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《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.68/2021.1.31)

《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.68/2021.1.31)

インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「新型コロナ感染議員 自民だけ即入院」

日付
1/23
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.3万RT
内容
新型コロナウイルス感染が判明した国会議員について、「無所属 桜井 → 自宅待機 立憲 小川 → 自宅待機 立憲 羽田 → 高熱・死亡後陽性 共産 清水 → 高熱・自宅待機 自民 高鳥 → 即入院 自民 渡嘉敷 → 即入院 自民 竹本 → 無症状・即入院 自民 安藤 → 自宅待機 自民 石原 → 無症状・即入院」などとする投稿。
【検証】一部記述に誤り 入院判断の要因も様々

投稿は感染した国会議員のうち自民党だけがすぐに入院でき優遇されているという趣旨と思われるが、この説明には一部誤りや恣意的なものがある。

明らかに誤りなのは、立憲民主党・小川淳也衆院議員と自民党・竹本直一衆院議員についての記述。小川氏は2020年11月17日に病院での検査で陽性が確認され、その日のうちに入院している。竹本氏は軽い発熱などがあり、無症状ではない。

自民党の高鳥修一衆院議員は38.4℃の発熱があり、羽田雄一郎参院議員の38.6℃とほぼ変わらないことを考えれば、投稿で「高熱」の表記が無いのは整合性に欠ける(38.5℃の桜井氏や39℃台の小川氏も表記無し)。共産党の清水忠史衆院議員に関しては、自宅療養していたのは事実だが、検査で陽性が判明したのは症状が治まった後である(保健所の指示で一時ホテルでも療養)。

桜井充参院議員は無所属ではあるが感染前に自民系会派に移籍しており、野党側のグループに含めるのは適切ではない。

その他にも、高鳥氏の感染は2020年9月と他の議員(同11月~2021年1月)より時期が早く病床の逼迫度が比較的低かったこと、竹本氏は80歳と高齢であったこと、石原氏は不整脈の既往症を理由に医師に入院を勧められたことなど、入院か自宅療養かの判断は様々な要因が複合的に関わる可能性がある。単純に結果だけを比較して優遇されているか否かを判断するのは難しい。

毎日新聞の検証記事も参照。


(2)「東京都感染率52%」

日付
1/28
発信者
きっこ(ブロガー)
媒体
Twitter
拡散数
2500RT
内容
東京都、1894人検査して973人が陽性って、感染率52%じゃん。」などとする投稿
【検証】検査数は曜日によってばらつき 7日間平均値は8.1%

投稿の前日、1月27日15時時点で東京都が発表した速報値では、新たに新型コロナウイルス感染が確認された人は973人。「参考」として1月24日の検査実施件数が1894と記されていた(その後1947件に更新)。1894件中973人で約51.4%と計算したようだが、これは検査陽性率を正しく表していない。

一般的にPCR検査は結果判明までに3日程度かかると言われているが、必ずちょうど3日後に結果が出るというわけではない。都の発表でも3日前の検査実施件数について「この検査結果と本日の報告数が一致するものではない。」と注記されているように、2日前や前日などに検査が行われたものも陽性判明者数に含まれる可能性がある。

ハフポストの取材に対し都の担当者は、検査数は曜日によってばらつきがあること、最近は検査体制が向上し検査翌日に結果が集計されることもあることなどを説明している。現に、24日は毎週検査件数が少なくなることの多い日曜日であり、翌25日月曜日には13092件、26日火曜日には10960件と急増している(いずれも速報値)。

このうち実際に27日の数字に反映された検査の件数は、都の特設サイトで公開されているPCR検査・抗原検査の陽性・陰性者数(結果判明日基準)から知ることができ、684+81+7932+1629で計10326件となる。この日だけで見れば陽性率は約9.4%ということになるが、都ではより実態に近い感染状況を把握するために上述の曜日によるばらつきを平準化し、7日間の移動平均値を基にした8.1%という数字を発表している。


