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《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.66/2021.1.17)

《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.66/2021.1.17)

インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「米議事堂侵入の人物はアンティファ」

日付
1/7
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
最大約1400RT
内容
アメリカの議事堂侵入事件の現場にいた人物を「アンティファ」のメンバーと指摘する一連の画像付きの投稿。
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)
【検証】いずれも以前より有名なトランプ支持者

1月6日にアメリカ連邦議会議事堂をデモ隊が襲撃し内部に侵入した事件は、直前のドナルド・トランプ大統領の演説に呼応した一部の過激的な支持者らが起こしたものとされているが、ネット上ではこれを左派運動「アンティファ」のメンバーがトランプ支持者を装ったのだとする主張が拡散されている。(「アンティファ」は組織ではなく運動の名前であるとされているが、ネット上の主張を紹介する際本稿では便宜的に「アンティファのメンバー」という呼称を用いる。)

特に広く拡散されたのが、報道の写真や映像でもひときわ目立っていた角と毛皮を身に付けた人物と、その横にいた長いひげの人物に関する主張だ。

角と毛皮の人物に関しては、黒人の人権保護を訴える「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動のデモ現場にいたという写真(上掲投稿1つ目の左)がアンティファとの関わりの根拠として拡散されている(BLMとアンティファにつながりがあるする根拠は不明)。しかし、これは元の写真の一部を切り取ったものであり、本来はこの人物がトランプ氏を熱狂的に支持する陰謀論「Qアノン」に関するプラカードを持っている様子が写っている(参考:Snopes)。

彼は各地の集会現場に登場していた有名なトランプ支持者で、2020年5月には地元紙記者のインタビューでトランプ氏を称える発言をしていたり、11月の大統領選後には民主党のジョー・バイデン氏の勝利を認めず選挙に不正があったと主張する様子が報じられたりしている。議事堂侵入の件では、既に逮捕・訴追されている

ひげの人物は、手の甲に見える刺青がアンティファとの関連の証拠だとされている。共産主義のシンボル「鎌と槌」に似ているとされるためだが、これはあるゲームに登場するシンボルで、共産主義とは何ら関係が無い(参考:Lead Stories)。

彼もまたトランプ支持者としてよく知られた人物で、「アンティファ関連のウェブサイトに写真が載っていた」という情報も拡散されたが、それは彼がアンティファ支持者だからではなく、極右団体に所属する要注意人物として名指しされていたからである(参考:AFP通信)。

詳細はBuzzFeedAFP通信の検証記事、またブログ「Hoarding Examples (英語例文等集積所)」による解説記事なども参照。


(2)「アメリカ特殊部隊がウクライナのバイデン別荘を捜査」

日付
1/7
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1800RT
内容
アメリカ特殊部隊がウクライナのバイデン別荘を捜査しパソコンと3億ドルの金貨を発見した。 またライフ銃と数万発の銃弾も押収し数体の死体も発見した。」とする投稿。
【検証】過去の偽ニュースの焼き直し

評論家の西村幸祐氏も、「事実なら大変」と留保しつつ同様の言説を投稿し、約1400RTと拡散している

この言説の発端はある海外サイトの1月4日の記事だが、その内容は2017年に拡散された偽ニュース「オバマ元大統領のタイの別荘をデルタフォース(アメリカ軍特殊部隊)が急襲」と酷似。金塊や銃器のほか地下トンネルの先に人身売買の痕跡を発見したといった内容が、細部を変えた程度のよく似た文章で語られている。掲載されている画像がゲーム画面や無関係の建物であることも共通しており、信憑性は全く無い。

詳細はLead StoriesSnopesの検証記事を参照。


(3)「アンティファメンバーが議事堂突入で報酬が支払われたことを認めた(動画)」

日付
1/8
発信者
藤原直哉(経済評論家
媒体
Twitter
拡散数
1800RT
内容
動画投稿サイトへのリンクとともに、「ANTIFAのメンバーが議事堂に突入して報酬を支払われたことを認めた。これは組織化された行動だったと言っている。」とする投稿
引用
【検証】ジョーク動画の疑い

同じ動画は、アメリカ所在の中国系メディア・大紀元の公式Twitterアカウントからも投稿されている
元々YouTubeに投稿されたものだが、削除されている(キャッシュ)。「私はアンティファでお金をもらって議事堂で抗議した」というタイトルで、何者かに頼まれて抗議参加者を装い議事堂へ行ったと話す人物が映っていたものだ。

しかし、動画の概要欄には同じアカウントから投稿された別の動画のURLが記載されており、その中では同一と思われる人物が「アンティファ」とは自分が創設した「反おなら(anti-farting)団体」のことだなどと話している。先の動画は単なる悪ふざけのジョークだったと考えるべきだろう。

詳細はファクトチェックサイトLead Storiesの検証記事を参照。


(4)「ジョージア州共和党候補の得票が急に減った」

日付
1/6
発信者
及川幸久(宗教家)
媒体
Twitter
拡散数
7500RT
内容
海外ユーザーの動画付き投稿(削除済み)を引用し、「ジョージア州早速不正バレた パーデューの得票774,723が急に742,323に減った。その証拠映像。」とする投稿
引用
【検証】メディアの速報値のミス 公式の集計に影響無し

