新型コロナが最初に猛威をふるった中国。その中国はこの深刻な感染症にどう向き合い、内外にどのような情報を出していたのか検証する。4回目は20年1月1中旬。そして2人目の死者が発表される。(宮崎紀秀、池雅蓉)
武漢市の衛生健康委員会は1月16日、前日(15日)の0時から24時間までに新型コロナウイルスの新規感染者は確認されなかったと発表したものの、すでに把握していた感染者から2人目の死者が出た事実を明らかにした。死者は69歳の男性だった。同健康委員会は、死者とその症状について、以下のように発表した。
死者は熊某、男性、69歳、2019年12月31日発症、2020年1月4日に病状が悪化し、武漢市金銀潭病院に転院させ治療、入院時に重度の心筋炎(心筋逸脱酵素が正常値の20倍、心電図異常)、腎機能異常、多臓器における重度の機能障害が認められ、胸部CTが肺腺維症の病巣と胸水、胸膜肥厚を示したことから肺結核及び結核性胸膜炎が考えられ、1月15日0時45分に死亡。
熊某という名前の69歳の男性が転送された金銀潭病院とは、感染症の専門病院。医師や設備は申し分なく、治療にはあゆる手を尽くしたはずだが、望ましい結果は得られなかった。こんなところからも、未知の感染症の不気味な脅威が滲んだ。
16日の発表時点で、感染者の人数は延べ41人、うち治癒退院した患者は12人、重症者は5人、死者はこの熊某を含む2人となった。
1月11日の発表以来、感染者数は41人のまま、ほぼ1週間横這いだったが、武漢市衛生健康委員会は1月17日付(HPへの掲載時刻は18日0時10分)で、新たに4人の感染確認を明かした。
データの改竄や隠蔽の可能性については、ここでは検証しきれず問わない。データの信憑性は別の問題とすれば、このように武漢市当局は、早い段階から感染の広がりを数字で明らかにはしている。ただ、その発表が、新型コロナウイルスに対する警戒を促し、庶民の命を救うために役立ったか否かという点から振り返れば疑問は残る。
以下に示したのは、17日付の発表の冒頭部分をそのまま訳した内容。果たして、一読しただけで、感染が広がりつつあるという印象を抱くだろうか。通常の発表なら、「感染者が増えた」という事実を冒頭に記すが、この発表文は「退院者が3人」「死者は増えていない」などという内容から始まっている。武漢市当局の奮闘により、「患者を退院させ、死者を出していない」点に重きを置き、むしろ「感染者が増えた」という事実の印象を薄めようとしたと勘繰るのは、意地悪な見方だろうか。
2020年1月16日の0時から24時までに、3人が治癒・退院、新たな死者はいない。国、省と市の専門家が、患者の臨床症状、疫学的病歴、実験室での検査結果などを総合的に判断し、我が市で、新たに4人の新型コロナウイルス感染による肺炎が確認されたため、現在、新たな感染者は武漢市金銀潭病院において治療中。病状は安定しており、重症者はいない。感染者の発症は1月5日から8日に集中しており、関係する流行病学的調査と濃厚接触者の追跡を行なっている。
またこの日の発表では、タイ、日本でもそれぞれ1人、いずれも武漢へ訪問歴のある人に感染が確認された事実に触れた。日本で初めて確認された感染者、武漢滞在歴のある神奈川県在住の30代男性については、16日に厚生労働省がすでに発表していた。新しい情報ではなかったが、武漢市衛生健康委員会が日本の感染例について触れたのは初めてだった。
同健康委員会は上に触れた感染状況に関する発表とは別に、「防疫作業の関する状況」(HPへの掲載時刻は18日0時13分)を発表し、4人の新たな感染者の状況などについて補足した。
2020年1月16日、省と市の専門家は、患者の臨床症状、疫学的病歴、国が配布した診断キットの検査結果に基づき、新たに4人の新型コロナウイルス感染肺炎患者を確認した。4人はいずれも男性で、2020年1月5日から8日までに発症し、1月8日から13日の間に入院治療し、治療の結果、症状は好転し病状は安定、現在は武漢市金銀潭病院に転送され集中治療を受けている。
先にも触れた通り、1月11日の発表以降、感染者は41人のまま推移し、その感染者について同衛生健康委員会は、いずれも1月2日以前に発症したと説明していた。つまりこれまでの説明では、1月3日から15日まで新型コロナウイルス感染者の発症は1人も確認されていなかったはずだった。新型コロナウイルスの感染力の強さを考えれば、1月3日以降、13日間に亘り発症者が確認されなかったという状況は、容易には信じがたい。実際、ここにきて、突然、5日から8日に発症した患者がいた事実を明らかにしたわけだ。この事実は、これまでの説明と矛盾しているように思えるが、同衛生健康委員会としては、その発症者が「1月16日になって初めて新型コロナウイルスの感染者と分かりました」と説明しているので、整合性は取れているという見解なのだろう。
若干、辻褄合わせのように見えなくもないこの4人の感染者の増加を明かした以降、同衛生健康委員会が発表する新たな感染者数は、堰を切ったかのように急増していく。
〈1月18日付(HPへの掲載時刻は19日0時43分)の発表〉
2020年1月17日0時から24時までに、4人が治癒・退院、17人が新規感染、死者は無い。
ただ、この日の発表は、感染者数の増加以上に注目すべき事実に触れていた。
以前に発表された新型コロナウイルス感染症肺炎の疫学的データを解析したところ、一部の患者は、華南海鮮卸売市場に訪問歴がなかった。事前検査によるトリアージと発熱外来での診察をルール化した上で、最適な検査キットを用いた、市内の発熱外来で隔離治療された原因不明の肺炎患者に対するサンプリングとモニタリングの結果、合わせて17人から新型コロナウイルス核酸の陽性が検出された。臨床専門家による総合的な判断の結果、17人が感染確認とされ、武漢市金銀潭病院及び指定病院で集中治療中。新たな17人の感染確認患者のうち、3人が重症。
これまで、「少数の患者は市場への訪問を否定している」としながらも「大多数の患者は華南海鮮卸売市場への訪問歴がある」と説明し、この感染症が、基本的には、華南海鮮卸売市場を訪れた人に限定されているような認識を与えていた。しかし、当該市場への訪問歴がない患者が一定数存在している事実を認め、これまでの認識を改めたと言える。この時点で中国当局は認めていないが、これは人人感染の存在の可能性を示唆する事実でもある。
同衛生健康委員会は、同日付で(HPへの掲載時刻は19日0時43分)、新たな17人に関する年齢や症状に関する追加情報を発表した。
17人の患者のうち、男性12人、女性5人。60歳以下は9人、60歳以上が8人、最少年齢は30歳、最高年齢は79歳。発症日は2020年1月13日以前。最初の症状は発熱、咳、または咳を伴う発熱。3人が重症、その他の病状は安定しており、重篤で搬送不能の2人を除き、15人は武漢市金銀潭病院で集中治療を受けている。
17日24時までに、感染者は延べ62人に上り、治療中の重症患者は8人、死者は2人となった。この後、武漢の感染者は一気に急増する事態となる。