新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、政府が中国・武漢に帰国を希望する日本人のためのチャーター便を派遣した。そうした中、橋下徹・元大阪市長がツイッターで「邦人感染者が法的根拠もなくチャーター便搭乗を拒否された」と政府の対応を批判し、大きな反響を呼んだ。しかし、調べてみると、事実は異なっていた。感染拡大防止のため様々な議論が行われているが、事実に基づいた冷静な議論が必要だ。(楊井人文)
チェック対象 (新型肺炎)邦人帰国のチャーター便に乗れず武漢に残された日本人がいるとの報道があった。… 今回の邦人感染者のチャーター便搭乗拒否は、法的根拠がなくてもやる。日本人を守るという意識が日本政府に弱い。(2020年1月25日、橋下徹氏(弁護士、元大阪市長)のTwitter投稿) |
結論 【誤り】日本人2名が帰国チャータ便に乗れなかったことは事実だが、日本側が搭乗拒否したのではなく、中国・武漢の空港での検疫所で感染の疑いが判明し、中国側が出国を認めなかったことにより搭乗できなかった。 |
どうも役人の判断はおかしい。ここまで機内の感染を恐れるなら、まず中国人観光客の入国を保留しなければならないのに、それは法的根拠がないからといってやらない。ところが今回の邦人感染者のチャーター便搭乗拒否は、法的根拠がなくてもやる。日本人を守るという意識が日本政府に弱い。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) January 30, 2020
検証
橋下徹氏(Twitterフォロワー約215.4万人)は1月30日朝、「邦人帰国のチャーター便に乗れず武漢に残された日本人がいるとの報道があった」と指摘した。この投稿を引用してまとめただけの記事がYahoo!ニュースに配信され(デイリースポーツ、スポーツ報知)、大きな反響を呼んだ。
30日に帰国したチャーター便(第2便)に、2人の日本人が乗れなかったことは事実だ(30日朝の日本テレビ参照)。だが、日本政府または航空会社側が搭乗を拒否したわけではない。
この2人は中国・武漢の空港の検疫所で感染が疑われる症状が判明し、中国側の判断で出国の手続きができなかったものだという。国土交通省に取材したところ、航空事業課の担当者が「2人とも中国側の検疫の検査で止められ、出国手続きができなかったという事実を確認している」と明らかにした。
毎日新聞も「武漢の空港では発熱などの症状があった2人が中国側の検疫で出国が認められなかった」と報道。31日帰国の第3便も、同様に中国側の検疫で出国が認められず、搭乗できなかった日本人がいたことが報じられた(読売新聞「第3便が羽田到着、中国側検査で一部搭乗できず…現地にまだ140人」)。
中国側の検疫検査、出国手続きを通過した後も、日本政府が派遣したチャーター便の機内で検疫を行っている(NHK、読売新聞参照)。この機内検疫で感染の疑いが判明したため、搭乗を拒否されたとの情報は見あたらない。
したがって、日本側が感染者のチャーター便の搭乗を拒否したという事実はないと言える。
なお、橋下氏に所属の法律事務所を通じて見解を求めたが、現時点で回答は得られていない。
結論
中国側の検疫で出国手続きできなかった日本人がいたことは事実だが、日本側がチャーター便の搭乗を拒否したという事実は確認できない。よって、橋下氏の「今回の邦人感染者のチャーター便搭乗拒否は、法的根拠がなくてもやる」という主張は前提事実に「誤り」があったと言える。
(冒頭写真:中国・武漢の空港でのANA機。本件のチャーター便ではありません)