燃やした(動画)」

▶︎本物の投票用紙ではない
本来あるはずのバーコード(紙の周りに付いてるマーク)が無いことから、映っているのは本物の投票用紙ではないとバージニア州当局が声明を発表している。

拡散したTwitter投稿と動画

(11)「カリフォルニア州のゴミ場で数千万枚の票を発見(画像)」

▶︎過去の選挙用の空封筒
捨てられたのは2018年の選挙時に使われた空の封筒(枚数は不明)で、今回の選挙用のものとは見た目が違う。この画像は9月には拡散されていたが、その時点では新しい投票用紙はまだ送られていない。

拡散したTwitter投稿と画像

(12)「ジョージア州でゴミ箱に捨てられたトランプ票を発見(動画)」

▶︎捨てられたのは封筒のみ 投票用紙は無し
選管事務所へ投票用紙を送るための封筒がその建物裏のゴミ捨て場で見つかったが、共和党員の郡保安官による捜査で、封筒は全て開封済みで投票用紙は入っていなかったことが確認された。

拡散したTwitter投稿と動画

(13)「トランプ票がトラックで運ばれ山に埋められた(動画)」

▶︎動画は2016年に存在 サウジでの鶏肉廃棄か
期限切れの鶏肉を捨てているところとして、2016年にサウジアラビアの衛星放送局のニュースで紹介された動画だった。

拡散したTwitter投稿と動画

(14)「トランプ票を大量廃棄(画像)」

▶︎記入前の投票用紙や、無関係の郵便物
4枚の画像のうち、2枚は投票用紙、1枚は投票用紙を含む郵便物が実際に捨てられた時の画像だが、いずれも記入前のもの。特定の候補への票が捨てられたわけではなく、いずれもその後本来受け取るべき有権者へ用紙は渡されている。残り1枚は2018年に未配達の郵便物が捨てられた時の写真であり、今回の選挙とは全く関係が無い。

拡散したTwitter投稿と画像

(15)「ペンシルベニア州でトランプ票が大量に廃棄」

▶︎捨てられていたのは9票 うちトランプ票は7票
記入済みの在外軍人票が不正に開封され、廃棄されているのが見つかったのは、9月に実際あった出来事だ。詳細は捜査中だが、州務長官は単なるミスによるものという見解を示している。廃棄されたのは9票でうち7票がトランプ、他は不明。いずれも発見後再封され正規の票として取り扱われている。大量の投票用封筒の写真はあくまでもイメージ画像。

拡散したTiwtter投稿と英文記事

(16)「投票率 ネバダ州125%、ペンシルベニア州109%…(画像)」

▶︎データが古く有権者登録数が少ない
拡散した表に記載された有権者登録数のデータは古く、最近登録した人が含まれていない。投票当日に有権者登録できる州もあるなど、実際の登録数はさらに伸びており、投票数との矛盾は起きていない。

拡散したTwitter投稿

(17)「投票用紙を民間企業が発送するのは違法」

▶︎在外投票等では認められている
郵便公社(USPS)以外の民間業者を使っての郵便投票は多くの州で無効(違法ではない)だが、一部州では認められているほか、国外在住の有権者による在外投票の場合は全州で認められている。

まとめサイト「もえるあじあ」によるTiwtter投稿

(18)「RCPがバイデン氏のペンシルベニア州勝利を撤回」

▶︎元々「当確」を出しておらず、「撤回」していない
アメリカの政治ニュースサイト「リアルクリアポリティクス」(RCP)は元々ペンシルベニア州の勝利者を未定とし、全州での過半数の選挙人獲得も発表していない。CNNはバイデン氏が選挙人過半数獲得で勝利と報じているが、アリゾナ州の勝利者は一貫して未確定扱いで、変更してはいない(日本時間11月12日現在)。

まとめサイト「アノニマスポスト」によるTwitter投稿

(19)「ペンシルベニア州で死亡している2万1000人の名前で投票」

▶︎証拠不足で訴えは却下
民間の団体が主張し告訴したが、この約2万1000人が死亡しているという具体的な根拠が原告から示されなかったため、ペンシルベニア州東部地方裁判所が10月に訴えを却下している。

(20)「トランプ陣営会見場はアダルトショップの隣」

▶︎隣ではなく数軒離れている
トランプ陣営が突如会見場として使用し話題になった園芸業者(Four Seasons Total Landscaping)は、アダルトショップ(Fantasy Island)の建物とは数軒離れていることが、Googleのストリートビューで確認できる。

(過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年11月18日の予定です)

※この記事の調査には、インファクトの西村晴子が協力した。

Return Top