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ファイザーとコロンビア政府とで交わされたコロナワクチン契約書【ワクチンのファクト⑦】

ファイザーとコロンビア政府とで交わされたコロナワクチン契約書【ワクチンのファクト⑦】

ワクチンのファクト⑥」で報じたとおり、日本では新型コロナワクチンの契約書が一切公開されていない。ではその内容は全くわからないかと言うと、そうでもない。実は海外の契約書をネット上で確認することできるのだ。(田島輔)

米国消費者団体が発表

アメリカの消費者団体「PUBLIC CITIZEN」が、アルバニア、ブラジル、コロンビア、チリ、ドミニカ、欧州連合、ペルー、米国、英国の9ヵ国とファイザーとの間で締結された新型コロナワクチン契約書の内容を公開した(参照)。
この「PUBLIC CITIZEN」は、ファイザーがその強い交渉力をもって各国と不公正な契約を結んでいることを問題としており、米ワシントンポスト紙も同団体が公開した内容を報じている(参照)。

公開された契約書は、インターネット流出したものもあるが、中には法令にしたがって適法に開示された契約書も存在する(ドミニカ共和国の契約書、参照)。
InFactでは、厚生労働省に対してワクチン契約書の情報公開請求を行ったが、契約書の内容は一切開示されることもなく、内容はおろか項目・分量等、契約に関する情報は全く分からない状況だ。その内容は以下だ。

では、ワクチンに関する政府と製薬会社との契約書とはどのようなものなのか?それを知る手掛かりとして、公開された契約書の中でも、最終的な合意であり、黒塗りの部分がないコロンビア政府とファイザー間の契約書の内容を見てみたい。


契約書の流出後にコロンビア政府とファイザーとの間で緊急会合がもたれていることから、本物であると考えられる(参照)。加えて、新型コロナワクチンの情報をまとめたユニセフのサイトでも参照されている(参照)。

ファイザー社の責任を回避する複数の条項

契約書は、2021年2月2日、コロンビア政府の管轄下で災害時対応を行う企業「Fiduprevisora S.A」(参照)(契約書の中では「購入者」と規定される。)とファイザー社との間で締結されたものだ(コロンビア政府とファイザー社との契約書、参照)。

そこには、問題発生時にファイザー社が責任を回避するための複数の条項が存在している。
第一に、ワクチンについて緊急事態への応から緊急に開発されたもので、現在知られていない副反応が起こり得ることを認識すると書かれている。

5.6. Purchaser Acknowledgement.
「Purchaser acknowledges that the Vaccine and materials related to the Vaccine, and their components and constituent materials are being rapidly developed due to the emergency circumstances of the COVID-19 pandemic and will continue to be studied after provision of the Vaccine to Purchaser under this Agreement. Purchaser further acknowledges that the long-term effects and efficacy of the Vaccine are not currently known and that there may be adverse effects of the Vaccine that are not currently known. Further, to the extent applicable, Purchaser acknowledges that the Product shall not be serialized.」

5条6項 購入者の認識
「購入者は、本ワクチン・その材料および構成物質等は、Covid-19のパンデミックによる緊急事態によって早急に開発されたものであり、本契約書の下で購入者に本ワクチンが供給された後も研究が継続されるものであることを認める。そして、購入者は、本ワクチンによる長期の影響および効果は現時点で不明であり、現時点で判明していない副反応が生じうることを認める。さらに、適用される限り、購入者は製品がシリアル化※されていないことを認める。」
※シリアル化:製品にシリアル番号を割り当てて管理することで、偽薬の流通防止等を行うこと。

新型コロナワクチンは、長期の影響や効果が不明確であり、予期しない副反応が発生するリスクは、購入者、つまり日本であれば日本政府が負担するということだ。

さらには、新型コロナワクチンが承認されなかった等の理由により、ファイザー社が製品を供給出来なかった場合に備えた以下のような規定があった。

2.5. Product Shortages.
「Purchaser hereby waives all rights and remedies that it may have at Law, in equity or otherwise, arising from or relating to: (i) any failure by Pfizer to develop or obtain Authorization of the Product in accordance with the estimated dates described in this Agreement; or (ii) any failure by Pfizer to deliver the Contracted Doses in accordance with the Delivery Schedule. 」

2条5項 製品の不足
「購入者は、以下に起因または関連する事項について、法律上・衡平法上・その他の方法で有する全ての権利及び救済方法を放棄します。
(ⅰ) ファイザー社が、本契約に規定される予定日にしたがって本製品の開発または承認取得できなかった場合
(ⅱ) ファイザー社が、契約した接種回数分を納品スケジュールにしたがって納品できなかった場合」

ファイザー社が新型コロナワクチンの開発や承認に失敗したり、予定数量を納品出来なかったとしても、コロンビア政府は何ら法的手段に訴えて賠償等を求めることは出来ないということだ。

以上のほかにも、新型コロナワクチンが供給できない場合にファイザー社が責任を負わない旨は繰り返し規定されている(2条6項)。
また、新型コロナワクチンが第三者の知的財産権を侵害していないことの表明保証をファイザー社が否定する(5条5項)等、ファイザー社に有利な条項が多数、契約に盛り込まれている。

製薬会社の費用を肩代わりする条項

日本でも、新型コロナワクチンに関して製薬会社に発生した損害賠償を国が肩代わりする契約を結ぶことが可能になっているが(参照)、この点についてコロンビアの契約はどのような内容になっているのだろうか。