アメリカ・ジョージア州で1月5日に行われた連邦議会上院議員選の決戦投票では、2議席共に民主党候補が勝利しているが、動画はそのABCテレビによる開票速報のワンシーン。共和党候補デービッドパーデュー氏の得票数の表示が、突然3万票以上減少する様子が映っている。

米紙USAトゥデイやファクトチェックサイトPolitiFactの取材によれば、これはABCテレビなどに選挙データを提供していた調査会社エディソンリサーチ社のミスによるもの。オペレーターが誤って多く入力した数値を修正したために、票数が急減したようになったという。

また、ジョージア州州務長官室の担当者は、公式の集計において票数の減少は起きていないと述べている。つまり、減少はあくまで報道のレベルのミスであり、公式の集計や選挙結果とは無関係だ。


(5)「議事堂突入扇動時に有頂天になるトランプ陣営」

日付
1/8
発信者
北丸雄二(ジャーナリスト)
媒体
Twitter
拡散数
1500RT
内容
海外ユーザーの動画付きの投稿を引用し、「昨日の議事堂突入扇動時に、ホワイトハウスのテントの中で何台もの大画面モニターを前に、トランプやイヴァンカやあのバカ息子らが飲み物片手に音楽をかけて『真の戦士だ』『戦え!』と『有頂天になって』いるビデオがこれです。」とする投稿
引用
【検証】突入より前の映像

動画は、トランプ大統領の息子のドナルド・トランプ・ジュニア氏が、陣営の人々と共に仮設テントの下で歓談する様子を撮影したもの。その場に置かれたモニターには群衆の姿が映り、トランプ氏やその娘のイバンカ・トランプ氏のような姿も見える(後者はホワイトハウス報道官のケイリー・マケナニー氏だとする意見もある)。

この動画はジュニア氏自身が「大統領演説前の家族の時間の舞台裏」という題でFacebook上に投稿したもの(削除済、キャッシュ)。実際、モニター上で群衆が集まっている場所は議事堂ではなくトランプ氏の演説会場と見て取れる。暴徒化した群衆が議事堂に押し入ったのは、この演説よりも後のことだ。

投稿された動画のワンシーン。モニターには演説会場に集まる人々が映し出されている。

また、動画の背景で流れるローラ・ブラニガンのヒット曲「グロリア」は演説会場で流れていた曲である(演説動画2時間30分頃参照)ほか、議事堂突入時はトランプ氏は実際はホワイトハウス内にいたと報じられている(参照)。

詳細はNewsweekAP通信Snopesの検証記事も参照。

ニュースサイトのギズモードも、「国会議事堂占拠をライブ観戦していたトランプ一族」などと題した記事で、「トランプ・ジュニアが議事堂突入ビューイングパーティーの模様を支持者にライブ配信していた」などとして映像を紹介(キャッシュ)。その後タイトルと本文を修正している。


(6)「(新型コロナ補償)英は飲食店に126万円 日本は一律6万円」

日付
1/7
発信者
望月衣塑子(東京新聞記者)
媒体
Twitter
拡散数
1400RT
内容
「英 新型コロナで営業停止の飲食店などに最大126万円支給を決定」というNHK記事を引きながら、「アベノミクスを進め、赤字国債を発行し続けた日本は、飲食店に一律6万円のみだ」などとする投稿
引用
【検証】6万円は日額 全期間なら最大186万円

記事にある通り、イギリスでは新型コロナウイルス対策により営業停止となった飲食店には日本円で最大126万円が支給されるが、これは1回限りの措置とされている。

一方、日本で今回緊急事態宣言発出に伴い時短要請などに従った1都3県の飲食店などに支給される協力金は、1日あたりの金額で6万円。1月8日から2月7日までの31日間全てで要請に従えば、計186万円の支給を受けることができる(参考:東京千葉神奈川埼玉では要請期間が異なるため計162万円)。また、いずれの都県も今回の要請より前の期間に対しても(今回に比べ少額なものの)協力金制度が存在している。

これらの他に、イギリスには月額最大42万円の補助金、日本には政府による最大200万円の持続化給付金などがあり、どちらの国の方が保証が手厚いかは一概に比較しがたい。しかし、「126万円と6万円」というのは全額と日額でそもそも基準が異なるため、両者を説明無く比較するのは誤解を招くと言えるだろう。

望月記者の投稿は1500件近くの引用リツイートがなされ、批判のコメントが多数寄せられている。


(7)「アメリカのどっきり番組とロシアの本当に隕石が降ってきた時の反応(動画)」

日付
1/3
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2.9万RT
内容
アメリカで隕石が降ってくるどっきり番組と,ロシアで本当に隕石が降ってた時の反応」などとする動画付きの投稿。
引用
【検証】CMとコメディ番組 演技の可能性あり

動画では2つの場面がつなぎ合わせられているが、そのうち前半の面接の場面は、アメリカではなくチリで放送された液晶テレビのCM。テレビ画面に隕石の映像を映し面接者を驚かせるという「ドッキリ」の形式を取っているが、本当のドッキリなのかそのような演技をしているのかは不明である。

後半の、隕石を意に介さずサンバイザーを下ろして運転を続ける場面は、ロシアのコメディ番組で放送されたもの(2:30~)。これも演技なのかどうか不明だが、番組の性質上その可能性は高い。

 

(過去の回をまとめて見たい方はこちらから。)

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