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小池都政 公約検証[6] “多摩格差”は是正されたのか?

小池都政 公約検証[6] “多摩格差”は是正されたのか?

東京都の小池百合子知事が4年前の立候補時に掲げた公約キャッチフレーズの一つが「多摩格差ゼロへ」だった。しかし小池氏は結局「多摩格差」が何であるか明確に語らず、自らアピールできる明確な成果もない。実際に、所得格差や教育格差は是正されていない。(宮原ジェフリー)

検証対象の公約内容

多摩格差をゼロへ。
2016年都知事選の公約「スマートシティ」(6)

小池都政検証シリーズについて

検証

東京都は23特別区と多摩地区、島しょ地区からなっており、経済的な中心となっている23区とそれ以外の地域の格差が顕著と言われている。

ただ、小池氏は「多摩格差」が何を示すかについては明確には語っていない。「格差」を測るには、様々な指標が考えられるが(待機児童の数、人口あたりの病院数、人口流出数など)、何を是正したいのか明示して来なかった。首長選挙の立候補者として、具体性に欠ける公約を掲げることは、任期終了後に都合の良い数値や実績を発表して成果を強調する「後出しジャンケン」を許してしまう、という批判を免れないだろう。

交付金は増額するも、所得格差は拡大傾向

小池都政では、多摩・島嶼地域を対象とした市町村総合交付金を毎年増額しており、2020年度予算では過去最高の580億円を計上した。だが、交付金を増額したからといって、ただちに格差が縮小されるわけではないから、これは「格差是正」の成果とならない。

ここではまず、経済指標、端的には「人口1人あたりの課税対象所得額」について、多摩地域と特別区の差を比較してみる。その結果、冒頭のグラフの通り、多摩地域と特別区の所得格差は小池都政発足以降若干の増加傾向にあることがわかった(参考資料:東京市町村自治調査会「多摩地域データブック」)。

都立高校の格差は是正されず

小池氏は自身の公式サイトで、知事選に向けて成果をアピールしたページで「多摩・島しょ地域の振興」について、「道路や教育施設などのインフラ整備が区部より遅れている」との認識を示している。ただ、区部と多摩地区では自家用車の普及率や鉄道・地下鉄の整備状況が異なり、道路の整備率で比較するのは困難である。ここでは学校数、特に東京都が多くの都立学校を設置している高等学校の数で検証することにした。

2019年のデータでみると、高等学校1校あたりの16〜18歳の人口は区部で637.75人、多摩地域では1000.36人と、依然として大きな格差がある(東京都学校基本調査及び住民基本台帳による東京都の世帯と人口から算出)。都立高校を増やせば、この格差は縮小しただろう。しかし、小池都政の4年間では、私立高校が区部で1減、多摩地域で1増したのみで都立高校の増減はなかった(東京都学校基本調査)。つまり、この格差は何ら是正されていなかったことになる。

多摩都市モノレール延伸「予算措置」が成果?

また、小池氏は、自らの成果をアピールする自身のサイトで、多摩格差を是正した成果として「多摩都市モノレール延伸のための予算措置」を挙げている。これは現在、東大和市の上北台駅から多摩市の多摩センター駅を結ぶ、多摩都市モノレール線を、瑞穂町にある八高線箱根ヶ崎駅まで延伸する計画に着手するための予算を2020年度予算で1.16億円を計上したことを指している。しかし、この延伸をもって「多摩格差」が是正されたとは言い難い。しかも任期4年目にして着手し始め、実現に10年以上かかる見込みとされていることから、現時点での「成果」として捉えることは難しい。

もっと他に「多摩格差」を是正した、として誇るべき成果があれば、自身のサイトに明記していただろうし、最近公開した有権者の疑問に答える動画でもアピールしていただろう。それができていないということは、是正の成果がないということだ。

結論

小池都政において、多摩地区と特別区の所得格差が若干ではあるが拡大している。小池氏自身が「多摩格差」と認めている教育施設の格差についても、都立高校でみた場合、是正がなされていない。「多摩格差ゼロへ」の公約そのものが具体性に欠け、何を是正するのか明確しておらず、自ら成果もアピールできていない点も踏まえ、本公約に関する小池都政の評定は「不可」とした。

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