新型コロナワクチンに関しては推進する観点で政府が広報活動に取り組んだことが明らかになっている。「新型コロナワクチン広報プロジェクト」がそれだ。それは透明性のある取り組みだったのか?。InFactが情報公開請求等を通じて調べた結果、透明性は薄く、何が行われたのかわからない実態が浮かび上がった。(田島輔)
「黒塗り」の資料の数々
前回の記事では、ワクチン広報プロジェクトの「透明性」が確保されているか否かを、ファクトチェックした。
結論としては、開示された資料は「黒塗り」ばかりであり、広報プロジェクトの「透明性」は、十分とは言えなった。
今回は、InFactが情報公開請求等を通じて収集した、新型コロナワクチン広報プロジェクトの資料を公開する。
開示された、黒塗りの「提案書」や「報告書」の数々を実際に確認し、新型コロナワクチンに関する情報開示の在り方を、読者も「ファクトチェック」してみてほしい。
新型コロナワクチンマーケティング調査(期間:2021年1月25日~3月31日)
新型コロナワクチンに関する広報活動の起点となっているのが、ワクチンに関するマーケティング調査だ。
これは、新型コロナワクチンを「国民が自分自身で接種に関する判断を行うことを可能にするための情報提供方法を検討し、最適な情報提供資材等を制作する」ことを目的とした調査だ(仕様書の1p)。
もっとも、実施された「定性調査」・「定量調査」の結果は、「黒塗り」ばかりでほとんど分からない。
開示された資料の中で、本マーケティング調査の結果作成された、「情報提供資材」であると思われるのは、「新型コロナワクチンポスター」だけだった。マーケティング調査に基づく広報資材が、このポスターだけだとは考えにくい。
新型コロナワクチン広報プロジェクト(期間:2021年2月16日~現在)
上述のマーケティング調査の結果も踏まえて始まった、と考えられるのが「新型コロナワクチン広報プロジェクト」だ。
プロジェクトの各仕様書を確認すると、以下の事業が共通して実施されている。
①プロジェクト全体の管理・戦略的広報支援
②新型コロナウイルスのワクチンに関する特設サイトの制作・運用支援
③厚生労働省SNSの運用支援
④マスメディアを通じた効果的な広報の実施
(ア)プレスリリースの作成・発信支援
(イ)記者勉強会、記者会見等における関係資料の作成と現場支援
⑤非科学的な情報等に対する対処
(ア)マスメディアへの対処
(イ)SNS上で広く拡散されている誤情報等の対処
実施された内容で、特に重要なのは、「(4)マスメディアを通じた効果的な広報の実施」と「(5)非科学的な情報等に対する対処」だろう。
各広報プロジェクトの資料は以下で公開する。ただし、各広報プロジェクトの「報告書」はほとんど黒塗り又は完全な不開示で内容は分からない。この点は、実際に「報告書」を確認してみてほしい。
新型コロナワクチン広報プロジェクト①(期間:2021年2月16日~3月31日)
広報プロジェクトの「透明性」をファクトチェックする上で、重要なのは、次の点だ。
まず、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の目的は、「正しい情報に基づいて、国民に安心してワクチン接種をしてもらうための世論形成を行い、定量的な国内の新型コロナワクチン接種数の増加を目指す」こととなっている(仕様書のp2)。
接種率向上に力点が置かれている以上、重篤な副反応や健康被害救済制度に関する周知は躊躇されたのではないか、との懸念はある。
しかし、繰り返しになるが、「報告書」はほとんど黒塗りであって、広報プロジェクトの内容についての検証は不可能となっている。
また、注目してほしいのは、プロジェクトのブレーンである「外部有識者」を務めるのが、「医療系インフルエンサー」であるとされている点だ(仕様書のp2)。「外部有識者」は新型コロナワクチン特設サイトのコンテンツ等について、アドバイスを行うことになっている(仕様書のp3)
ただし、「外部有識者(医療系インフルエンサー)」を選定した際の資料は黒塗りとなっていて内容は不明だ。
新型コロナワクチン広報プロジェクト②(期間:2021年4月1日~7月31日)
ワクチン広報プロジェクト②で注目してほしいのは、「見積書」だ。広報プロジェクト①の「見積書」の小項目は全面的に「黒塗り」となっていたが、こちらでは小項目の内容が開示されており、そこには「外部有識者アドバイザリー費用」と記載されている。
「外部有識者」には報酬が発生しているということだろう。
新型コロナワクチン広報プロジェクト③(期間:2021年7月26日~2022年3月31日)
次に重要なことは、厚生労働省は、仕様書で定められている「記者勉強会」(仕様書のp4)や「メディアへの申し入れ(書面または面談)」を実施していないと述べていることだ。
しかし、プロジェクト③の業務終了後の検査では「契約どおり相違ない」と確認され(検査調書)、契約当初に定められた契約金額6998万8600円(契約書)は、全額請求されている(請求書)。
本当に、厚労省記者勉強会等を実施していないのだろうか。それとも、厚労省以外の誰かが実施していたのだろうか?
また仮に、定められた業務が行われていないとすると、なぜ契約金の全額が支払われたのだろうか?そもそも、予定された業務が行われていないのに全額が支払われることに問題ないのだろうか?
新型コロナワクチン広報プロジェクト④(期間:2022年4月1日~2023年3月31日)
新型コロナワクチン広報プロジェクト⑤(期間:2023年4月3日~9月30日)
新型コロナワクチン広報プロジェクト⑥(期間:2023年9月28日~2024年3月31日)
透明性に基づいた議論が必要
以上が、InFactで収集した「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の資料だ。
接種率向上という政府の意向のため、報道機関がワクチンにネガティブな情報を報じにくい状況になっていなかったのか、政府の広報活動は適切だったのか。
しかし、「新型コロナワクチン広報プロジェクト」の内容はほとんど公開されておらず、この点の検証は不可能だ。
最後に、厚労省が「ワクチン広報プロジェクト」の資料を不開示としている理由の一つを添付する。
当該ワクチンに関する情報は国民の関心も高く、当該ワクチンの接種に批判的な人々も少なからず存在する中、これを公にすると、そのような批判的な人々により、科学的に根拠がない不正確な情報が拡散されたり、厚生労働省の事務に対する妨害行為が行われたりすることが懸念され、その結果、国民が接種を受けるかどうかを適切に判断する環境が損なわれ、ワクチン忌避の風潮が広まるなど、本事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
要は、「広報プロジェクトの情報が開示されると、新型コロナワクチンに関する批判等が起こり、ワクチン忌避の風潮が広まる可能性がある」ということだ。
だが、新型コロナワクチンへの賛成・反対以前に、情報公開がされない中、「国民が接種を受けるかどうかを適切に判断する環境」、つまり私たちがワクチン接種の是非について検討することは可能なのだろうか?
InFactはワクチン接種に反対でも賛成でもない。重要なのは、ワクチンへの賛否ではなく、議論の大前提として情報公開だ。
InFactでは今後も、ワクチン接種推進施策についてのファクトチェックを実施していく。
(冒頭画像:新型コロナワクチン広報プロジェクト①の提案書)