朝日新聞は布マスクの効用をめぐり、WHOが「布マスクはどんな状況でも勧めない」と助言しているとの記事を公開した。本当にそのような案内をしているのか、引用元と思われる文書の内容を確認した。(篠原修司)
チェック対象 布マスクは有効? WHOは「どんな状況でも勧めない」 WHO(世界保健機関)は、新型コロナ感染拡大期における布マスク使用について「いかなる状況においても勧めない」と助言している(朝日新聞 2020年4月2日) |
結論 【ミスリード】WHOが「布マスクはどんな状況でも勧めない」と案内している文書は、医療従事者ら専門家に対するもの。その点に触れず、一般人にも勧めないとの見解であるかのように誤解を与える。 |
布マスクは有効? WHO「いかなる状況でも勧めない」 #新型肺炎 #新型コロナウイルス https://t.co/Dt0beeefrN
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) April 2, 2020
検証
朝日新聞は4月2日に公開した記事で、政府が配布を表明した布マスクの効用について専門家の意見を掲載した。
そのなかで、WHOは「布マスクを勧めていない」と紹介した。
WHO(世界保健機関)は、新型コロナ感染拡大期における布マスク使用について「いかなる状況においても勧めない」と助言している。
WHOの文書は医療従事者向け
引用元とみられるWHOの文書は、「新型コロナウイルス(COVID-19)に関わるコミュニティ(地域)、在宅ケア、および医療現場でのマスク使用に関するアドバイス 暫定ガイダンス 2020年3月19日改訂版」。たしかに「布マスクはどのような状況でもお勧めしない」と書かれている。
Cloth (e.g. cotton or gauze) masks are not recommended under any circumstances.
仮訳:布(例えば綿やガーゼ)マスクは、どのような状況でもお勧めしません。
ーWHO文書(3月19日版)。なお、サイト上のWHO文書は現在、4月6日版に改訂されている(後述)。WHO神戸センター非公式日本語訳も参照
ところで、この文書(3月19日版)は、冒頭で、「医療従事者」などの専門家を対象に、「医療用マスク」(medical masks)についてアドバイスするものだと明記されている。
This document provides rapid advice on the use of medical masks in communities, at home, and in health care facilities in areas that have reported outbreaks of COVID-19. It is intended for public health and infection prevention and control (IPC) professionals, health care managers, health care workers, and community health workers.
仮訳:本書は、COVID-19 のアウトブレイクが報告されている地域における、地域、家庭および医療現場での医療用マスクの使用に関する迅速な助言を行うものである。本書は、公衆衛生関係者、感染予防と制御(IPC)の専門家、医療施設の管理者および医療従事者、地域の保健医療従事者に向けて書かれている。
実際、「マスク管理」(mask management)という項目では、まず、医療用マスクの使い方についてアドバイスしている。その後に、「布マスクの使用はいかなる状況でも勧めない」という記述が出てくる。この記述は、医療従事者を対象に布マスクの使用を否定したものであることは間違いないが、これをもって、一般人にも布マスクの使用を否定したものとは、必ずしも言えない。
WHO文書は4月6日に改定
このWHO文書は4月6日に改訂された。冒頭の記述は「医療用マスク」(medical mask)から「マスク」(mask)と変更され、「一般人」(individuals in the community)も対象にする、と明記された。
また、「マスク管理」という項目から「布マスクは勧めない」という記述が削除され、代わりに、「どのような種類のマスク」でも「適切な使用と廃棄が不可欠」という記述が追加された。
For any type of mask, appropriate use and disposal are essential to ensure that they are effective and to avoid any increase in transmission.
仮訳:どのような種類のマスクでも、それらが効果的であることを保証し、伝染の増加を避けるために、適切な使用と廃棄が不可欠です。
ーWHO文書(4月6日改訂版)
「どのような種類のマスクでも」と強調していることから、「布マスク」も例外ではないと考えられる。
「マスク管理」という項目から「布マスクは勧めない」という記述が削除された代わりに、「医療現場」(Health care settings)という項目で、「医療従事者」(Health care workers)に向けて「布マスク」についての記述が追加された。
One study that evaluated the use of cloth masks in a health care facility found that health care workers using cotton cloth masks were at increased risk of infection compared with those who wore medical masks. Therefore, cotton cloth masks are not considered appropriate for health care workers.
仮訳:医療機関での布マスクの使用を評価したある研究によると、綿製の布マスクを使った医療従事者は、医療用マスクを使った場合に比べて感染リスクが高まることがわかった。それゆえ、綿製の布マスクは医療従事者にとっては適切ではないと考えられる。
ーWHO文書(3月19日版)
このように、布マスクを医療従事者に限定して推奨していない立場は、3月19日版の文書と変わっていない。
結論
WHOが、「布マスクの使用をいかなる場合でも勧めない」との見解を示したのは医療従事者に対してであり、一般人に対してではない。その点について誤解を与えるため、「ミスリード」と判定した。
(訂正) 冒頭の結論部分で、「WHOが『布マスクはどんな状況でも勧めない』と案内している文書は、医療施設や在宅で患者を管理する医療従事者に対するもの」との記述を「・・・文書は、医療従事者ら専門家に対するもの」に訂正しました。