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【新田義貴のウクライナ取材メモ2024⑦ ドローン部隊の女性兵士】 

【新田義貴のウクライナ取材メモ2024⑦ ドローン部隊の女性兵士】 

この戦争で多用されているドローン。ニュースでも頻繁に「ドローンによる攻撃」が報じられている。では、実際にドローン攻撃を行っている部隊とはどういうものなのか。新田義貴はその現場に足を踏み入れた。(取材/写真 新田義貴)

2月6日、ゼレンスキー大統領は無人航空機や無人艇に特化した「無人兵器軍」を創設する大統領に署名したと発表した。今回の戦争では無人航空機(ドローン)が、かつてないほど重要な役割を担っている。

その発表から2週間余り経った2月22日、僕たちはウクライナ軍のドローン部隊の取材に向かった。ドネツク州スロビヤンスクのホテルを出発したのは午前4時。敵のドローンに見つからないようなるべく暗いうちに移動する。車は雪の降るなか真っ暗な田舎道を走る。

待ち合わせ場所には一人の兵士が待っていた。通訳のセルヘイの友人で、名前をユーリといった。テレビカメラマンであるセルヘイの仕事仲間で、元々はテレビ局のプロデューサーだという。今はドローン部隊に所属している。テレビや映画の関係者はドローンなどの映像機器の扱いに慣れているため、多くがドローン部隊に動員されているのだという。国こそ違えど自分もそうした業界の一員だ。自分のスキルがそんな形で戦場で重宝されるのだと知り、複雑な気分になる。

彼らの車に乗り換え1時間ほど走ると、ヤムピリという町の近郊の森の中にあるドローン部隊の前線基地に到着した。ようやく夜が明けてきた。周囲からは砲撃音がひっきりなしに聞こえている。

ふと見ると、ドローンが目の前の木立を抜けて飛び去って行った。

「偵察用のドローンだ」

ユーリが説明してくれた。

その説明を聞いて驚いたことに、そのドローンは僕たちが日常的に撮影で使っているDJIという世界シェア1位の中国メーカーのものだった。

「マービック」という機種だ。映像業界ではよく使われている機種で、価格は20万円ほど。地面に掘られた穴の中にドローンの操縦士がいると聞き、身をかがめて中に入る。中には男女2人の兵士が並んで座り、ドローンから送られてくる空撮映像をモニターで見ながらコントローラーで操縦している。地上にいるロシア軍の基地や戦車や兵士などを探しているのだという。

こうした偵察用ドローンで敵を見つけると、その情報を元に攻撃用ドローンもしくは戦車部隊や砲撃部隊が攻撃する。下の写真がそれだ。攻撃用ドローンというが、ドローンに小型の爆弾が装着されただけのものだ。これが戦車を攻撃し当然、兵士を殺傷する。

女性兵士がモニターを見て何かを言った。どうやら、ロシア軍の装甲車両を見つけたようだ。すぐさま無線で本部へ連絡し攻撃位置を伝えている。兵士は軍服こそ着ているものの、それはまるで穴蔵の中で友人で集まってテレビゲームをしているような不思議な光景だ。一瞬、ここが危険な戦闘の最前線であることを忘れてしまう。否、これが現代の戦争なのかもしれない。彼らはまさに「無人兵器軍」の軍人なのだ。

地上に出て、攻撃用ドローンも見せてもらった。こちらもまた簡易的なドローンに小さな爆弾を装着しただけのものだ。爆弾は落とすのではなく、このまま敵に体当たりするのだという。兵士たちはこうした攻撃用ドローンを「カミカゼ」と呼んでいた。その呼び名をどう理解してよいのか、日本人としては複雑な心境になる。

たった数十万円のドローンで、場合によっては数百万円から数億円もする敵の戦車を破壊することも可能だろう。しかも無人機のため味方の兵士の損害はない。兵士や武器弾薬不足が深刻とされるウクライナ軍で、ドローンが重宝されるのも無理はない。

地上に出てきた女性兵士に話を聞いた(サムネイルの写真)。さきほど、ロシア軍の装甲車両を見つけた彼女だ。名前はタチアナ・ボンダレンコ。部隊ではボンドという愛称で呼ばれている。英国の諜報部員ジェームス・ボンドが活躍する映画“007”にちなんでつけられたという。

流暢な英語を話す明るく聡明な女性で、しかもとても愛嬌がある。話を聞いているうちにすぐにその理由がわかった。彼女はキーウを拠点に映画や舞台で活躍していた女優なのだという。下が女優時代の写真だ。戦争が始まると、「ウクライナの人々の役に立ちたい」と考えすぐにドローン部隊に志願した。若い頃から舞台上でも「強い女性を演じたい」と考えていたという。いまその夢がかなって、毎日が充実しているのだとボンドは目を輝かせながら語った。

前線基地の兵士たちに別れを告げてドローン部隊の本部を訪れた。そこで、先ほど「ボンド」が偵察ドローンで見つけたロシア軍装甲車を砲兵部隊が砲撃で破壊した瞬間の映像を見せられた。あっというまに車両は炎に包まれ木っ端みじんに吹き飛ばされた。まさに現実感の薄いバーチャルな現代の戦争の姿がそこにあった。

戦争が終わったらボンドは再び女優に戻るのだろうか。そのとき彼女は客の前でどのような演技を見せるのだろうか。帰り際にドローン部隊の兵士たちにサイン入りのウクライナ国旗をプレゼントされた。テクノロジーの進化とともに、戦争はどこまで変貌を遂げていくのだろうか。国旗をながめながら、生身の人間が死んでいく現実感が失われつつある現代の戦争の姿に冷たい恐怖を憶えた。

(つづく)

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