まず、新型コロナワクチンの「リコール」が発生した際の費用をコロンビア政府が負担する規定が存在していた。

4.7. Recalls.
「Purchaser shall be responsible for all costs of any recall or market withdrawal of the Product in Colombia, including, without limitation, reasonable costs incurred by or on behalf of Pfizer and its Affiliates or BioNTech and its Affiliates, except to the extent that such recall or market withdrawal results from willful misconduct (being a wrongful act, willingly and knowingly committed without legal or factual justification with the intent to cause the harmful effects) on the part of, Pfizer or any of its Affiliates or any of their respective Personnel, …」

4条7項 製品の回収
「購入者は、コロンビアにおける新型コロナワクチンの回収・市場からの撤退について全ての費用を負担します。これには、ファイザー社およびその関連会社、ビオンテック社およびその関連会社が負担する合理的費用を含みますがこれに限られません。ただし、かかる回収または市場からの撤退が、ファイザー社・その関連会社・またはそれらの人員の故意(有害な影響を生じることを意図して、法律上または事実上の正当事由なく、故意かつ承知の上で行われる不正行為)によって生じた場合は除きます。」

ファイザー社等に故意による不正行為がない限り、新型コロナワクチンのリコールが発生した場合にはコロンビア政府が費用を負担する旨の規定だ。
製薬会社が有害事象を発生させることを目的に製品を市場投入する事態は考えられないため、リコールが発生した場合、ほとんどの場合で政府が費用を負担することになるだろう。

さらに、以下のとおり、ファイザー社等に何らの損害を及ぼさないように、広範な範囲を対象としてコロンビア政府が補償を行わなければならない旨の規定も存在する。かなり長い条項であるため、一部を抜粋して紹介する。

8.1. Indemnification by Purchaser.
「Purchaser hereby agrees to indemnify, defend and hold harmless Pfizer, BioNTech, each of their Affiliates, contractors, sub-contractors, licensors, licensees, sub-licensees, distributors, …(“Indemnitees”), from and against any and all suits, claims, actions, demands, losses, damages,…(collectively, “Losses”) caused by, arising out of, relating to, or resulting from the Vaccine, including but not limited to any stage of design, development, investigation, formulation, testing, or use of the Vaccine, …(“Covered Activities”)」


8条1項 購入者による補償
「購入者は、ファイザー社、ビオンテック社、その関連会社、請負業者、下請業者、ライセンサー、ライセンシー、サブライセンシー、販売業者…(以下、「免責者」という。)を、本ワクチンの設計、開発、調査、処方、試験、使用…の各段階を含むがこれに限られない(以下、「補償対象の活動」という。)、本ワクチンに起因または関連する訴訟・請求・行動・要求・損失・損害賠償…(以下、総称して「損失」という。)から補償、防御、免責することに合意します。」

この条項は、新型コロナワクチン接種に関連して、賠償問題を含む何らかの問題が発生した場合には、コロンビア政府が損害賠償等を肩代わりする内容になっており、政府が肩代わりする範囲は非常に広範になっている。

例えば、前述のとおりファイザー社は新型コロナワクチンについて第三者の特許権を侵害していないことを保証していないため(5条5項)、第三者が特許権侵害でファイザー社を訴えた場合、コロンビア政府が賠償金等の費用を負担することになる。

このような規定がある限り、ファイザー社はほとんどリスクを負うことなく新型コロナワクチンをコロンビア政府に販売することができるということだ。

秘密保持条項の内容は?

日本における新型コロナワクチン供給契約書に関して行った情報公開請求は、製薬会社から契約書の機密扱いを求められているという理由で全部不開示決定となった(参照)。

コロンビアの契約書の中にも「Confidential Information includes, without limitation, the terms and conditions of this Agreement.(機密情報には本契約書の条件・条項を含むが、これに限られない。)」(1条12項)とあり、確かに契約書の内容自体も機密扱いを求められている。

もっとも、法に基づく要求があった場合など、機密情報が開示される例外も想定されていることから、「If at the request of a third party the disclosure of the contents of this Agreement is requested to the Purchaser, it may prepare a public version where the Confidential Information is not disclosed for protection of the public interest which shall be revised and approved by Pfizer.(もし、第三者からの要求に基づいて、本契約書内容の公開が購入者に求められた場合、購入者は、公益保護のために機密情報を不開示とする公開版を作成することができ、ファイザー社はこれを修正・承認するものとします。)」(10条1項)として、公開版を作成して情報開示することが認められている。

イスラエルが、一部を黒塗りにしてファイザー社との契約書を公開したことがあったが、上記のような規定に基づいて公開版を作成したと推測される(参照)。

日本の情報公開は?

以上に紹介した以外にも、コロンビア政府とファイザー社との間の新型コロナワクチンに関する契約書の中には、ファイザー社に非常に有利な条項が多数存在していることは確かだ(新型コロナワクチンの配布をコロンビア国内に限定していること(4条6項)、主権免除特権の放棄〔政府の資産が差押えを受ける可能性がある〕(9条4項)、準拠法がNY州法であること(12条4項)等)。

日本が、ファイザー社等の製薬会社との間でどのような契約を締結しているのかは不明であるが、新型コロナワクチンに関して日本政府と製薬会社がどのような契約を結んでいるのかは、市民にとって関心の強い事項だろう。

政府はワクチン接種を進める方針だが、それには人々の理解が不可欠だ。可能な範囲ででも製薬会社との契約書を公開し、出来る限りの情報開示を行うべきではないだろうか。黒塗りが一部含まれていても、全くの不開示よりは人々の理解は得られるだろう。

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