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廃棄されていた新型インフルエンザのワクチン契約書【ワクチンのファクト⑭】

廃棄されていた新型インフルエンザのワクチン契約書【ワクチンのファクト⑭】

ワクチンのファクト⑥」で報じたとおり、新型コロナのワクチン供給契約書は全て「不開示」となっている。実は、2009年の新型インフルエンザ問題の際にも、今回の新型コロナワクチンと同様、「特例承認」されたワクチンの接種が進められた。調べると、新型インフルエンザのワクチン供給契約書は既に廃棄されていた。(田島輔)

新型インフルエンザワクチン接種の経緯

2009年、いわゆる「新型インフルエンザ」が発生したが、この時にも特例承認されたワクチンの接種が進められた。厚生労働省の資料から、ワクチン接種の経緯を確認しておこう(参照)。結果的に、外国の製薬会社から輸入した新型インフルエンザのワクチンは大量に解約・廃棄される結果となった。

2009年10月6日 グラクソ・スミスクライン社(3700万人分)とノバルティスファーマ社(1250万人分)の2社と新型インフルエンザワクチンの購入契約を締結(1人2回接種)。契約金額は2社合計で、1126億円。
2010年1月15日 薬事・食品衛生審議会薬事分科会が、上記2社の新型インフルエンザワクチンの「特例承認」を可とする旨の答申。
2010年1月20日 厚生労働大臣が特例承認を決定。
2010年3月26日 グラクソ・スミスクライン社との間で、当初購入予定量(7400万回分)のうち、32%を(2368万回分)を解約(解約に伴う違約金なし)。

また、ノバルティスファーマ製のワクチンについても、92億円の違約金を支払って約840万回分を解約、約1660万回分(約214億円相当)は廃棄されたと報じられている(参照)。
なお、この新型インフルエンザのワクチンが、特例承認(他国で販売されている日本国内未承認の新薬を、通常よりも簡略化された手続きで承認し、使用を認める制度)を最初に受けた事例とのことだ(参照)。

供給契約書は既に廃棄

今回の新型コロナワクチンと同様、新型インフルエンザワクチンについても、製薬会社との間で、政府が製薬会社の損失を補償する契約を締結できることになっていた(新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済等に関する特別措置法第11条)。

もっとも、新型コロナワクチンの供給契約書は、製薬会社との秘密保持契約を理由に全て「不開示」となっている。

では、新型インフルエンザのワクチンの契約内容は公開されるのだろうか。情報公開請求を行ったところ、「5年間の保存期間満了により廃棄しており、開示請求のあった時点で保有していなかったため、不開示とした。」との回答だった。

グラクソ・スミスクライン社

ノバルティスファーマ社

契約内容は製薬会社にかなり有利な条件だったようであり、当時の野党である自由民主党の秋葉賢也議員からも、「法案審議の段階で、当該契約の詳細について明らかにした上で国会で審議を尽くすべきであったと思われるが、明らかにしなかった理由は何か。」など、契約交渉の過程に疑問が呈されていた(参照)。しかし、秘密保持契約を理由に契約の詳細は明らかにされていなかった。

そして、詳細が明らかになることなく契約書は廃棄されたということだろう。

2021年に健康被害が認定された事例も

厚生労働省で定められている契約書の保管期間を確認したところ、確かに契約書の保管期間は5年間となっていた(参照、33項)。しかし、わずか5年間の保管期間経過後に契約書を廃棄してしまって問題はないのだろうか。なぜならば、仮にワクチンに何らかの欠陥があった場合、製薬会社がワクチンを流通させてから10年間は、製薬会社に対し製造物責任に基づく損害賠償請求をすることができるためだ(参照)。また、民法上の不法行為責任を問えば、損害賠償請求可能な期間は最大で20年となる。

実際、接種から10年が経過した後に、新型インフルエンザワクチン接種と死亡との因果関係が認められる場合も存在している(2021年7月27日に因果関係が認定された事例〔参照〕。なお、死亡の原因が、輸入した新型インフルエンザワクチンか、国産ワクチンかは不明。)。そのため、接種から10年後にワクチンの欠陥が明らかになることも絶対にないとは言えない。

さらに問題なのは、前述のとおり、新型インフルエンザのワクチンに関しては、政府が製薬会社の損失を肩代わりする契約を締結している点だ。それを考えると、保管期間5年が経過したという理由で契約書を廃棄してしまうというのは、あまりに早計ではないだろうか。

厚生労働省への質問の回答

そこで、インファクトでは、担当部署である健康局結核感染症課パンデミック対策推進室に対し、新型インフルエンザのワクチンの契約書について問い合わせを行った。

Q 新型インフルエンザワクチンの契約書を廃棄したのは具体的にいつなのか。
A 厚生労働省の規定では、契約締結日の次年度から5年間で契約書を廃棄することになっています。新型インフルエンザワクチンの契約書は平成21年10月6日に締結されたので、保管期間は平成27年3月31日まででした。
そのため、平成27年4月1日以降に廃棄されたはずですが、具体的な日時は不明です。

契約締結日の次年度から5年で廃棄することは、前述の製造物責任等に基づく賠償請求の期間からすると短すぎるようにも思える。また、数年間の秘密保持の期間が定められているとすれば、秘密保持の期間終了から5年間の保管期間を開始すべきではないかとの疑問もある。その点についても確認した。

訴訟の問題もあるとは思いますが、厚労省としては、時効期間については考慮せず、あくまで厚生労働省の規定にしたがって廃棄を行っています
また、秘密保持期間の経過後から5年間は保管するという考え方もあると思いますが、その点は、相手方企業との交渉の結果によります。

厚生労働省の説明通りであれば、新型コロナのワクチンの契約書についても、秘密保持期間が経過したかどうかも不明なまま、契約締結日からわずか5年間で廃棄されてしまう可能性がありそうだ。

新型コロナのワクチンは2021年に契約締結されてるため、2027年4月1日以降には契約書が廃棄されてしまうことになる。

さらに厚生労働省に質問を続けた。

Q 新型コロナワクチンの供給契約書についても契約締結から5年間で廃棄になるのか。
A 新型コロナウイルスについては、歴史的な事態なので、文書は全て国立公文書館に移管して永久に保存するよう内閣官房から通達がでています。
そのため、新型コロナワクチンの契約書も永久に保存されると思いますが、保存する文書にするかどうかを決めるのは健康局健康課予防接種室であるため、こちらでは分かりません。
 

確認したところ、2020年3月10日に、「今般の新型コロナウイルス感染症に係る事態は、行政文書の管理に関するガイドラインに規定する「歴史的緊急事態」に該当するものとする。」と閣議で決定されており(参照)、事態の対応に関連する文書は保存期間満了後も国立公文書館等へ「移管」することになっていた(参照)。

契約内容を検証する必要は?

つまり、新型コロナのワクチン契約書については廃棄されずに永久に保管される可能性が高いとの説明だ。しかし、一方で、新型インフルエンザのワクチン契約書は廃棄されていたことが今回明らかになった。それを考えると、本当に保管されることになるのかどうかは疑問は残る。また、仮に廃棄されないとしても、秘密保持期間の経過後、契約書の内容が公開されない可能性も否定できない。


新型インフルエンザのワクチン契約書のように廃棄されることなく、新型コロナのワクチン契約書が公開され、その内容や交渉過程が本当に合理的なものだったかどうか検証していかなければいけない。

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