(3)「トランプがバイデンに残した手紙」

日付
1/21
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
5800RT
内容
トランプがバイデンに残した手紙。 2021年1月20日 ジョー、俺が勝ったの知ってるだろ?」とする画像付きの投稿。
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)
【検証】紋章や形式が異なる 退任時の手紙は非公開

「Joe, you know I won.(ジョー、あなたは私が勝ったと知っているはずだ)」とだけ書かれた手紙風のこの画像は、現地時間1月20日に職を退いたアメリカのドナルド・トランプ前大統領がジョー・バイデン新大統領に送ったものとして拡散されたが、事実である可能性は低い。

アメリカでは退任する前大統領が新大統領に手紙を送るのが慣例となっており、トランプ氏からバイデン氏へも手紙が残されていたとされるが、その内容は公開されていない

また、トランプ氏が大統領在任中に各国の要人などに送った手紙は様々なものが公開されているが、紋章や日付の書き方などがいずれも上掲画像とは異なっている(参照)。

詳細はBuzzFeedによる検証記事を参照。


(4)「バイデン就任式で牧師『ドミニオン イン パワー』」

日付
1/21
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2500RT
内容
バイデンの就任式に出てきた変な牧師さん 酔っ払ってるのか?クスリでラリってるのか? 異常なハイテンションで バイデンに向かって 『ドミニオン イン パワー!!』 これで民主党はドミニオンで票を改ざんして 未来永劫、大統領を勝ち取るのでしょう!」とする動画付きの投稿。
引用
【検証】聖書の言葉の引用

この映像は、牧師のシルベスター・ビーマン氏がバイデン新大統領の就任式で述べた祝祷を映したもの(映像4:43頃~)。該当部分は実際には「To your glory, majesty, dominion and power, forever.」と言っている。ここでの「dominion」は「(神による)支配の力」を意味し、文全体では「あなたの栄光、威厳、力、権威が永遠にありますように」という神に捧げる言葉である。

この文言はそもそも新約聖書「ユダからの手紙」の引用(参考12)。大統領選で選挙不正に使われたとトランプ氏らが主張するドミニオン社の集票機とは何ら関係は無い。

同じ映像に関しては、ジャーナリストの篠原常一郎氏も「ドミニオン票集計機による『勝利』を神に感謝するバイデン・サポーター牧師」などと投稿していた。


(5)「トランプ政権でワクチン分配計画なし」

日付
1/23
発信者
CNN
媒体
Web記事
拡散数
Twitterで約900RT
内容
トランプ政権でワクチン分配計画なし、新政権がゼロから作成」と題し、「トランプ前政権から引き継ぐべき新型コロナウイルスのワクチン分配計画が何もない状態が判明し、バイデン大統領率いる新政権がいちから築き上げる手間を強いられていることが23日までにわかった。」などとする記事(追記済み、キャッシュ)。
【検証】新政権担当者が否定 計画は既報

記事は映画評論家の町山智浩氏の投稿などによって拡散されていたが、トランプ政権下でワクチン分配計画が全く存在しなかったというのは事実ではない。

トランプ政権は、2020年5月には新型コロナウイルスワクチンの開発・供給に関する「ワープ・スピード作戦」を発表。このことはCNN自身も当時報じていて、「ワープ・スピード作戦では今年11月までに1億回分、12月までに2億回分、来年1月までに3億回分のワクチン供給を目標とする(ただし実現は不可能かもしれない)。」などと伝えている

アメリカ国立アレルギー感染症研究所所長で、トランプ・バイデン両政権で首席医療顧問を務め新型コロナウイルス対策にあたるアンソニー・ファウチ氏は現地時間21日の記者会見で、ワクチンの分配に関し「ゼロから始めるわけではない(we certainly are not starting from scratch)」などと説明した。

CNN記事でも24日頃にこのことが追記され、「ファウチ氏は『配布で現在継続中の活動がある』と述べ、バイデン政権は既存の取り組みを大幅に拡充していると言及。『新しいアイデアも出てきていて、前政権からのアイデアもいくつかある。それが全く使い物にならないというわけではない』と言い添えた。」といった記述などが大幅に追加されたが、記事が更新されたことについて注記などは無い。

