反バイデンの情報拡散を制裁する2018年大統領令インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜=ネット上の情報検証まとめ管理人)
(1)「大統領令でトランプ勝ち」
日付
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1/12 |
発信者
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もえるあじあ(まとめサイト) |
媒体
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Web記事 |
拡散数
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Twitterで最大1000RT |
内容
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「【大統領選】「大統領令(EO)13848」キタ━━━d(゚∀゚)b━━━!」と題し、「トランプ勝ち」「ほとんどのマスメディアと一部ビッグテックがアウトになります」などのコメントをまとめた記事(キャッシュ)。 | ||
引用
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【検証】反バイデンの情報拡散を制裁する2018年の大統領令
ここで取り上げられた大統領令13848号は、トランプ大統領が2018年9月に発したもの。外国勢力がプロパガンダや誤情報を用いて選挙に介入するのを防ぐためのもので、これに基づき1月11日、ウクライナの複数の人物や団体に対する資産凍結措置が発表された(米政府、財務省)。
バイデン次期大統領の息子ハンター・バイデン氏のウクライナでのビジネスを巡り汚職疑惑が取り沙汰されていることから、ネット上では今回の措置はバイデン氏へのダメージであり、トランプ氏にとって有利になると受け止める反応が多く見られた。
しかし、今回の制裁対象は2020年9月にハンター氏の疑惑に関する虚偽情報でバイデン氏を貶めたとして制裁を科されたウクライナの国会議員の関係者とされる(参考)。バイデン氏への攻撃が外国勢力によって不当に扇動されたとみなすものであり、疑惑を積極的に追及してきたトランプ陣営にとって決して有利になるものではない。詳細はBuzzFeedによる検証記事を参照。
その他にも、大統領選の結果を不服とする一部のトランプ支持者らによって「トランプ氏が戒厳令を発し軍が集結している」「トランプ氏から緊急放送でメッセージが発せられる」「ナンシー・ペロシ下院議長が逮捕された」「選挙不正に関わったイタリア大統領やローマ教皇が逮捕された」などの根拠の無い情報が次々と拡散されたが、今日までそのような異変はいずれも起きず、現地時間1月20日にはバイデン氏が正式にアメリカ大統領に就任した。これらについてはBuzzFeedの別の記事を参照。
(2)「オバマの出生地はケニア」
日付
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1/19 |
発信者
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加藤清隆(政治評論家) |
媒体
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拡散数
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4800RT | |
内容
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「オバマの出生地はケニアだった。つまりトランプ大統領が指摘していたように、大統領資格がなかったのだ。今回公開されたオバマ・ゲート機密公開の最大のものはこれだった。ケニアの出生証明書もあり、コロンビア大学の学生証には『バリー・ソエトロ』という実名が記され、『外国人学生』とある。」とする投稿。 |
【検証】ハワイの出生証明書を公開済み
「オバマ元大統領は本当はアフリカのケニア出身で大統領になる資格が無い」とする根拠不明の言説は、オバマ氏が大統領選に出馬した頃から現れ、大統領候補時代のトランプ氏も繰り返し言及していた。
オバマ氏は2011年にはアメリカ・ハワイ州で発行された出生証明書を公表。トランプ氏は2016年にこれを認め、「ケニア生まれ」の主張を撤回している(参照)。
「実名の学生証」もかつてコラージュ画像によって拡散されたもので、学生証の体裁もオバマ氏の顔写真も、オバマ氏がコロンビア大学を卒業した後にしか存在しないものが使われている(参照:Snopes)。
(3)「プーチン大統領『大半の国民がトランプ氏に投票した』」
日付
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1/10 |
発信者
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孫向文(漫画家) |
媒体
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拡散数
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2100RT | |
内容
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海外ユーザーの動画付き投稿を引用し、「プーチン大統領『トランプはロシアに亡命する必要なし、大半の国民が彼に投票した』プーチンがトランプの当選を認める」とする投稿。 | ||
引用
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※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様) |
【検証】プーチン氏は「ほぼ半数」と発言
孫氏の投稿内容はまとめサイトを経由するなどして拡散し、他の一般ユーザーによる投稿には約3700RTを獲得したものもある。
この投稿の元となったと思われるのは、ロシアのプーチン大統領による昨年12月17日の記者会見。「トランプ氏がロシアに亡命を求めてきたら受け入れるか?」という質問に対し、プーチン氏は「彼が亡命をする必要は無いように思う。選挙人ではなく有権者の数で言えば、ほぼ半数(Почти 50 процентов)が彼に投票した。彼は米国内で十分な支持基盤を持っており、私が理解する限りでは、彼が自国の政界を離れることはないだろう」と述べている。「大半の国民」というのは誤りだ。
