厚生労働省が、新型コロナワクチンの推奨動画を作成したインフルエンサーYoutuberに、1000万円程度の報酬を支払っているとの「契約書」の画像が拡散した。しかし、拡散した「契約書」は、ワクチンを推奨したインフルエンサーとの契約書ではない。
対象言説
✓ユーチューバーがワクチン打て打て動画を作れば1本数百万円の報酬がもらえた
✓厚労省発行のインフルエンサー向け契約書には契約金約1千万円と記載あり
国、メディア、製薬会社は全部つながっている。ワクチンは金になる。
結論
【誤り】
「厚労省発行のインフルエンサー向け契約書には契約金約1千万円と記載あり」との言説に添付されていた契約書は、厚生労働省の入札案件に関するもの。入札案件名は、「新型コロナウイルス感染症のワクチンの情報提供に資するための国民の認識や意向に関する調査及び情報提供資材制作一式」(参照)であり、落札者はヘルスケア分野を専門とする外資系広告代理店・ターギス株式会社だ。そのため、当該契約書は、ワクチンを推奨したインフルエンサー向けのものではない。
InFactはレーティングをエンマ大王で示している。
問題のツイートは「誤り」であり、これは3エンマ大王となる。
エンマ大王のレーティングは以下の通り。
- 4エンマ大王 「虚偽」
- 3エンマ大王 「誤り」
- 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
- 1エンマ大王 「ほぼ正確」
InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。
ファクトチェックの詳細
契約書拡散のきっかけ
当該契約書が拡散するきっかけとなったのは、人気Youtuberが、広告代理店から、「(ワクチンを)推奨する動画を1個作れば、数百万円入ってくる」と、コロナワクチン推奨動画作成の案件を持ちかけられたことがあると発言したことだ(この発言の真偽は不明)(参照)。
この発言と結び付けられる形で、問題の契約書の画像が、厚労省がインフルエンサーと締結した際の契約書として拡散した。
契約書の入札案件
しかし、拡散している契約書は、厚生労働省とインフルエンサーが契約した際のものではない。これは、「新型コロナウイルス感染症のワクチンの情報提供に資するための国民の認識や意向に関する調査及び情報提供資材制作一式」(参照)という、2020年12月18日に公告された入札案件に関する契約書だ。
契約相手は落札者である外資系広告代理店・ターギス株式会社であり、契約書はInFactが情報公開請求で入手したものと見られる。案件の詳細は、当時の記事で紹介している。
契約書1頁の全体を公開しておく。
ターギス社が作成した「見積書」も添付する。ここにも、「インフルエンサー」に数百万円もの金銭が支払われる旨の記載はない。黒塗り個所は厚生労働省が不開示とした部分だ。
入札案件の内容
当該入札案件の主な内容は、①新型コロナワクチンに関する接種意向のマーケティング調査、②調査結果を踏まえた広報資材の作成だ。
入札案件の内容が分かるよう、仕様書の一部も添付しておく。SNS等に掲載するコンテンツ作成も業務内容に含まれているが、少なくともこの仕様書では、「インフルエンサー」の活用については記載はない。
以上のとおり、拡散している「契約書」は、厚生労働省が、新型コロナワクチンの接種意向に関するマーケティング調査や広報資材作成のために、ターギス社と締結したものだ。
したがって、厚労省とインフルエンサーとの間で作成されたものではなく、拡散している言説は明確に「誤り」だ。
「インフルエンサー」の活用は?
では、実施されたマーケティング調査に基づいて、「インフルエンサー」を活用した広告手法が展開されたことはあったのだろうか。
上記の記事にも記載したとおり、ターギス社が提出した資料の中に、医薬品に関する一般的なプロモーション手法として、「KOL」(Key Opinion Leader(キーオピニオンリーダー))と呼ばれる、医師などの専門家であるインフルエンサー(参照)を活用する方法が紹介されていたことは事実だ。
もっとも、実施されたマーケティング調査の報告書等についても情報公開請求を行ったが、ほとんど「黒塗り」で内容が不明であった。そのため、実際に「KOL」や「インフルエンサー」が活用されたか否かは不明だ。
しかしながら、マーケティング調査では、「新型コロナウイルスワクチン接種意向に影響を与えるインフルエンサー」が調査されていた。調査結果は不開示で「黒塗り」となっており不明だ。
繰り返しになるが、実際に、新型コロナワクチンの広報活動で「KOL」や「インフルエンサー」が活用されてないとは言えない。事実は、活用されたか否かは分からないということだ。この点については、厚生労働省が明らかにするべきだろう。
(田島輔)