トランプ政権下では医療従事者や高齢者を中心に1000万人以上がワクチンを接種。一方で、新政権のロン・クレイン首席大統領補佐官は、介護施設や病院以外への分配計画は前政権で実質的に存在しなかったと批判している

詳細はSnopesによる検証記事も参照。


(6)「安倍総理になってから覚醒剤密輸摘発が民主党時代の150倍」

日付
1/11
発信者
橋本琴絵(政治活動家)
媒体
Twitter
拡散数
1200RT
内容
安倍晋三総理になってから覚醒剤密輸摘発が増えているのです。民主党時代の150倍。」などとする投稿
【検証】平均摘発件数やや増加も150倍は誤り

覚醒剤を含めた不正薬物密輸取り締まり状況は、税関を統括する財務省によって公開されている(過去の資料はアーカイブで閲覧可能)。

民主党政権は2009年(平成21年)9月から2012年(平成24年)12月までなので、平成22~24年のデータを見てみると、覚醒剤密輸摘発数は年間141~185件。年によって増減があるが、平均では年間約159.3件となる。

その後の安倍政権期は2020年(令和2年)9月まで。令和元年のみ425件と突出しているが、その他の年は年間83~174件でやはり増減を繰り返している。平成25~令和元年の平均は180.0件で、民主党時代よりやや多いとは言えるが、「150倍」は誤りだ。なお、令和2年に関してはデータは6月までしか無いが、摘発数は前年同時期の20%と激減している(新型コロナウイルス感染症による渡航制限の影響と思われる)。

不正薬物全般の摘発件数で見たとしても、安倍政権期は民主党政権期より増加の傾向(平成27年の法改正などの影響)とはいえ、150倍にはなっていない。

なお、同じ投稿で橋本氏は「トランプ大統領になってから人身売買逮捕者が増えている」とも述べているが、これも誤り。詳細は本連載先週号での解説を参照のこと。


(7)「冬眠で凍るカエル(画像)」

日付
1/12
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1.8万RT
内容
アメリカアカガエルは冬季、完全な冬眠に入り、心臓も完全に停止する。心臓、肺、脳は完全に凍ってしまう。春になると溶け出し、息を吹き返す」とする、画像付きの投稿。
引用
【検証】凍結状態で冬眠するカエルは実在 画像は作り物か

投稿の文章はナショナルジオグラフィックからの転載で、アメリカアカガエル(カナダアカガエルとも) が凍結状態で冬眠し生存するという説明自体は事実である(参照)。

しかし、その名が示す通りアメリカアカガエルは赤褐色のカエルで、上掲画像のような鮮やかな緑色ではない。Snopesが指摘しているように、恐らくこれは庭用の置物などの作り物だろう。


(8)「英女王『クイーンを聞きましょう』(画像)」

日付
1/12
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2万RT
内容
イギリスから。『”ステイホーム。クイーンを聞きましょう。私ではなく、ロックバンドの方ね』 」などとする画像付きの投稿。
引用
【検証】コラージュ画像

イギリス女王エリザベス2世がロックバンド「クイーン」を勧める巨大広告を出したかのようなこの画像は、コラージュ画像作成ツールで作られたものと思われる。

コラージュの元は、2020年4月にロンドン・ピカデリーサーカスの巨大スクリーンに映し出された女王からのメッセージ。元画像は「いつかまた友人や家族と会える日が来ます」といった内容のメッセージで、これ以外にもコロナ禍に苦しむ国民へ向けたいくつかの言葉がスクリーンに表示されるようになっているが、ロックバンドの「クイーン」に関するものは実際には無い。

上掲の投稿者は単にジョークとして画像を投稿した可能性もあるが、これを実際に女王が送った粋なメッセージと受け取る反応も多かった。

 

(過去の回をまとめて見たい方はこちらから。)

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