ハッキングや情報操作などによってトランプ氏への支援を含む様々な選挙介入工作を行っていたと指摘されるロシアだが(参照1、2)、バイデン氏の当選確定後にはプーチン氏が祝電を送ったことを発表(参照)。バイデン氏の勝利に異議を唱える言動は特にしていない。
詳しくは、朝日新聞元モスクワ特派員の駒木明義氏(現論説委員)による一連の解説ツイートも参照。
(4)「ハーバード大がトランプ支持の卒業生の卒業証書を取り消し」
日付
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1/17 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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1700RT | |
内容
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「ハーバード大学は現在、トランプ大統領を支持する卒業生からの卒業証書を取り消している。」などとする投稿。 |
【検証】数名の学生が請願しただけ
ハーバード大で、数名の学生が連名でトランプ支持者の卒業取り消しを求める請願活動を行っているのは事実。請願書ではホワイトハウスのケイリー・マケナニー報道官や共和党のテッド・クルーズ
大学当局はこの請願について特にコメントしておらず、目下のところ請願が受け入れられたり、実際に卒業が取り消されたりしている事実は無い。詳細はSnopesやInternational Business Timesの検証記事を参照。
(5)「トランプ政権で人身売買逮捕検挙率は桁違いに上がった」
日付
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1/10 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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6300RT | |
内容
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「トランプは自らの政権で人身売買撲滅の大統領令を発令し人身売買の逮捕検挙率は桁違いに上がった。特に児童の人身売買が世界で巨大ビジネスになっている事はトランプ就任まで殆ど知られていなかった。」などとする投稿。 | ||
引用
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【検証】検挙数では横ばいかやや増加
人身売買の年間検挙数は、2009年1月~2017年1月のオバマ政権期に大幅に増加。2016年度には1952人に達した(各年度は9月まで)。その後のトランプ政権では年間約1600~2200人と増減を経て、2020年度は1746人となっている。全体として検挙数は横ばいか、やや増加の傾向にあると言えなくもないが、少なくとも「桁違い」ではない。詳細はFactCheck.orgの検証記事(データは2019年度まで)も参照のこと。
人身売買という犯罪はその性質上被害の実態が見えづらく、実際に起きた犯罪のうちどのくらいの割合が犯人検挙に至ったのかを知ることは難しい。しかし、検挙率と言う時は警察が認知した犯罪件数を分母に取るので、表に出ない事件は考慮されない。また、人身売買の場合、犯人検挙以外の方法で警察が認知するケースは少ないと思われるので、「検挙数」の推移は「検挙率」のそれと大きく変わらないとみなして良いだろう。
(6)「鼻出しマスクの受験生『従いたくない』と尾崎豊の曲を流す」
日付
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1/18 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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3.6万RT | |
内容
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「マスク不正、事の顛末」とのコメントと共に、「鼻出し受験生は『従いたくない』と言って、尾崎豊の曲をスマホで流す」などと書かれたスクリーンショット画像を添付した投稿。 |
【検証】ソース無く真偽不明
1月16日、大学入学共通テストの受験生が、鼻を覆わない状態でマスクをしていたために試験官が再三注意するも従わず、その後トイレに閉じこもったことで建造物不退去容疑により逮捕されるという事件があった。
この受験生がスマートフォンで尾崎豊の曲を流していたというのは、ネット上に投稿された真偽不明の情報に過ぎず、報道やその他証言などによる裏付けは全く無い。詳細はBuzzFeedによる検証記事を参照。
(7)「吉田沙保里 背筋測定で異変に気付きコロナ判明」
日付
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1/15 |
発信者
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一般ユーザー |
媒体
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拡散数
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2.1万RT | |
内容
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「吉田沙保里は、トレーニングジムで普段の背筋測定で160キロを計測していたが、この日は140止まり。このことから体調がおかしいと気付きPCR検査を受信し、陽性が判明した。なお、女性の背筋力の平均は85キロだとのこと。」などと書かれたスクリーンショット画像を添付した投稿。 | ||
引用
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【検証】「背筋測定で異変に気付き」は創作の可能性が高い
このスクリーンショットは、ネット掲示板「5ちゃんねる」のあるスレッドへの投稿が、別のスレッドに転載されたのを、さらに転載したまとめサイトのもの。スクリーンショット内にあるURLは、転載した方のスレッドである。
元レスリング選手の吉田沙保里氏が1月8日、新型コロナウイルスのPRC検査で陽性となったことを発表したのは事実。大元となった5ちゃんねるの投稿はこの件を取り上げた東京スポーツ記事への反応のようだが、実際の記事には背筋測定がきっかけで体調の異変に気付いたというような記述は存在せず、他の報道でもこうした内容は見当たらない。5ちゃんねるの投稿者が創作した可能性が高いと言えるだろう。
(過去の回をまとめて見たい方はこちらから。)