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【FactCheck】メディアが報じる「新型コロナ 新たな感染確認 2万人超」は根拠不明。PCR検査の「陽性」は「感染」か?

【FactCheck】メディアが報じる「新型コロナ 新たな感染確認 2万人超」は根拠不明。PCR検査の「陽性」は「感染」か?

オミクロン株によって新型コロナの感染は第六波に入ったとされ、新聞、テレビは日々、急増する感染者数を報じている。こうしたマスメディアで報じられる数字は実際にはPCR検査の「陽性者数」を指している。では、この「陽性者」を「感染者」とイコールにする根拠は有るのか?改めて検証する。(田島輔/画像:NHKニュース7を接写)

チェック対象
「新型コロナ 新たな感染確認 2万人超」といった、PCR検査の「陽性」を「感染」と同一視するマスメディア等の報道

結論
【根拠不明】 PCR検査の「陽性者」は「感染者」とほとんど同じ、というのが厚生労働省の見解であり、「陽性者」=「感染者」である可能性は否定できない。他方で、実際には「陽性者」が「感染者」ではない可能性もあり、「陽性者」=「感染者」と断言するだけの根拠は確認できない。

厚生労働省の見解は?

マスメディアで報じられている「感染者数」とはPCR検査で「陽性」となった人の数だ。この数字は全国の自治体から厚生労働省に報告されてまとめられる。このため厚生労働省で発表されている数字も、「陽性者数」であって「感染者数」ではない。それをメディアは「感染」と表現しているのだが、「陽性」=「感染」と言えるのだろうか?


前提として、採取した検体(粘液や唾液など)の中に新型コロナウイルスの遺伝子が存在していれば、PCR検査は「陽性」になる(参照)。これに対して、「感染」とは、ウイルスが生体内に侵入し、生体内で定着・増殖し、寄生の状態になった場合をいうとされる(参照)。

「陽性」と「感染」は定義が異なり、PCR検査の結果をもって、新型コロナウイルスに「感染」と扱うべきかどうかついては、様々な意見が存在している(参照参照)。

「陽性」=「感染」と言い切っていいのか?この問題について数字を公表している厚生労働省へ問い合わせた結果は以下のとおりだった。回答は、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部から得ている。

Q マスメディアでは、連日、「陽性」=「感染」という前提で報道がなされているが、これは間違っていないのか?
A 厚生労働省としても、PCR検査の「陽性」は「感染」とほぼ同じという考え。メディアで毎日、感染者何人と報じていることも、厚生省として問題視していない。厚生労働省のHPでは「陽性者」と表現しているが、厳密に区別しているものではない。現状では、新型コロナウイルスの診断の基準となっているのがPCR検査なので、「陽性」=「感染」と考えている。

無症状者が「感染」しているかどうかを確認することは困難であり、PCR検査で「陽性」になった場合には「感染」している可能性が高いことから、厚生労働省としては、PCR検査の「陽性」は「感染」と基本的に同じと考えているということだ。恐らく各メディアはこの厚生労働省の考え方に基づいて「陽性者数」を「感染者数」と報じているのだろう。

ウイルスの死骸が検出されることも

もっとも、PCR検査は、感染力のないウイルスの死骸も検知して「陽性」としてしまう可能性を指摘する研究結果も存在する(日経新聞の報道)。この点について厚生労働省も認めている。

Q PCR検査では、感染力のないウイルスの死骸を検知することもあるのか?
A 感染が終わった後の死んでいるウイルスとか、ウイルスの断片がPCRで検出されることはある。PCR検査では、検査したウイルスが生きているか、死んでいるかまでは区別できない。

感染力のないウイルスもPCR検査で検出されている可能性があることを厚生労働省も認めているということだ。「死んでいるウィルス」であれば、感染力は無い。PCR検査では、感染力のあるウイルスかどうか区別できないとなると、やはり「陽性」=「感染」と言い切れないのではないかとの疑問も生じる。

更に厚生労働省に問うた。

Q ウイルスが生きてるかどうかの区別を行う方法はないのか?
A ウイルスが生きているのか死んでいるのか確認する方法は、「ウイルス培養」という方法がある。もっとも、全件ウイルス培養を行うことは現実的に不可能。PCR検査で「陽性」であったとしても、ウイルスの残存と医師が判断すれば届出を行わない。厚生労働省の発表は、医師の届出に基づいている。ただし、医師の届出があったものについても、感染性をもっているかどうかは分からない。ものすごい少ない量のウイルスだと、ウイルスの断片だけという可能性もある。現状としては、そこを見極める術がなく、検査の限界。

感染性のないウイルスの死骸だと医師が判断すれば、医師は届出を行わないとのことだが、現実に、生きているウイルスの場合に限って届出が行われているかどうかは分からないようだ。

厚生労働省自身が、「ウイルス培養」を全件実施してウイルスが生きているかを確認することは現実的ではない、と認めてることからも、実際には、全ての「陽性」結果が「感染」を意味しているか否かは不明ということだろう。

そのため、厳密には、PCR検査で「陽性」になったとしても、新型コロナウイルスに「感染」していて、尚且つ他人に感染させるかどうかは分からないというのが実態と言って良い。

この点は、国会で政府も認めている。2020年12月1日の参議院・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会で、政府参考人として出席した佐原康之氏(厚生労働省大臣官房危機管理・医務技術総括審議官)が「PCR検査の陽性判定イコールウイルスの感染性の証明ということではない」と答弁している(参照)。

結論

新型コロナウイルスに関して標準的な検査方法はPCR検査であり、厚生労働省の見解としては「陽性」と「感染」はほぼ同じということだった。しかし、一方で、厚生労働省も認めているとおり、PCR検査はウイルスが生きているかどうかの区別が出来ず、PCR検査の「陽性者」が本当に新型コロナウイルスに「感染」しているか否かは、厳密には分からない。

そのため、「新型コロナ 新たな感染確認2万人超 」といった「陽性」と「感染」を同一視する報道は、「陽性者」が全員「感染者」と言い切れない以上、「根拠不明」と言わざるを得ない。

(冒頭写真:「感染者数」を報じるNHK「ニュース7」)

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