バイデン大統領の就任後、カリフォルニア州において大人と11歳以上の未成年者との性行為が合法化されたとの情報がツイッター上で拡散した(約1170件のリツイート、約2600件のいいね)。確認したところ、カリフォルニア州では一定の場合に未成年者との性行為が合法となる場合が存在したものの、問題のツイートは誤りだった。(田島輔)
カリフォルニアでは、梅にかわってから、法律が変わり、11歳から大人との性的関係をもってよい事になりました。
(2021年3月30日、匿名アカウントのツイッター投稿。「梅」とは、バイデン大統領の意味であると推測される。)
【誤り】 カリフォルニア州では、現在でも18歳未満の未成年者との性交は違法である。もっとも、婚姻関係にあれば未成年者との性行為が合法となりうるが、この制度はバイデン大統領就任後に成立したものではなく、対象言説は誤りだ。
カリフォルニア州刑法の内容は?
まず、カリフォルニア州刑法において、性行為に合意できる能力があるとされるのは18歳からだ。そのため、原則的として18歳未満の者との性行為は違法となる(刑法261.5条、法務省によるカリフォルニア州性犯罪関連条文の和訳)。
(a) Unlawful sexual intercourse is an act of sexual intercourse accomplished with a person who is not the spouse of the perpetrator, if the person is a minor. For the purposes of this section, a “minor” is a person under the age of 18 years and an “adult” is a person who is at least 18 years of age.(不法な性交とは、被害者が未成年の場合に、行為者の配偶者を除く被害者に対してなされる性交をいう。本条において、「未成年」とは18歳未満の者をいい、「成人」とは18歳以上の者をいう。)
(b) Any person who engages in an act of unlawful sexual intercourse with a minor who is not more than three years older or three years younger than the perpetrator, is guilty of a misdemeanor(行為者より3年年以下の範囲で年長又は年少の未成年者を相手に、不法な性交を行った者は、軽罪で有罪とする。).
(c) Any person who engages in an act of unlawful sexual intercourse with a minor who is more than three years younger than the perpetrator is guilty of either a misdemeanor or a felony, and shall be punished by imprisonment in a county jail not exceeding one year, or by imprisonment pursuant to subdivision (h) of Section 1170.(行為者よりも3年を超える年少の未成年者を相手に、不法な性交を行った者は、軽罪又は重罪のいずれかで有罪とし、1年以下の郡刑務所における拘禁刑又は第1170条(h)に基づく拘禁刑で処罰される。)
しかしながら、18歳未満の未成年者との性行為が、例外的に許容される場合が存在している。違法とされる「不法な性交」が、「被害者が未成年の場合に、行為者の配偶者を除く被害者に対してなされる性交」を意味しているためだ。
すなわち、行為者と婚姻関係にあるのであれば、配偶者である未成年者との性交は「不法な性交」に該当せず、合法ということになる。
では、問題のツイートでは言及していないものの、婚姻関係にあることを前提とすれば、11歳以上の未成年者との性交は合法といえるのだろうか。
カリフォルニア州では『児童婚』が適法
ここで問題となるのが、カリフォルニア州における結婚制度だ。カリフォルニア州においては、両親の同意と裁判所の命令さえあれば、未成年者も結婚することができ、さらには結婚可能な年齢に下限がない。
カリフォルニア州の弁護士事務所も、未成年者との性交が許される例外として、以下のように記載している。
There is one exception where a minor can have sexual intercourse with an adult. This is when the two parties are married.(未成年者が成人と性交できる例外があります。それは、二人が結婚している場合です。)
Note that California is one of just a few states that does not have a minimum age for marriage. If a minor though decides to marry, that person must obtain parental consent and a court order prior to the marriage.(なお、カリフォルニア州は、結婚の最低年齢を定めていない数少ない州のひとつです。未成年者が結婚する場合は、親の同意と裁判所の命令を得なければなりません。)
したがって、未成年者が何歳であっても、親の同意と裁判所の命令さえあれば結婚が可能であり、その場合には「不法な性交」にも該当しないことになる(実際、2017年に12歳の少女と28歳の男性が結婚した事例があった)。
ただし、カリフォルニア州刑法288.7条は「10歳以下の子供と性交又は肛門性交した18歳以上の者は、重罪で有罪とし、州刑務所において、25年から終身までの拘禁刑に処する」とも定めており、仮に結婚しているとしても、10歳以下の子供との性交は絶対的に禁止していると考えられる(法律系出版社が運営しているサイトでの解説でも、婚姻関係があるとの抗弁を提出できる「statutory rape」の中に、刑法288.7条を含めていない)。
しかし、その場合でも婚姻関係を前提にすれば、問題のツイートにあるとおり11歳以上の未成年者との性交が「合法」となる可能性はある。
カリフォルニア州を含む多くの州で「児童婚」が許されていることは、アメリカでも問題視されており、児童婚を禁止するための活動を行う団体も存在している(California Coalition to End Child Marriage、Unchained at Last)。
カリフォルニア州での児童婚の実態は記録がないため不明だが、2000年から2010年の間に、アメリカでは12歳児を含む24万8000人もの未成年者が結婚したと推定するデータも存在した。
『児童婚』が適法なのはいつから?
カリフォルニア州で「児童婚」の制度がいつから続いているのか詳細は不明だが、上述のとおり廃止に向けた運動が行われており、2017年には結婚可能な最低年齢を定める法案が提出された(結果としては否決)。
当然ではあるが、カリフォルニア州で児童婚が認められているのは、昔からの制度が継続してしまっているためであり、バイデン大統領の就任とは関係ない(参考として「Unchained at Last」創設者のインタビュー)。
なお、小児性愛がカリフォルニア州で合法化されたとの言説は、昨年アメリカでも拡散した。きっかけとなったのは、未成年者と特定の性行為を行った若者が性犯罪者として自動的に登録される制度が、2020年に廃止されたことだ。しかしながら、小児性愛が合法化されたという事実はなく、海外のサイトでも当該言説は誤りと判定されている(POLITI FACT、ロイター通信)。
結論
カリフォルニア州において18歳未満の未成年者との性交は原則として違法であり、11歳以上の未成年者との性交が合法化されたことはない。
もっとも、カリフォルニア州では、一定の条件下で「児童婚」が適法であり、結婚可能な最低年齢は存在していない。そして、未成年の配偶者との性行為は合法であり、婚姻関係を前提にすれば、大人と11歳児の性行為が合法となる可能性は否定できない。
しかしながら、この制度はカリフォルニア州で昔から続いている制度であり、バイデン大統領の就任とは関係がない。
よって、どのような観点からも問題のツイートは「誤り」だ。
(冒頭写真:2021年1月20日大統領就任式で演説するバイデン大統領、CNNのyoutubeより)