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「歯が抜ける村」中国レアアース汚染の実態 ◇内モンゴル自治区現地報告 宮崎紀秀

●因果関係の調査は?

化学物質による健康被害に詳しい東京大学環境安全研究センター刈間理介准教授(医学博士)は、住民たちの映像を見た上で、「酸性の水を飲用している影響が考えられるのはないか」と指摘する。ただ、酸による浸食は主に上の歯に現れるが浸食が下の歯にも及んでいること、歯がある程度浸食されたとしても通常はカルシウムの吸収によって修復されるはずだが、障害が著しいこと、などから、フッ素が水と反応してできるフッ化水素の影響によってカルシウムの吸収が阻害された可能性もあるという。

さらに刈間氏は住民に骨硬化症が出ている疑いも指摘する。フッ素は骨のカルシウムと結びついてフッ化カルシウムの沈着物となり骨硬化症を引き起こす。骨硬化症とは、骨が異常に固くなり痛みを伴うもので、関節の骨が固くなり運動障害が起きたり、骨が脆くなり骨折しやすくなったりするという。確かにこの指摘は「腰が痛い、足が痛いと訴える人も多い」という住民の主張と一致しているようにも思える。

レアアース湖の近くにある打拉亥村の住民たち (2013年5月22日)
レアアース湖の近くにある打拉亥村の住民たち
(2013年5月22日)

公害による健康被害は、因果関係の証明が困難だ。ダラハイ村の人々の健康被害も現段階でレアアースの採掘や開発と関係あると断定できるものではない。しかし、レアアース湖の近くで生活してきた人々が健康被害を訴えていることは事実である。残念ながら、中国当局の対策からは、本腰を入れて健康被害を調査し、原因の究明と住民の保護に取り組もうという姿勢は見られない。

かつて鄧小平氏は、「中東に石油がある。中国にはレアアースがある」と指摘している。その先見性には驚きを禁じ得ないが、中国は鄧氏の言葉通り戦略物資としての価値を重視し、国を上げてレアアースを開発。安価なレアアースで世界の市場を席巻し、強い影響力を手にしたわけだが、その力の源泉が庶民の犠牲の上に立つものであってよいはずがない。
(撮影は全て2013年5月)

<<執筆者プロフィール>>

宮崎紀秀(norimiyazaki@outlook.com)
1970年生まれ。元日本テレビ記者。警視庁クラブ、調査報道班などを経て中国総局長。中国滞在は約6年。北京在住。

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